マーケットリサーチ業界はインサイト産業へ  ネットリサーチの先にあるマーケティングリサーチの形

マーケットリサーチ業界はインサイト産業へ

ESOMAR※が2020年9月に発表した国際的なマーケティングリサーチの業界統計「Global Market Research 2020」で業界の再定義がなされ、デジタルデータの収集・分析を行う企業やコンサルティングとレポート提供を行う企業がマーケティングリサーチ業界の統計に加えられました。

従来のマーケティングリサーチ業界にテクノロジー主導型調査とレポーティングを行う企業を加え、マーケティングに関わる企業の意思決定を支援するサービスを「インサイト産業」として捉え直したという形です。

インサイト産業はどんな企業群で構成されるのか、どんな業務領域が加えられたのかについて解説します。

※ESOMAR(European Society for Opinion and Marketing Research):グローバルなマーケティングリサーチの業界団体

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インサイト産業の構成

ESOMARによって提唱されたインサイト産業の業務領域は以下のようになっています。

カテゴリー売上高セグメントセグメントの解説(典型例)代表的な企業
テクノロジー主導調査a.企業内フィードバックシステム調査データを含む社内外の多様な DBを一元化し、継続的・自動的に収集・更新したデータをプラットフォームツールで提供Medallia、Verint、Forsta等
b.セルフサービスプラットフォーム(旧DIY)自社開発のDIY調査集計システムや、Aiを活用したデータ分析ツールを提供。またはクラウド環境を通じて調査/集計システムを貸し出し。Qualtrics、Momentum、Toluna等
c.ソーシャルリスニング・コミュニティSNSやオンライン上のテキスト、画像・動画データを収集・分析し、その分析結果を基に広報・PR戦略等を支援。顧客コミュニティ運営ツールの提供も。Cision、Splinklr、ホットリンク等
d.デジタルデータ分析(MarTech)Webやオンライン上のビッグデータを収集し、外部データや顧客DB等と合わせて分析(ただし、CRMサービス等を除き、分析部門の売上に限る)。Adobe、Salesforce、Oracle、ブレインパッド、ALBERT等
レポーティングe.経営コンサルティング/シンクタンク調査やデータ分析からさらに進んで、顧客企業の経営戦略変革提案までを手がける。日本ではシンクたんうによる調査研究/コンサル事業を含む。McKinsey、BCG、Deloitte、Accenture、PwC、三菱総研等
f.業界特化型調査レポート特定の業界(IT 、自動車等)に専門特化し、デスクリサーチやヒアリング調査等を通じて情報を収集・分析し、汎用レポート/カスタムレポート/DB等を提供。矢野経済、富士経済、JD Power、Gartner、IDC等
確立された市場調査領域g.サンプルパネル提供自社でアクセスパネル(調査モニター組織)を構築し、(国内外を問わず)外販する。国際的な提携・協力関係が深化している。Dyanate、Cint、Prodege、GMOリサーチ等
h.(従来型の)確立された市場調査伝統的な定量・定性調査、従来からあるデータ分析業務、集計業務等。(従来からある市場調査会社、JMRAの正会員社等)
ESOMAR提唱の各売上高セグメントの解説 / 引用:一般社団法人日本マーケティングリサーチ協会「第47回経営業務実態調査」p2

インサイト産業として再定義が行われた背景として、インターネットやデジタルデータの活用がマーケティングリサーチにおいてもその比重を増してきている点、また、セルフ型アンケートツールに代表されるDIYツールやMAツールなどのプラットフォームによるマーケティングリサーチの内製化の流れが挙げられています。

手法が確立されたマーケティングリサーチ

手法が確立されたマーケティングリサーチとは、アンケート調査やインタビュー調査会場テストホームユーステストなど、アクセスパネルを活用するインターネット調査も含めて、従来から行われてきたマーケティングリサーチを指します。

国内でこのカテゴリーに入る企業はクロス・マーケティング、インテージ、マクロミルなど、大手マーケティングリサーチをはじめとする企業群が挙げられますが、各社ともにデジタルデータを活用する分野への取り組みも行っています。

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従来の確立された手法を用いる市場調査

インテージや日本能率協会総合研究所、日経リサーチなどインターネット調査が普及する以前から国内の市場調査を担ってきた企業群に加え、マクロミルやクロス・マーケティングなどインターネット調査への参入からマーケティングリサーチの業務領域を拡大してきた企業群が含まれます。

定義の内容伝統的な定量・定性調査、従来からあるデータ分析業務、集計業務等。
代表的企業クロス・マーケティングインテージマクロミル日本能率協会総合研究所サーベイリサーチセンター日経リサーチビデオリサーチニールセンIQJapan(外資系)カンター・ジャパン(外資系)イプソス(外資系)GfKジャパン(外資系)など

