アンケートを使った効果的なVOC(口コミ)の集め方 | VOCの収集チャネルのなかでアンケートをどう位置づけるか
AIを使ったテキスト解析や音声認識の技術が進化してきたことと合わせて、VOCをマーケティングに取り入れる動きが活発化しています。
VOCを収集・分析するシステムやツールを運用する企業は増えていますが、分析結果を課題解決に結びつけるためにはツールだけでは完結しないケースも少なくありません。
集まるデータに加えて集めるデータであるアンケートやインタビューを機動的に活用することが、VOCを効果的に活用するためには不可欠です。
VOCの収集チャネルのひとつに位置づけられるアンケート調査の活用方法について解説します。
VOCとは
VOC:Voice of Customerは、業務改善や商品開発に活かすことを前提として収集される顧客や消費者からのフィードバックのことです。コールセンターをはじめとする問い合わせ窓口に寄せられる意見や要望、SNSに投稿された口コミの評価などが、VOC(顧客の声)として活用することができます。
VOCは音声やテキストとして収集される定性データに分類され、通話やインタビューの音声は分析する段階ではテキストに変換されます。
顧客の意見や要望を業務改善や商品開発に反映させるための取り組みは、従来から行われてきましたが、大量に収集するデータの蓄積と分析のための多大な労力が課題となっていました。
テキスト解析や通話の音声認識技術が実用レベルになりVOCの収集と分析が容易になったことが、VOCが再認識されている要因のひとつと考えられます。
顧客それぞれが持つ商品やサービスとの関わりと文脈のなかで、インサイトを見出すための情報源となるのがVOCです。
収集チャネル
企業が事業活動を行うなかで、顧客からの声や反応を収集することができるタッチポイントや、顧客が自発的に発信する「声」が集積される場所は複数存在します。それぞれのポイントで収集されるVOCの種類や収集方法によって、VOCデータの運用方法を検討する必要があります。
問い合わせ窓口
コールセンターやカスタマーセンター、コンタクトセンターなど名称はさまざまですが、問い合わせを受け付ける窓口は、顧客や消費者の側から直接的な形でVOCが届く場所です。
企業規模や業種などによっては、VOCの種類(問い合わせの内容)ごとに専門の窓口を設けることも一般的です。
VOCを有効に活用するためには、寄せられるさまざまな種類の問い合わせを収集・蓄積し、課題解決につなげる仕組みを構築する必要があります。
セールス・サポート
セールスプロセスのなかで捉えることのできる、顧客からの意見や要望、評価などもVOCの一つです。問い合わせ窓口に集まるVOCと異なるのが、顧客の声を吸い上げられるかどうかがセールス担当者のスキルに依存する場合もあることです。
セールスプロセスの標準化と合わせて、この段階でのVOCを取りこぼさない方法やフィードバックとして活かすための仕組みづくりは、VOCの活用に共通するポイントです。
サポートのための窓口は、VOCの発信者が顧客に限られるという点で、広い意味での問い合わせ窓口とは異なります。提供する商品やサービスに直結する内容や専門的な内容を多く扱うことになるため、VOCの内容の範囲が狭まります。
実際に商品やサービスを体験済みの顧客からの情報であるという点では、VOCの解像度を高めて開発や改善に活かすための取り組みが求められます。
SNS・レビュー(ソーシャルリスニング)
SNSの投稿やECサイトのレビューに挙げられた、商品やサービスに対する口コミもVOCとしての価値を持っています。
既に発信された情報であるため、収集することが容易である点で、利用しやすいVOCであるといえます。
率直な意見として価値のある情報が存在する一方で、断片的で情報量が少ないものや信ぴょう性が疑われるケースなどのノイズを取り除く必要があり、大量に収集した場合の分析の仕方に工夫が必要です。
MROC:Marketing Research Online Community(オンラインコミュニティー)
MROCは、会員(参加者)へのインセンティブの提供と合わせて、会員の主体性にもとづく自由な交流のなかで消費者のインサイトを得ることを目的とする、企業側が主催するオンラインコミュニティーのことです。
コミュニティの会員をモニターとして定量・定性リサーチを実施できるほか、会員同士のやり取りもVOCの情報源として活用することができます。
キャンペーン・イベント(マーケティング施策)
問い合わせ窓口やセールス・サポートの過程で集まるVOCは通常業務のなかで蓄積されますが、キャンペーンやイベントなどもVOCを収集するための場として活用することができます。
キャンペーンやイベントは販売促進や認知度向上など目的をもって行われるマーケティング施策であることから、施策の枠組みに応じた内容をVOCとして取り込む必要があります。
アンケート・インタビュー
アンケート調査もVOCの収集チャネルに位置づけられます。アンケートで得られる定量的な情報は顧客の声という意味ではVOCとは区別され、自由回答で得られる定性情報がVOCに当てはまります。
アンケートやインタビューによる調査で得られるVOCは、調査する側からのアスキング(質問)が前提であり、意図的にVOCの内容を限定できる点が他のチャネルで得られるVOCとは異なります。
収集する情報の形態と処理するための手段
VOCを収集する時点での情報の形態は、収集チャネルの違いやタッチポイントで用いるコミュニケーション手段によってさまざまであり、異なるフォーマットの情報をVOCデータとして蓄積・分析・共有するための仕組みを構築する必要があります。
