デスクリサーチに有効活用 3つの家計に関する公的統計を解説
デスクリサーチによって市場や消費者についての基本的な情報を集めることは、マーケティングリサーチの最初の段階で行う重要なプロセスです。情報源としてのオープンデータの種類は多岐にわたりますが、そのなかでも家計に関する公的統計は利用価値の高い情報に位置づけられます。
家計に関する公的統計のうち、「家計調査」「家計消費状況調査」「全国家計構造調査」の3つについて解説します。
公的統計を活用するメリット
公的統計は国や自治体の行政施策の策定や中長期的な計画の立案のほか、民間企業のマーケティングや研究・教育機関の基礎データとして用いられます。
そのなかでも、基幹統計に指定される国勢調査や経済センサスなどの特に重要な統計調査は、全数調査(悉皆調査)として実施され、調査対象には回答義務が課せられるなど、信頼性の高い調査結果を得るための仕組みが担保されています。
数多く実施されている公的統計のなかで全数調査が行われるのは、ごく一部に限られますが、標本調査を行う場合でも国民全体という母集団の代表性を保つための工夫されたサンプリングが行われており、調査の信頼性という点では民間企業が行うアンケート調査とは一線を画するものがあります。
家計調査は家計支出全体をカバーしている点と調査結果の代表性という点から、優れたマーケットデータと位置づけることができます。
家計調査(総務省)
家計調査は1946年に開始された「消費者価格調査」から続く基幹統計であり、調査世帯に家計簿をつけてもらい集計することで、国民の生活収支の実態を明らかにすることを目的とした公的統計です。
世帯で消費される品目別の支出金額を時系列で把握できる点から、消費財メーカーや消費者向けサービスを提供する企業にとっては、自社の商品やサービスの需給動向を知る上で欠かせない統計調査です。
家計調査の概要
家計調査の調査対象と調査方法、集計結果の公表については次のようになっています。
調査対象
施設等の世帯及び学生の単身世帯を除いた全国の世帯が対象。
以下の世帯は調査が困難であることから除かれる。
- 料理飲食店、旅館又は下宿屋(寄宿舎を含む)を営む併用住宅の世帯
- 賄い付き同居人がいる世帯
- 住み込み営業の使用人が4人以上いる世帯
- 世帯主が長期間(3ヶ月以上)不在の世帯
- 外国人世帯
サンプリング方法
家計調査は標本調査であり、層化3段無作為抽出(第1段ー市区町村、第2段ー単位区、第3段ー世帯)により世帯を選定しています。
選定された単位区は1年間継続して調査が行われ、毎月1/12ずつ新たに選定した単位区と交代されます。調査世帯は、二人以上の世帯は6ヶ月、単身世帯は3ヶ月継続して調査され、調査機関が終了するごとに新たな世帯と交代する方法が取られています。
【調査世帯数の割当て】
地域 | 市区町村数 | 二人以上の世帯数 | 単身世帯数 |
全国 | 168 | 8,076 | 673 |
都道府県庁所在地及び大都市 | 52 | 5,472 | 456 |
人口5万人以上の市 | 74 | 2,100 | 175 |
人口5万人未満の市及び町村 | 42 | 504 | 42 |
調査方法
調査方法は調査員の訪問による留置調査です。
調査結果の公表
二人以上の世帯の調査結果は、地域・世帯・収入区分ごとに、1世帯当たりの1ヶ月間の品目別収支金額に集計されて、調査月翌月に速報値が公表されます。
その1ヶ月後に「家計調査(月報)」がインターネットで公表され、年計の結果は翌年6月頃に「家計調査年報」が刊行されます。
家計調査でわかること
家計調査は、衣食住に関連する世帯当たりの月別消費支出を知ることができます。品目は59の小分類に分かれ、例えば、パンや洋服、理美容への支出など、世帯当たりの消費金額について、さまざまな世帯の属性別に知ることができます。
品目別消費支出額
世帯あたりの品目別の消費支出金額が集計されています。
例えば、食料品は12の中分類に分かれ、さらに、穀類であれば、米・パン・麺類・他の穀類の小分類に分けられています。
これらの各品目の支出金額を、都市階級別・世帯の収入別・世帯の人員別・世帯主の年齢階級別など、世帯の属性ごとに把握できるほか、購入数量・平均価格・日別支出も集計されています。
【家計調査の品目分類】
毎月公表される「家計調査報告」を見るだけでも、世帯当たりの消費支出・収入/月と直近1年間の推移、対前年同月比の増減、対前月比の増減などを知ることができます。
家計調査を利用する際の注意点
家計の構造という観点で、二人以上の世帯と単身世帯では大きく異なります。家計調査では二人以上の世帯・総世帯・単身世帯と3つの集計表にわかれているので、商品・サービスのターゲットとする消費者層ごとに使い分ける必要があります。
