インターネット調査が短期間で大量のサンプルを集めることができる理由とは

インターネット調査が短期間で大量のサンプルを集めることができる理由とは

マーケティングリサーチの調査手法のなかで、インターネット調査は既に大きな割合を占めています。訪問調査や郵送調査など他の手法と比較して、インターネット調査は調査の迅速性とコスト面での優位性があります。

インターネット調査が短期間で大量のサンプルを集めることができるのは、アンケートサイトに登録したアクセスパネルを調査会社が大量に確保していることによります。

インターネット調査の仕組みとアクセスパネルを対象とするインターネット調査の特性について解説します。

インターネット調査とは

インターネット調査は、マーケティングリサーチをはじめとする社会調査全般において、調査主体と調査対象との間のやり取りをインターネットを介して行うものを指します。

インターネットが普及する以前は、企業や行政、研究機関が実施する社会調査は訪問や郵送、電話などの方法で行われてきました。社会生活のさまざまな場面で従来の通信手段がインターネットに置き換わったと同様に、調査の世界でも調査対象との通信手段としてインターネットを用いるケースが主流となりました。

インターネット調査は、アンケートなどの定量調査を行う方法として普及しましたが、近年ではビデオ通話が一般的になってきたこともあり、デプスインタビューなどの定性調査もインターネットを使って行われるようになってきました。また、会場調査やホームユーステストの調査対象を募集する窓口としての役割も果たしています。

インターネットを介して行う調査は従来の調査手法と比較して、非同期の通信でありながら即時性もあり、通信コストも低く抑えることができるなどのさまざまなメリットを持っています。

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インターネット調査の概況

インターネット調査は1990年代に実施されるようになり、2000年代に入ってインターネット調査専業の調査会社の参入が相次いだことで一気に普及しました。

一般社団法人日本マーケティングリサーチ協会によると、2021年度のアドホック調査(単発調査)の量的調査全体に占めるインターネット調査の割合(売上ベース)は74.7%となっています。

また、質的調査においてもグループインタビューの52.4%、デプスインタビューの74.4%がオンラインで実施されており、量的調査、質的調査の多くの割合がインターネットを使って行われています。

インターネット調査は他の従来の手法と比較して調査単価が低いことを考えると、調査数ベースではかなり多くの割合がインターネット調査に移り変わってきていると想定されます。

アドホック調査に占める各調査手法の売上高構成比(一般社団法人日本マーケティングリサーチ協会「第47回経営業務実態調査」から流用)

同協会の「インターネット調査品質ガイドライン 第2版 2020年5月」では、調査対象者がインターネット調査の回答時に用いるデバイスの種類として、スマートフォンが増加してきたことが挙げられています。

以下のグラフは、調査会社が組織する調査モニター(アクセスパネル)が、調査の回答に使用したデバイスのPCとスマートフォンの割合を示したものです。

インターネット調査の回答デバイス別構成比の変化と年代別構成比

時系列の変化を見るとスマートフォンを使用する割合は年々増加しており、2019年では56.1%と過半数を占めています。年代別の違いでは、10代では9割以上、20代では8割以上が調査の回答にスマートフォンを使用しており、若い世代ほどスマートフォンの使用率が高いことが顕著にあらわれています。

インターネット調査の種類

マーケティングリサーチの定量調査は、不特定多数の消費者・生活者からサンプリングにより調査対象を抽出する標本調査と、顧客満足度調査のような調査対象を特定することができる調査に分けることができます。

アクセスパネルを調査対象とする調査

アクセスパネルはアンケートモニターや登録パネル、調査モニターなどとも呼ばれ、アンケートに協力することを前提にアンケートサイトに登録した人を指します。

調査会社が主体となり運営するアンケートサイトは、アクセスパネルを募集するための窓口となり、共通ポイントなどを調査への協力に対するインセンティブを設けてアクセスパネルを集めています。

アンケート調査をはじめとする定量調査は、不特定多数の調査に協力する消費者・生活者を、ある程度の規模で確保することが必要になります。インターネット調査のアクセスパネルにインセンティブを設けて迅速に回答を収集できるようにした仕組みが、インターネット調査が普及した一因です。

調査実施主体が調査対象を特定できる調査

不特定多数の消費者・生活者を対象とする標本調査に対して、顧客満足度調査は自社の商品やサービスの購入者・利用者が調査対象となります。顧客や会員などのリストをアンケート調査の配信先とすることができるケースです。

インターネット調査が用いられる調査の種類としては、従業員満足度調査なども同様なケースといえます。

ほとんどの調査会社はアクセスパネルを対象とする調査だけでなく、調査主体が配信先リストを保有する調査にも対応しており、アンケートASPやホスティング調査、オープンリサーチなどの名称でサービスを行っています。

その他

インターネット調査は、メールアドレスや登録アカウントにもとづいたやり取りが可能であれば、調査への協力を依頼することができるため、上記の調査の種類以外にもさまざまなケースが考えられます。

