ネットアンケートの作り方|調査設計のためのノウハウ
インターネットで実施されるアンケート調査は、その特性を理解して調査を設計することが重要です。インターネットで配信されるアンケートは、手軽に低コストで実施できることは周知のことですが、手軽さと低コストをどう有効に活用するかという視点がネットアンケートには必要です。
調査会社を使ってネットリサーチを実施する場合の調査設計のためのノウハウをご紹介します。
ネットリサーチのメリットを活かす使い方
ネットリサーチは少ない工数と手間で短期間に実施することができること、その結果として費用がかからないことが他の調査手法と大きく異なる点です。
数ヶ月の期間と数百万円に及ぶ費用がかかる訪問調査や郵送調査と比較して、遥かに少ない期間と費用で調査を実施できることは、小回りの効く情報収集活動を手軽に、かつ、頻繁に行えるということにつながります。
このメリットを活かすことがネットリサーチの正しい使い方であり、例えば、探索的な情報収集の段階から定量調査を実施する、大規模な調査プロジェクトの事前調査として部分的なネットリサーチを実施する、カスタマーサクセスの業務フローのなかにアンケートを組み込むといったことがネットリサーチを使うことで実現できます。
また、短いサイクルで調査結果を確認しながら、必要であれば何度でも実施できるというネットリサーチの特性は、PDCAを繰り返し成功確率を高めていくという方法論を持つスタートアップやデザイン思考の意思決定に親和性が高いといえます。
調査項目を具体化するための方法
調査目的の明確化はアンケート調査を設計する際に必ず指摘される点ですが、現状の課題を調査項目に落とし込む作業や分析のための変数をどこに求めるかといった点を考えると、それほど簡単なことではありません。
提起される課題がアンケートで聴取する定量情報と結びつかないものであったり、明らかにすべき対象があいまいであったりすることは、リサーチの現場ではありがちなことです。
この段階での現状認識が建設的な形で調査目的に結びつかない場合、調査の意義は弱まり有用なインサイトを得るための調査の質を確保できなくなります。
調査を設計するにあたり、何が課題で何を明らかにしなければならないかを検討するために、マーケティングリサーチであれば4P・4Cやパーチェスファネルなどの各種フレームワークをもとに目の前の課題を分解していきます。
その際に用いられるのが、概念図(コンセプトチャート)や特性要因図などのチャートです。課題に関連する要素の整理と関係者間の認識を共有するために役に立ちます。
概念図(コンセプトチャート)
概念図は、調査課題に関連する要素を、それぞれの関連性や順番、包含関係などについてキーワードや図形として表したものです。
特に描画方法についての基準や決まりはないので、課題に関連すると考えられる要素を抜け漏れなく挙げて、レベルを合わせて図形で区別したり、それぞれの関連性を矢印でつなぐなどチャート化していきます。
課題を要素に分解しそれぞれの関係性が明らかになることで、全体を俯瞰する視点から調査項目を抽出することができます。
特性要因図(魚骨図・フィシュボーンチャート)
概念図の要素を抜け漏れなくリストアップするために使うのが特性要因図です。最終的な結果に影響を与える要素を深掘りしていくことを目的とするものです。主に製造業の改善活動に使われているものですが、ビジネスの現場に幅広く応用できるチャートです。
右端に結果(課題)を置く直線を描き、結果に影響を与える要素を矢印で書き加えていくのが作図の方法です。
結果に影響を与える要因として何を挙げるかはそれぞれのケースによりますが、マーケティングミックスの4P(プロダクト、価格、流通、コミュニケーション)やカスタマージャーニーの各ステップ、あるいは、提供するサービスの構成要素などを当てはめて、それぞれの要因に関わる要素に分解していきます。
これらの図を使って調査項目を抽出することで、抜け漏れを防ぎ調査項目全体のバランスを把握することが可能になります。
サンプルサイズの決め方
アンケート調査は顧客満足度調査や従業員満足度調査のように、調査対象を特定することができる調査と、消費者や生活者全体を対象とし、そのなかからサンプルを抜き出して回答してもらうサンプリング(標本)調査に分けることができます。
前者の場合は母集団が限定されているため、回答結果の統計的な信頼性は問題となりませんが、後者の場合は抜き出したサンプルの集計結果が消費者層全体(母集団)の意見や実態を反映していると判断していいかどうかが問われます。
主婦10人に聞いたアンケート調査を主婦層全体の意見とみなすことができないことは直感的に納得できるでしょう。標本調査はサンプル数が小さければ母集団との乖離が大きく、サンプル数が大きくなるに従い母集団の実態に近づきます。
確率的に取り出したサンプル(標本)数の大きさによって変わる母集団との違いのことを標本誤差といい、信頼度95%とする場合の標本誤差は以下の計算式で求められます。
一般的には信頼度95%とした場合に、許容できる標本誤差の水準から必要なサンプルサイズを求める、あるいは、サンプルサイズを指定した場合にどの程度の標準誤差が生じるかを見ます。
標本誤差は集計結果で得られた数値の誤差がサンプルサイズによって変動することを意味しています。例えば、回答率を5割とした場合、サンプルサイズ100の場合の標本誤差は±10%、サンプルサイズ400の場合の標本誤差は±5%です。