総世帯の集計は二人以上の世帯と単身世帯を労働力調査から得られる比率から加重平均したものから計算されます。
家計消費状況調査(総務省)
家計調査が日常的に消費する品目を対象しているのに対して、家計消費状況調査では家計調査の品目に含まれない、購入頻度の少ない高額商品やICT関連への消費支出を対象としており、家計調査を補完する目的で行われる公的調査です。
家計消費状況調査の概要
家計消費状況調査の調査対象と調査方法、集計結果の公表については次のようになっています。
調査対象
- 住居及び生計を共にする人の集まりと単身者(独立して住居を維持)が対象で、その世帯の主たる収入を得ている人を世帯主とする。
- 世帯員は世帯主とその家族・同居人として、3ヶ月以上に渡って自宅を不在にしている人や長期入院をしている人は含めない。
サンプリング方法
- 対象となる母集団は全国で約5,570万世帯(令和2年国勢調査)のなかから、層化2段無作為抽出(第1段ー地方別都市階級別、第2段ー世帯)で30,000世帯をを選定。
- 総務省統計局が全国を約50世帯の地域に分割し、そのなかから3,000の調査地域を指定、調査地域の世帯から無作為に9世帯の二人以上世帯と1世帯の単身世帯を選出。
調査方法
調査の実施は民間調査機関に委託する形で行われます。調査方法は、調査員による回収、郵送、オンライン(インターネット)による回答を併用する方式です。
調査対象世帯は1年間継続して毎月調査票を提出することになり、調査員が最初の月と6ヶ月目に訪問し調査票のチェックと調査世帯からの質問に対応しています。
調査結果の公表
支出に関連する項目の二人以上の世帯の結果については調査月の翌々月の上旬に公表されます。
単身世帯及び総世帯の結果とICTに関連する項目については四半期ごとに公表されます。
家計消費状況調査でわかること
家計消費状況調査では、ECを利用した際の支出のほか、電子マネーの利用状況、家電や自動車などの耐久消費財への支出、旅行など、家計調査に含まれない、ICT関連や高額品への支出を把握することができます。
①インターネットを利用した1世帯当たり1ヶ月間の支出
ECの利用への支出を以下の項目に分類して、1ヶ月当たりの支出金額を集計しています。
51 贈答品 | 62 化粧品 |
52 食料品 | 63 自動車等関係用品 |
53 飲料 | 64 書籍 |
54 出前 | 65 音楽・映像ソフト、パソコン用ソフト、ゲームソフト |
55 家電 | 66 電子書籍 |
56 家具 | 67 ダウンロード版の音楽・映像・アプリなど |
57 紳士用衣類 | 68 保険 |
58 婦人用衣類 | 69 宿泊・運賃・パック旅行費(インターネット上での決済) |
59 履物・その他の衣類 | 70 宿泊・運賃・パック旅行費(上記以外の決済) |
60 医薬品 | 71 チケット |
61 健康食品 | 72 上記に当てはまらないサービス |
②電子マネーの利用状況
電子マネーの利用状況について、以下の項目を四半期ごとに集計しています。
電子マネーを持っている世帯員がいる | 1人 |
2人 | |
3人以上 | |
電子マネーを持っている世帯員がいない | |
電子マネーを利用した世帯員がいる | |
電子マネーを利用した1世帯当たり平均利用金額 | 1,000円未満 |
1,000円以上3,000円未満 | |
3,000~5,000 | |
5,000~10,000 | |
10,000~30,000 | |
30,000~50,000 | |
50,000円以上 | |
電子マネーを利用した世帯員がいない | |
電子マネーの利用金額のうち鉄道及びバスでの1世帯当たり平均利用金額 | 1,000円未満 |
1,000円以上3,000円未満 | |
3,000~5,000 | |
5,000~10,000 |
③特定の財(商品)・サービスの1世帯当たり1ヶ月間の支出
通信費や旅行関連、耐久消費財などの高額商品の1ヶ月当たりの支出金額を集計しています。
01 スマートフォンなどの通信・通話使用料 | 18 出産入院料 | 35 ゲーム機 |
02 インターネット接続料 | 19 出産以外の入院料 | 36 カメラ |
03 スマートフォン・携帯電話・PHSの本体価格 | 20 たんす | 37 ビデオカメラ |
04 航空運賃 | 21 ベッド | 38 家屋に関する設備費・工事費・修理費 |
05 宿泊費 | 22 布団 | 39 給排水関係工事費 |
06 パック旅行費(国内) | 23 机・いす(事務・学習) | 40 庭・植木の手入れ第 |
07 パック旅行費(海外) | 24 食器戸棚 | 41 自動車(新車) |
