ブランド・エクイティを把握してカテゴリーエントリーポイント(CEP)の幅を広げる
ブランド想起についての考え方がカテゴリーエントリーポイント(CEP)です。より多くの場面で想起されるブランドが市場シェアを拡大すると同時に、ブランドの価値も高めることにつながるというのがその内容です。
ブランドを成長させるために重要なカテゴリーエントリーポイント(CEP)について、ブランド・エクイティの調査方法と合わせて解説します。
ブランド成長におけるカテゴリーエントリーポイント(CEP)の重要性
カテゴリーエントリーポイント(CEP)が重要視されるのは、幅広いCEPを持つことが市場占有率拡大につながり、強力なブランド・エクイティを築くことに関連しているからです。
カテゴリーエントリーポイント(CEP)とは
例えば、ワインという商品カテゴリーの消費行動にはさまざまな状況・目的が考えられます。
- レストランで外食をする時
- 自宅でリラックスする時
- 友人とパーティをする時
- お誕生日プレゼントとして
などなど
これらの状況や目的はワインという商品カテゴリーを想起する場合のきっかけであり、それぞれのきっかけと同時に思い起こされるブランドは購入される可能性が高まります。
消費者のブランド認知と結びつく、商品カテゴリーを消費する際のシーンや目的、理由がカテゴリーエントリーポイント(CEP)であり、CEPはブランド認知のチャネルとして機能します。
ブランドの成長になぜCEPが重要なのか
購入に結びつく入り口がCEPであり、多くのCEPを持つことができるブランドは必然的に売上と市場シェアを拡大させることができます。
ほとんどの場合、ひとつのCEPには同じカテゴリーの競合ブランドや他の商品カテゴリーがリンクしており、ブランドを成長させるためには商品カテゴリ内での競合と他の商品カテゴリーの競合に対応していく必要があります。
ワインの例でいえば、自宅でリラックスする時に飲むワインといっても、とっておきの高級ワインを想起するケースと飲みやすい国産ワインを想起するケースがあり、ひとつのCEPのなかで同じ商品カテゴリーのブランドとの競合が発生します。
また、自宅でリラックスする時に飲むのはワイン以外の商品カテゴリーであることも考えられるため、ビールや缶酎ハイも競合になるということです。
競合ブランドと他の商品カテゴリーも含めた競合関係のなかで、数多くのCEPを持つことが有利であることは明らかです。
商品カテゴリーの市場規模とカテゴリー内の市場シェア
人口減少によるマーケットの縮小フェイズに入った国内市場において、市場規模が安定的に成長する既存の商品カテゴリーを見つけることは難しくなっています。
消費市場の成熟化は商品ライフサイクルが短命化を招き、消費者のライフスタイルが多様化する市場環境においては、商品カテゴリー内でのシェア獲得に加えて、既存の商品カテゴリーにとらわれない新規顧客獲得の機会を創出することがブランドの成長に大きく関わります。
消費者の心理的側面から、ブランドの購入に結びつく入り口を増やすというCEPの考え方は、消費財のブランドに共通して求められるマーケティングの方法論となっています。
CEPの特定・開発方法
既存のブランドのCEPの把握、あるいは、新たなCEPに対応する商品コンセプトを開発する場合には以下のフレームワークが役に立ちます。
【CEP特定のためのフレームワーク】
Why?(目的は?) | 空腹を満たすため気分を良くするためリフレッシュするため肌を柔らかくするため |
When?(いつ使う?) | 急いでいるとき夕食後朝食中家族の祝いごとで |
Where?(どこで使う?) | 海辺でスポーツジムで休日に友人の家で |
With whom?(誰と一緒に使う?) | 外出中に友人と子供と特別な人と |
With that?(何と一緒に使う?) | スパイシーな食べ物と前菜や食前酒と映画を見ながらアルコール飲料と |
ブランド評価の構成要素
ひとつのブランドのCEPを検討するに当たり、消費者のブランドに対する認知の枠組みを整理する必要があります。
消費者が感じる企業の資産価値=ブランドの価値はブランド・エクイティと呼ばれ、次の5つの要素で構成されています。
ブランド・エクイティ(ブランドの名前やシンボルと結びついた資産および負債の集合) | |
ブランド認知 | どの程度〜のスコアがあるか、再認、再生、トップ・オブ・マインド、支配的ブランド(カテゴリーで1つしかブランドが想起されない状態) |
ブランドロイヤルティ | そのブランドをより頻繁に購入したり使用したりする行動とそれに結びつくブランドへの愛着や信頼 |
知覚品質 | どの程度、顧客に知覚された品質が高いか 高いほどROI(投資収益率)などの財務指標にポジティブな影響を与える |
ブランド連想 | そのブランドからどの程度ポジティブな連想があるかどうか |
その他のブランド資産 | チャネル関係、特許など |
ブランド・エクイティの測定方法
ブランド・エクイティの測定にはターゲットに想定する消費者セグメントを対象にアンケート調査を行い定量的に把握します。
ブランド認知
ブランドを認知しているかどうかには段階があり、商品カテゴリーに含まれる複数のブランドを提示した上で、知っているかどうかを問う再認と、商品カテゴリーのみを提示して想起されるブランドを挙げてもらう再生に分けられます。
再認によるブランド想起は助成想起とも呼ばれます。「聞いたこと・見たことがあるような気がする」といった中間的な記憶である場合も多いため、「知っている」と「知らない」の間に中間的な選択肢を設けます。
再生によるブランド想起は純粋想起とも呼ばれ、アンケートでは自由回答の選択肢を設けます。複数のブランドが挙げられたなかで最初に想起されたブランドを第一再生と呼び、購買行動に結びつきやすいブランドとして評価することができます。
