新商品開発で実施するアンケート調査とは?マーケティングプロセスを踏んで失敗確率を減らす
新商品開発の重要性は言うまでもなく、多くの企業にとって業績を左右する大きなテーマです。新商品を成功させるためにはマーケティングリサーチが不可欠であり、商品開発のためのアンケート調査について知る必要があります。
この記事では新商品の開発プロセスとマーケティングプロセスを関連付けて、どのようなアンケート調査を実施する必要があるかを解説します。
新商品開発のパターン
新商品開発にはいくつかのパターンがあり、それに応じて必要となるマーケティングリサーチの内容が異なります。まず最初に商品開発の典型的なパターンを紹介します。
①PLC(プロダクト・ライフ・サイクル)にもとづく製品ラインナップの更新
既に実績のあるブランドや製品ラインナップを保有しているケースでは、衰退期を迎えた商品の生産を打ち切り、新しい商品を投入することが繰り返し行われます。自動車やビールなどの大手企業が代表的な例であり、研究開発の成果や事業戦略にもとづいて商品開発が行われます。
②技術シーズやビジネスアイデアが起点となる商品開発
大学発のベンチャー企業やビジネスアイデアをもとにしたスタートアップなどがこのパターンにあたります。これまでにない商品やサービスを実現する技術やアイデアが先行する形で存在し、市場性のあるものに作り込んでいく作業が商品開発にあたります。
③ビジネスリソースの有効活用を図るための商品開発
大手企業がビジネスリソースのシナジーを見込んで新規事業の開発を行う場合、また、既存事業の斜陽化から業態転換を図る中小企業の例などがこれにあたります。自社のアセットをどう有効活用できるかが起点となり、環境分析や市場機会発見のためのリサーチの重要度が高くなります。
④顧客ニーズが起点となる商品開発
消費者ニーズを取り込むことは商品開発のすべてのケースにおいて当てはまりますが、アイデアを収集するために行う組織的な活動が起点となる場合や、顧客の声から偶然発見したアイデアが商品開発につながるケースが挙げられます。
MROC(マーケティング・リサーチ・オンライン・コミュニティ)やお客さまサポートなど継続的にフィードバックを収集する仕組みのなかで、新商品のアイデアや気づきを得る場合が当てはまります。
新商品開発のプロセス
新商品開発の一般的なプロセスは新商品の計画を立てる企画段階と、企画された内容を具体的な商品の形にしていく開発段階にわけられます。
また、商品開発のための組織的なリソースを十分にもたないスタートアップでは、短いサイクルでPDCAを繰り返すリーンキャンバスなどのフレームワークが用いられます。
以下ではtoC領域の製造業の商品開発プロセスを例示します。
商品企画アイデア
新商品開発のパターン①の製品ラインナップの更新や新しく市場機会を見つける③のケースでは、アイデアを創出するところがスタートラインとなります。
それに対し、②のスタートアップや④の消費者ニーズ起点の商品開発ではアイデアやシーズが既に存在していることになります。
①の場合は商品開発部門を保有する大手企業など、継続的な商品開発に向けた体制とノウハウを確立している点が特徴です。それに対して、③の場合は実績のない市場への新規参入となることから組織体制も含めた事業化プロセスも進められます。
アイデアのスクリーニング
アイデア創出の段階では多数のアイデアが候補に挙げられます。一般的には少数の候補に絞り込まれたアイデアをコンセプト案にまとめますが、アイデアの段階で目指すべき方向性や基準とすべき評価軸を決めるためのアイデアスクリーニング調査を行う場合もあります。
コンセプト開発
コンセプトは、開発する製品が持つ顧客に提供する価値の本質的な要素を言語化したものです。コンセプトの開発は市場と消費者についての分析結果にもとづいて行われるもので、これ以前にマーケティングリサーチを行う必要があります。
さらに開発段階に進む前に、コンセプトの段階で市場性があるかどうかを確認するために受容性調査を行います。コンセプト開発時に実施するコンセプトテストの解説をこちらからご確認ください。
商品開発設計
設計段階に入り機能、構造、デザインなどがコンセプトにもとづき製品の仕様に落とし込まれます。
試作
試作品の製品テストを実施します。法的基準や内部での評価基準を満たすかどうかを検討するほか、製品そのものやネーミング、パッケージなどについても消費者からの反応を見るためのCLT(会場テスト)やHUT(ホームユーステスト)が実施されます。