  1. 自社のWebサイトへの問い合わせをした人に対してアンケートへの協力を依頼する(顧客満足度調査と同様な形態です)
  1. SNSから回答の募集を行う(不特定多数から調査への協力を募るパターンですが、一定規模のサンプルの収集が必要な場合には、どの程度の応募者を確保できるか見通しが立ちにくいことが挙げられます。)
  1. マーケティングリサーチを目的としたオンライン上のコミュニティであるMROC(Marketing Reserch Online Community)への参加者を対象にアンケートを行う

(MROCはブランドや商品カテゴリーなどが軸となるコミュニティです。調査のテーマが特定のブランドなどに限定されている点で、調査会社が受注したあらゆる調査に協力するアクセスパネルとは異なります)

アクセスパネルとは

インターネット調査の最も大きな特徴といえるのが、アクセスパネルの存在によって大規模なサンプルを短期間に収集できるということです。

調査会社はそれぞれにアンケートサイトを運営しアクセスパネルを確保しています。また、アンケートサイトによっては運営する調査会社が受注した調査だけでなく、他の調査会社や一般事業会社、研究機関などが実施する調査に対してもアクセスパネルを提供しています。

主要なアンケートサイトには以下のようなものがあります。

アンケートサイト名調査の種類ポイント
リサーチパネル調査依頼企業のHPでアンケートに回答、日記形式アンケート、海外企業が実施するアンケート、ホームユースアンケート、座談会ECナビポイント
キューモニター通常のアンケート、日記式アンケート、お買い物調査、製品テスト、会場アンケート、グループインタビューAmazonギフト、giftee、Boxnanacod point、ドットマネー by AmemaPeXG-pointなど
マクロミルのモニタサイトWebアンケート、日記形式アンケート、オンラインインタビュー、商品モニター座談会、会場調査商品に交換、換金して銀行振込、Amazonギフト、d-point、paypay、G-point、PeX、仮想通貨、寄付金
infoQWeb調査、オンラインインタビュー、会場調査、ホームユーステスト、日記調査GMOポイント、Amazonギフト、PointTown、ドットマネーby Abema、PeXG-point、LINEポイント、選べるeGift、GOMあおぞらネット銀行、PayPay銀行、住信SBIネット銀行、ゆうちょ銀行、楽天銀行、Child Fund Japan

インターネット調査の特性

訪問調査や郵送調査、電話調査と比較した場合のインターネット調査の特性は、インターネット通信と回答結果をデジタルデータとしてやり取りできる点から生まれます。それに加えて、調査対象者をアクセスパネルという形で常に確保していることが、従来の調査手法と最も大きく異なる点です。

インターネット調査が普及する以前から、訪問調査や郵送調査への協力者を調査パネルとして組織している調査会社はありましたが、アンケートサイトなどを通じてアクセスパネルを大規模に集める形が取られるようになったのはインターネット調査の普及と重なります。

従来の調査手法と比較した場合のインターネット調査の特性として以下のような点が挙げられます。

インターネット調査のメリットは簡便性・速報性・低コスト

紙ベースの調査票を使って調査対象とやり取りをする場合と比較すると、インターネット調査は調査に関わる工数を大幅に削減することにつながり、結果として調査費用を抑えることが可能になります。

訪問調査では、調査票の配布・回収には長時間にわたる調査員の稼働が必要であり、それに要する人件費が調査コスト全体の大きな割合を占めることになります。

郵送調査では質問票の発送・回収に多くの手間と費用を要し、1ヶ月を単位とする調査期間を設ける必要があります。

さらに紙の調査票を使う場合、集計段階で調査票の回答結果を集計ソフトに入力しなければならず、その段階で入力ミスや回答不備などの処理の手間がかかります。

インターネット調査では、紙の調査票を使う場合のこれらのデメリットをすべて解消することができ、調査対象が回答を入力すると同時に集計結果を出力することができます。

インターネット調査の課題は回答者の代表性と回答品質の担保

本来、標本調査は母集団から偏りなくサンプルを抽出することが信頼に足る調査結果を得るための前提であり、確率的な方法で調査対象を選抜することが必要とされます。

この点から、学術調査や公共分野の調査など妥当性・信頼性が重視される調査では、インターネット調査の問題点として指摘されてきました。

また、従来の調査手法でも調査協力者に謝礼を提供することは同じですが、アクセスパネルのアンケートに回答するモチベーションはアンケートに回答してポイントを貯めることです。一概には言えませんが、アクセスパネルからの回答結果を実態にもとづく正確なものとみなすことができるかという点にも疑問を挟む余地が残ります。

これらの問題点に対し、サンプリングの代表性については、コストと迅速性が重視される企業が行うマーケティングリサーチでは、意思決定の判断材料を得ることが目的であり、標本調査としての厳密性を問われないケースがほとんどです。

アクセスパネルの回答品質については、虚偽回答や不正回答をフィルタリングするなど、調査会社が各種対策を講じています。

インターネット調査の特性を理解した上で活用する

標本調査としての代表性をどの程度重視するかは調査の種類によって異なるため、訪問調査や郵送調査が適切であるケースもあります。

一方で、個人情報保護の観点から従来の調査手法に対しても協力が得られにくくなっていることが指摘されており、インターネット調査の活用は今後も増加していくと考えられます。