08 国公立授業料等 | 25 食卓セット | 42 自動車(中古車) |
09 私立授業料等 | 26 応接セット | 43 自動車保険料(自賠責) |
10 補習教育費 | 27 楽器(部品含む) | 44 自動車保険料(任意) |
11 自動教習料 | 28 冷蔵庫 | 45 自動車以外の原動機付輸送機器 |
12 スポーツ施設料 | 29 掃除機 | 46 自動車整備費 |
13 背広服 | 30 洗濯機 | 47 挙式・披露宴費用 |
14 婦人用スーツ・ワンピース | 31 エアコン | 48 葬儀・法事費用 |
15 和服(男女) | 32 パソコン | 49 信仰関係費 |
16 腕時計 | 33 テレビ | 50仕送り金 |
17 装身具(アクセサリー) | 34 ビデオデッキ |
家計消費状況調査を利用する際の注意点
家計調査の品目は回答者が調査票に品目を書き込み、回収後アフターコード方式で集計されます。それに対し家計消費状況調査の調査票はプリコード方式となっており、家計調査と同じ品目でも違いが出る可能性があります。
全国家計構造調査(旧全国消費実態調査)(総務省)
全国家計構造調査は1959年に開始された全国消費実態調査から続く、5年ごとに実施される基幹統計調査です。2019年の13回目調査で名称が全国家計構造調査に変更されました。
家計調査が家計支出の月次や年次による時系列的な変化の把握を目的とするのに対し、全国家計構造調査は、家計における消費・所得・資産及び負債を調査することにより世帯の所得分布や消費水準を把握することを目的としています。
調査対象数90,000世帯、調査票も3種類に及び、大規模かつ詳細な調査が行われます。
全国家計構造調査の概要
全国家計構造調査の調査対象、調査方法、集計結果の公表は次のようになっています。
調査対象
全国から無作為抽出で90,000世帯を調査対象に選定しています。調査対象は、市区町村が選定する基本調査と簡易調査を行う世帯と、都道府県が選定する特別調査と個人収支状況調査を行う世帯に分けられます。
調査票は「家計簿」「年収・貯蓄等調査票」「世帯票」の3つの種類を用い、調査対象別に回答する調査票が異なります。
市区町村調査 | 基本調査世帯(3種類すべての調査票を配布)簡易調査世帯(年収・貯蓄等調査票と世帯票のみ配布) |
都道府県調査 | 家計調査回答世帯に基本調査の重複項目を除いた調査票と個人収支簿を配布 |
調査方法
調査員が調査世帯を訪問して調査票を配布、調査票の回収は、インターネット、調査員に提出、郵送のいずれかの方法で行います。
都道府県調査については、家計調査と同時に実施されています。
実施時期
2019年の全国家計構造調査は、2019年10月及び11月の2ヶ月間にわたり実施されています。
調査結果の公表
調査結果の公表は順次行われています。
全国家計構造調査でわかること
集計結果は政府統計の総合窓口「e-Stat」から閲覧することができます。
家計調査と家計消費状況調査はエクセルファイルをダウンロードして参照する形となりますが、全国家計構造調査はエクセルファイルではなく、e-StatのWebページ上で集計表またはグラフを表示させる方法か、APIを利用してデータを独自に加工する方法を選ぶことができます。
集計された内容は、全国ベースと都道府県ベースの集計に分かれており、さらに以下の集計内容に大別されます。
- 家計収支に関する結果
- 所得に関する結果
- 家計資産・負債に関する結果
- 年間収入・資産分布に関する結果
各集計項目は多岐にわたり、クロス集計される項目によって細分化された集計表を出力することができます。
全国家計構造調査を利用する際の注意点
5年に1回の調査で年1回、10〜11月に実施される調査であることから、季節的な要因の関わる消費支出項目については統計に現れないことに注意する必要があります。
まとめ
to Cのビジネスを行う企業にとって、品目別の消費金額のボリュームと時系列の推移をさまざまな切り口から分析することのできる家計に関する公的統計は、市場規模や需給動向を見る上で参考になるデータです。
自社の商品やサービスについてのアンケート調査を行う場合でも、事前に家計の構造や時系列での変化を把握しておくことが、妥当性の高い調査企画を立案することにつながります。
消費者調査の実施には、約541万人の調査パネルに属性情報を絞り込んでアンケートを取ることができるセルフ型アンケートツールQiQUMOが最適です。
十分なデスクリサーチを行った上で調査を企画し、セルフ型アンケートツールQiQUMOを使って実査を行えば、妥当性と調査精度の高いアンケート調査を実現できるでしょう。