生産
製品テストの評価をもとに修正や調整が加えられ最終的な製品が完成するとともに、生産体制も整備されます。
販売
販売目標や流通計画など商品計画全体が決定されて本格的な販売が開始されます。
スタートアップの商品開発
工業製品などの新商品開発では、生産プロセスの整備を伴い商品開発のコストも大規模なものとなることから、段階的な形で検証を行いながら商品開発プロセスが進められていきます。
それに対し、商品開発に多くのリソースを必要としないWebサービスなどを主要事業とするスタートアップのようなケースでは、商品開発に対するスタンスが異なります。
Webサービスなどのビジネスモデルを前提とするスタートアップの事業開発の方法が、ビジネスモデルキャンバスやリーンキャンバスといったフレームワークを用いるやり方です。
提供するサービスが解決する顧客の課題(PSF※)とサービスの市場性(PMF※)について、最低限の要素に絞り込んだ製品・サービス(MVP※)を実際に提供するなかで、検証し改善を繰り返していくというやり方です。
プロダクトの検証には、顧客からのフィードバックを得る方法としてインタビューを中心に行うとされていますが、アンケートツールが普及している現在では量的調査の活用も選択肢のひとつとなっています。
※PSF(プロダクト・ソリューション・フィット) ※PMF(プロダクト・マーケット・フィット) ※MVP(ミニマム・バイアブル・プロダクト)
次に解説するマーケティングプロセスと、商品開発プロセスは以下のように関連付けられます。
新商品開発におけるマーケティングプロセス
新商品開発はマーケティングの考え方に沿って行う必要があり、新商品開発のプロセスとマーケティングプロセスは同時並行する形で進められます。
商品開発について学べる動画シリーズを用意しました。こちらからご覧になってください。
環境分析
新商品の市場投入に影響を与える環境要因を、外部環境と内部環境に分けて分析します。環境分析には、外部環境を分析する3CやPEST、内部環境を分析するための5フォースやSWOTなどのフレームワークを用います。
特に、新商品開発のパターンで挙げた③の、新たな市場機会を求めるケースの新商品開発では、自社のリソースがマッチングする市場機会を発見することが重要であり、それに合わせて商品開発が行われます。
STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の分析
どんな消費者層に向けて商品を開発するかはすべての商品開発の前提であり、消費者調査の結果をもとにターゲティングとポジショニングを策定する必要があります。
新商品開発のパターンで挙げた④の、明らかになった消費者ニーズを具体化する新商品開発では、既に顧客層とニーズが明確であるためターゲットを探すための取り組みは省かれます。
マーケティングミックス(4P:商品・価格・流通・プロモーション)の具体化
STPを分析することで明らかになった最も有力な消費者層に向けて4Pが具体的に決められます。商品と価格は商品開発の内容そのものです。
それに沿った販売方法やプロモーションの計画を立てる必要があります。場合によっては流通やプロモーション戦略から商品開発への制約や影響が生じるケースもあるため、総合的な調整のなかで各要素が決められていきます。
マーケティングミックスについての解説記事を用意しています。こちらからご覧になってください。
受容性評価
商品開発プロセスのコンセプトが明確になったところでコンセプト受容性調査を行い、開発に着手する前の段階で新商品が市場に受け入れられるかどうかの確認を行います。受容性調査の段階までにコンセプト案は複数に絞り込まれ、相対評価でコンセプトが選ばれます。
テストマーケティング
本格販売の前の段階でテストマーケティングが実施されます。地域を限定したり特定の販売ルートのみで販売して消費者の反応を見るほかに、CLT(会場テスト)やHUT(ホームユーステスト)といったマーケティングリサーチの方法も使われます。
満足度調査・効果測定
実際に商品が販売されたあとの商品そのものの顧客満足度や市場浸透度、広告やプロモーションの効果などを検証します。
新商品開発に関連するアンケート調査