それぞれの集計結果で示された2つの数値の差が10%である場合、サンプルサイズ400の場合は10%の差を違いとして評価できますが、サンプルサイズ100の場合は違いと判断することが間違いである可能性があるということです。
サンプルサイズ別の標本誤差は500で±4.4%、1,000で±3.1%、5,000で±1.4%、10,000で±0.98%です。
集計された数値を厳密に評価する場合はサンプルサイズを大きく取る必要があり、全体の大まかな傾向がわかれば良いというケースではサンプルサイズを少なくしても大丈夫ということになります。
また、アンケート調査ではほとんどの場合、性別・年代別などのクロス集計を行います。アクセスパネルを対象に行うネットリサーチでは属性別にサンプル数を割り付けることが可能であるため、目的とする属性ごとに一定数のサンプルを割り付ける方法で全体のサンプル数を決めていきます。
一般的にはクロス集計を行った場合の分割されたカテゴリーのサンプル数が30以上あればよいとされてます。
スクリーニングの必要性
アクセスパネルを対象にアンケート調査を実施する場合、多くの調査会社では属性を指定してサンプルを集めることにも対応しています。
属性の種類はパネルに登録する際に必要とされる項目であり、性別、年齢、居住地、未既婚、子供の有無、職業・業種といったところが一般的ですが、調査会社によっては自動車保有の有無や保険の加入状況などの個人情報を登録項目に含めているところもあります。
しかし、マーケティングリサーチではそれぞれの商品やサービスにはターゲットとなる条件があり、さらに詳細な条件に当てはまる消費者を調査対象とすべきケースがほとんどです。
例えば、ペットフードに関するアンケートであればペットオーナーであること、ドリップバッグコーヒーに関するアンケートであれば、日常的にコーヒーを愛飲していることといったことが条件となります。
一定のサンプルサイズに対し条件に当てはまる人の出現率は予想できないことがほとんどです。特に該当者が少ないと考えられる内容を聞きたい場合、大きなサンプルサイズで調査を行っても有効回答が得られないケースも想定されます。
そのため、調査対象に条件を設ける必要がある場合は、条件に当てはまるかどうかを聞くためのスクリーニング調査が不可欠となります。
ネットリサーチは設問数とサンプルサイズに応じた料金体系が一般的であることから、少ない設問数でサンプルサイズを大きく取ったスクリーニング調査を実施し、条件に該当する人を対象として設問数の多い本調査を実施します。
回答品質を高めるための工夫
調査会社のアクセスパネルを対象に実施するネットリサーチは、ポイントなどのインセンティブが与えられることを前提に登録したアクセスパネルにアンケートが配信され、それぞれのアクセスパネルが回答した場合にサンプルとして回収されます。
ネットリサーチのアンケートは膨大なアクセスパネルに配信されるため、配信に対する回答割合が少なくても必要サンプルに満たないといったことはほとんどありません。
しかし、有効回答にカウントできるサンプルが少ない場合や、途中で回答をやめてしまう回答者が多い場合など必要なサンプル数を集めるのに時間がかかり、そういったケースでは往々にして集計結果の信憑性に疑問が持たれることも少なくありません。
回答ミスや無回答による無効回答はアンケートフォームの入力制御によって防ぐことができますし、インセンティブのみを目的とする不誠実回答を排除するための取り組みは調査会社でも行っています。
しかし、作成した質問票のアンケートフォームがわかりにくい場合や質問量が多すぎる場合など、アクセスパネルが真剣に回答する意欲を削がれる要素が多いと回答結果は実態を反映しないものになります。
それを防ぐためには以下の点に留意することが必要です。
※わかりやすいアンケートフォームの作り方について、こちらの記事「「QiQUMOを使ってアンケートを作る」 アンケートフォームと集計結果の具体例」で紹介しています。
スクリーニング調査を行い適切な調査対象選別する
興味関心のないことには答える意欲がわかないのは当然のことです。前述したとおり、条件に該当する適切な調査対象を選別するためのスクリーニング調査を行うことが重要です。
調査目的と回答の意義の理解を促す
アンケート調査が誰のどういう目的のために使われ、どんな役に立つのかを回答者が理解し、それが質問の内容と整合性がある場合に回答者は調査を信頼して協力します。
協力依頼の説明文では調査の目的や情報の使用用途を明記し、個人情報の扱いなどについても十分な説明を書き加えることが重要です。
回答負荷を低減する
質問量が多すぎる、質問が長文でわかりにくい、回答形式が複雑といったアンケートフォームに回答者は面倒と感じ、インセンティブに見合わないと不満に思います。誠実な回答を得られなくなることもあるため、シンプルでわかりやすいアンケートフォームの作成を心がけます。
一般社団法人日本マーケティング・リサーチ協会の「インターネット調査品質ガイドライン」では、回答所要時間が10分以内となる質問票を勧めています。
手軽なネットリサーチを最大限活用するためには
ネットリサーチは「手軽」というキーワードとともに説明されます。反面、適切なサンプルサイズや回答負荷への配慮など、しっかりした調査設計のもとに実施しなければ、調査結果も重みのない、お手軽なものになってしまう可能性があります。
特に、スクリーニング調査は多くの場合に必要とされる重要なプロセスであり、コストを抑えたいからといって省くことはできません。
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