問い合わせフォームやメールの場合はテキストデータとしてVOCが収集されるのに対し、コールセンターでの通話や対面の会話で収集されるVOCは、オペレーターや営業担当者がテキストデータ化する作業が必要になります。
コールセンターのようなVOCが大量に集まるチャネルでは、収集段階での人手の労力が効率的なVOCの運用を阻んでいた側面があります。
また、定性情報として収集されるテキスト化されたVOCを、人の手によって処理できる量には限度があることもVOCを有効に活用できない要因のひとつに挙げられます。
音声認識技術によるテキスト変換の自動化とテキストマイニングによる分析の効率化を可能にするシステムやツールを導入することがVOC活用のために不可欠なものとなっています。
VOCの内容
VOCの内容に着目すると、ポジティブな内容かネガティブな内容か、緊急性の度合い、内容が関連する部署や業務プロセスなど、さまざまな切り口から分析を行う必要があります。
個別のケースによって異なりますが、VOCの内容に関する種類分けとしては以下のようなものが考えられます。
- 問題や苦情(Complaints): 顧客が商品やサービスに関して抱えている問題や不満。製品の品質、配送の問題、カスタマーサポートへの苦情など。
- フィードバック(Feedback): 顧客が製品やサービスに対して提供する意見や評価。製品の改善点、サービスの満足度、新機能の要望など。
- 質問(Inquiries): 商品やサービスに関しての疑問や問い合わせ。製品の使い方や仕様、価格や割引に関する質問など。
- 要望や提案(Requests/Suggestions): 製品やサービスに関して提案や要望。新機能の提案、特定の商品やサービスの追加要望、改善案など。
- 購買意図(Purchase Intentions): 顧客が製品やサービスを購入する意図や予定。将来的な購入計画、特定の商品に関心を持っていることを示す。
- 好意的なコメント(Positive Comments): 顧客が満足している、良い経験をしたなど、好意的なコメント。製品の高評価、優れたサービス体験など。
- 社会的なコメント(Social Mentions): ソーシャルメディアやオンラインプラットフォームでブランドや商品に言及するもの。シェア、いいね、リツイートなど。
- 媒体の評判(Media Mentions): ニュース記事、レビューサイト、ブログなど、外部のメディアからのブランドや商品についての言及。メディア報道や評価記事など。
VOCの活用方法
VOCを収集する目的は顧客からのフィードバックを得ることであり、フィードバックを起点としたアクションに結びつかなければ、VOCを収集する意味がありません。VOCを活用した具体的なアクションには以下の2点が挙げられます。
商品・サービス・業務の改善による顧客満足度向上
寄せられるVOCの内容が問題や苦情、意見や評価である場合、その原因となる要因を特定し、解消するための改善に取り組む必要があります。
改善の対象は、商品やサービスそのものの品質や従業員が関与するもの、顧客とのコミュニケーションのあり方など、営業上のあらゆる範囲に及びます。
誠実な対応と目に見える改善を示し続けていくことが顧客満足度を向上させ、ロイヤルティの高い顧客を獲得することにつながります。
商品開発
定性情報であるVOCは、商品やサービスと顧客との関係性を高い解像度で捉える方法として有用性が高く、ターゲットの明確化や潜在ニーズの特定につながるインサイトを提供してくれるものです。
要望や提案は新商品開発のための直接的に活かせる情報であるほか、個々の顧客が持つ不満やあまり聞かれることのない問い合わせのなかに、新たなニーズやアイデアに結びつくインサイトが潜んでいる可能性があります。
参考記事
「新商品開発で実施するアンケート調査とは?マーケティングプロセスを踏んで失敗確率を減らす」
アンケートでVOCを集める場合の考え方
アンケート調査はVOCを収集するためのチャネルの一つですが、選択肢による答えを集計した定量情報の部分はVOCとは情報の質が異なります。また、調査として行うアンケートやインタビューは、顧客に調査に協力してもらった上で、企業側が意図する質問への答えを求めるものであり、顧客が主体的に発信するVOCとは区別して考える必要があります。
VOCを活用するためには顧客管理システムと紐づけられたテキスト解析機能を持つツールを使うことが一般的です。
VOCとして収集される種別のない膨大なテキストデータの解析では、キーワードやフレーズ、それぞれの関連性や係り受けなどをもとにアウトプットが示されますが、必ずしも求める課題解決に直結する形の情報が得られるわけではなく、分析者の視点によって得られる結果が異なります。
テキスト解析の結果だけでは明確にならない部分について、仮説を立てた上でより具体的な検証を行う場合に、テーマや質問項目を絞り込んだ形のVOCを収集するチャネルとしてアンケートやインタビューが役立ちます。
まとめ
VOCは、顧客ロイヤルティを高めるための処方箋、また、事業開発のためのヒントが得られる情報源という意味でも、マーケティング資産としての価値が注目されています。
ツールを導入してのVOC運用は、さまざまな分野に拡大していくことが想定されますが、ツールを導入するだけでは求める結果を得ることは難しいのが実際のところです。
VOCツールで実現できることと合わせて、アンケートやインタビューを使って能動的にVOCを収集することが必要となります。