商品開発プロセスとマーケティングプロセスが進行していくなかで、マーケットリサーチが行われ、定量情報で検証することが必要な場合にはアンケート調査が行われます。商品開発プロセスでアンケート調査が実施されるケースとしては消費者調査、受容性調査、満足度調査などが想定されます。
消費者調査
新商品開発は「誰に」「何を」「どのように」提供するかを決めることです。
それぞれをマーケティングに落とし込むと、「誰に」はターゲティングであり、「何を」は提供する価値であり、「どのように」は販売方法やサポートと広告・プロモーションを含めたコミュニケーション戦略に当たります。
商品開発プロセスでは商品企画の段階でこれらの要素が検討されます。マーケティングプロセスのSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の分析と4P(マーケティングミックス)各要素を決めるためのマーケティングリサーチによって判断材料となる情報を収集し分析を行います。
「誰に」「何を」「どのように」提供すべきかを決定するためには消費者を対象として定量的な情報を集めることが必要であり、STPと4Pに関連する質問項目を設定したアンケート調査によって明らかにします。
STP分析の目的
最初に検討しなければならないのは、「誰に」にあたるSTPの各要素です。
セグメンテーションは消費者層の性別や年代のほか、購買行動やライフスタイル、嗜好性など、分類のための軸となる基準を抽出することが目的となります。セグメンテーションを行うことで、より需要の見込めるターゲットの特徴を明らかにすることができます。
さらに、セグメンテーションのために用いた分析軸によって、自社の商品ラインナップや競合商品との相対的なポジショニングを明確にすることが、商品の内容とマーケティング戦略を検討していく上での起点となります。
4P策定に必要な情報
「何を」「どのように」に提供するのかがマーケティングミックスの4P(商品・価格・流通・プロモーション)です。「何を」が商品そのものにあたり、価格・流通・プロモーションが「どのように」提供するかを示すものといえます。
商品を構成する要素は機能や構造、デザインなどの物理的な仕様ですが、マーケティングの視点から重要視しなければならないのは、物理的な仕様がターゲットとなる消費者層にどんな便益や価値を提供することができるかということです。
加えて提供する便益や価値に大きく関わるのが価格・流通(提供方法)・プロモーションです。想定したターゲットにとってもっとも魅力のある4Pを作り込むことがマーケティングの一部としての商品開発です。
受容性調査
商品企画で設定された商品の青写真をもとに、開発に着手する前の段階で売れそうかどうかを確かめる作業を行うのが受容性調査の目的です。
受容性調査は商品企画で設定した商品コンセプトの段階と、開発に着手し試作品を製作した段階の2段階を設定する場合もあります。
開発に着手する前にチェックを行うのは、設計や生産の工程には多くのリソースを要するため、商品企画の方向性が誤っていた場合のリスクを取り除くためです。一方、試作品段階の製品テストは最終的な問題点や調整すべき要素をあぶり出すことにウエイトが置かれます。
コンセプト受容性調査は商品が提供する便益や価値を言語化し、イメージすることを促す図案や画像などを加えたコンセプトシートを調査対象に提示する形で実施されます。
製品テストはCLT(会場テスト)やHUT(ホームユーステスト)などの形態で実施されます。
満足度調査・効果測定
商品が発売された後に、販売の成果と想定したコンセプトが実現されているかどうかを検証し、継続した販売につなげていくための取り組みとして、満足度調査や広告効果測定、市場浸透度の測定などが実施されます。
商品開発プロセスのなかで、受容性調査を始めとして何段階にも分けてチェックが行われますが、それでも消費者が生活のなかで実際に使用する場面においては、想定しなかった問題や課題が浮き彫りになることがあります。それらの問題を特定し改善していくことが求められます。
マーケティングの知識を新商品開発に活かす
新商品開発はマーケティングの要素が密接に関連しており、プロセスを踏む中で目的に沿ったアンケート調査を実施することが重要です。調査設計や分析には専門的なマーケティングの知識が求められることから、調査会社を活用することが新商品開発の成功確率を高めることにつながります。