ブランド知識・理解
消費者が単にブランド名のみを知っているということは少なく、ブランドに関する何らかの属性情報と紐付けられて認知されています。
その内容がブランド知識や理解です。ブランドが持つコンセプトや広告で発信するメッセージが正しく伝わっているかどうかを評価するために必要な調査項目です。
ブランドに対する態度
ブランドに対する態度は、そのブランドに消費者個人がポジティブに向き合っているかネガティブに向き合っているのかを判断するための指標です。ブランドロイヤリティの基礎となる評価項目に位置づけられます。
態度要素はブランドに対して好意的か非好意的かを測るため、質問法にはリッカート尺度、SD尺度などが使われます。
リッカート尺度は中立を含む5段階の選択肢からポジティブ・ネガティブの2極のどちらに近いかを問う質問法で、選択肢に数値を与えて総和または平均値を取ります。
SD尺度は、対義語となる2つの形容詞を選択肢に設定し、ブランドに対する態度がどちらに近いかを選択してもらう質問法です。
ブランドとの関係性
態度で測定されたプラス・マイナスの方向性に対して、その内容を明らかにするのが関係性を問う設問項目です。消費者とブランドとの関係性においては学術分野でも多くの議論がなされており、その測定尺度として以下の項目が提示されています。
【消費者とブランドの関係性を測定する尺度の例】
信頼 | そのブランドの品質が優れいているそのブランドを信用しているそのブランドの製品・サービスに共感できるそのブランドのものだと安心できる期待を裏切らないブランドであるそのブランドのイメージは良い他人に勧めることができるブランド |
愛着 | そのブランド以外は目に入らないそのブランド以外は試そうと思わない何が何でもそのブランドの製品・サービスを手に入れたいと思うそのブランドは私にとって特別であるそのブランドのものをいつも持っていたいそのブランドは私にとって製品以上のものであるそのブランドを愛している |
親しみ | 自分に似合うブランドであるそのブランドは自分にふさわしいと思う自分にとって身近なブランドである自分の理想像に近いブランドである |
自己表現 | 自分がかっこよく見えるブランドである能力が高く見えるブランドである自分のステータスが高まると感じるそのブランドにあこがれている |
興味 | ブランドについての話題が広がるブランドについて他人に聞くことがあるそのブランドについての情報を収集したいブランドを使用していると楽しい |
各質問文に対して5段階のリッカート尺度の選択肢を設定し、5つの項目について競合ブランドとの差異を明らかにします。
顧客満足
ブランドが提供する商品やサービス自体への評価が顧客満足です。顧客満足に関わる評価指標はCS(顧客満足指標)のほか、GCR(目標達成率)、CES(顧客努力指数)、NPS(ネットプロモータースコア)などが挙げられます。
ブランドの商品カテゴリーの特性によって、適切な測定指標を取捨選択する必要があります。
- CS(顧客満足度指標)
商品やサービスそのものに対する満足度。提供を受ける前の期待に対する実際の体験の主観的評価が比較される。
- GCR(目標達成率)
商品やサービスを消費することで目的がどの程度達成されたかを評価する。
- CES(顧客努力指数)
商品やサービスを消費するまでに至る手間や労力が適切なものであったかどうかの評価。
商品やサービスの推奨度を測る指標。
ブランド連想
ブランド知識・理解と紐づいてブランドによってイメージされる概念や感情を総合的に捉えたものがブランド連想です。
測定法としては、調査票のなかでブランド名から想起されるキーワードやフレーズを自由回答で列挙してもらうという形を取ります。
連想されるキーワードやイメージは、以下の要素に分類できるとされています。
1.製品属性 2.無形資産 3.顧客便益 4.相対価格 5.使用状況/使用方法 6.使用者/顧客 7.有名人/人物 8.ライフスタイル/個性 9.製品クラス 10.競争業者 11.国/地理的区域 |
連想されるイメージは強さ、多様性、一貫性の3つの軸で評価され、それぞれは以下の要素で指標化します。
- ブランド連想の強さ:キーワード・フレーズの出現度数
- ブランド連想の多様性:キーワード・フレーズのバラつき
- ブランド連想の一貫性:キーワード・フレーズの上位集中度
ブランド・エクイティの把握はCEPの特定・開発に不可欠
ブランド・エクイティの測定方法について述べましたが、ブランド認知の測定はひとつのCEPに対する競合ブランドとの比較を行う場合に有効であり、ブランド連想はCEPに結びつく要素を特定するための情報として活用できます。
ブランド・エクイティの各要素を調査によって把握することは、既存ブランドのCEPの特定と新たなCEPを見出すためのプロセスです。
また、既存ブランドの新たなCEPを開発する場合、または、カテゴリー内で新たなCEPに対応するブランド開発を行う場合に、新たに設定するCEPがブランドにとって適切かどうかを慎重に判断する必要があります。
CEP自体が消費者に受け入れられるものでなければ新たな収益に結びつかないばかりか、不適切なCEPによって既存のブランド・エクイティが既存される可能性もあるからです。
まとめ
幅広いCEPを持つブランドは市場占有率も高いというデータが示されており、ブランドを成長させていくためには、顧客ロイヤルティを高めて顧客維持に注力する以上に新規顧客の獲得に向けた取り組みの比重を高めていく必要があります。
ブランドのCEPの範囲を広げていくに当たって、ブランド・エクイティの現状を正しく把握することが不可欠です。
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