サンプルパネル提供

アクセスパネル(調査モニター)の組織化を起点としてマーケティングリサーチに参入してきた企業群でGMOリサーチが代表的な企業です。マーケティングリサーチ各社ともに独自のアクセスパネルを組織するほか、海外も含めて外販や提携・乗り入れなどが行われています。

定義の内容自社でアクセスパネル(調査モニター組織)を構築し、(国内外を問わず)外販する。国際的な提携・協力関係が深化している。
代表的企業GMOリサーチマーケティングアプリケーションズモニタスダイネータ(外資系)シントジャパン(外資系)

デジタル技術主導型調査

CRM(顧客管理)やSFA(営業支援)、MA(マーケティングオートメーション)などで得られる顧客との接点をマーケティングリサーチに活用する仕組みと、それにより従来アウトソースしていたリサーチの内製化を図るのがこのカテゴリーのサービスです。加えて、SNSやビッグデータを分析対象とするマーケティングリサーチも含まれます。

企業内フィードバックシステム

顧客・従業員間でやり取りされるデジタルデータを統合するSaaSプラットフォームを構築し、CX(カスタマーエクスペリエンス)やHX(ヒューマンエクスペリエンス)の管理・向上のためのシステムを提供しています。

定義の内容調査データを含む社内外の多様なDBを一元化し、継続的・自動的に収集・更新したデータをプラットフォームとして提供。
代表的企業メダリアジャパン(外資系)ベリントシステムズジャパン(外資系)フォルスタ(外資系)

セルフサービスプラットフォーム

セルフ型アンケートツールに代表される、リサーチの内製化を支援するためのシステムを提供しするものです。CRMツールやコミュニケーションツールと連動した顧客アンケートを行うシステムなどが典型的な活用方法です。セルフ型アンケートツールはマーケティングリサーチ各社でも提供しています。

定義の内容自社開発のDIY調査集計システムや、AIを活用したデータ分析ツールを提供。またはクラウド環境を通じて調査/集計システムを貸出し。
代表的企業クアルトリクス(外資系)モメンタムジャパン(外資系)トルーナジャパン(外資系)
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ソーシャルリスニングコミュニティ

主にソーシャルメディアをマーケティングリサーチの対象として、モニタリングや分析を行うサービスを提供しています。

定義の内容SNSやオンライン上のテキスト、画像・動画データを収集・分析し、その分析結果を基に広報・PR戦略等を支援。顧客コミュニティの運営ツールの提供も。
代表的企業シジョンジャパン(外資系)スプリンクラージャパン(外資系)メルトウォータージャパン(外資系)ホットリンク

デジタルデータ分析

デザインツールのアドビ、CRMソリューションのセールスフォース、情報システム構築のオラクルなど、外資系ソフトウェア分野の大手企業のほか、ビッグデータ分析をメインに掲げるスタートアップ企業などが含まれます。これらの企業のデータ分析ノウハウがマーケティング領域に活かされるようになってきています。

定義の内容Webやオンライン上のビッグデータを収集し、外部データや顧客DB等を合わせて分析(ただし、CRMサービス等を除き、分析部門の売上に限る。)
代表的企業アドビ(外資系)セールスフォース(外資系)日本オラクル(外資系)ブレインバッド

レポーティング

インサイトを見出すための手段や仕組みを提供するのではなく、自ら集めた情報を専門的な知見や経営戦略の視点からのインサイトとして提供するサービス領域です。

コンサルティングファームやシンクタンクのほか、特定の業界の情報に強みを持つ企業や従来から業界別の市場調査を行ってきた企業が含まれます。

経営コンサルティング/シンクタンク

コンサルティングファームやシンクタンクは経営レベルの情報提供を行いますが、そのなかにはマーケティングに関わる情報も包含されています。経営判断に資する情報という点では経営戦略レベルかマーケティングレベルかという明確な区別はありません。

定義の内容調査やデータ分析から更に進んで、顧客企業の経営戦略変革提案までを手がける。日本ではシンクタンクによる調査研究/コンサル事業を含む。
代表的企業<経営コンサルティング>マッキンゼー・アンド・カンパニー(外資系)ボストンコンサルティンググループ(外資系)デロイトトーマツコンサルティング(外資系)アクセンチュア(外資系)プライスウォーターハウスクーパース(外資系)<シンクタンク>野村総合研究所三菱総合研究所日本総合研修所富士通総研キャノンマーケティング

業界特化型調査レポート

この分野に含まれる外資系企業は、自動車(J.D.パワー)やIT(ガートナー)など、特定の業界情報の提供からリサーチの対象やサービス領域を広げていった企業が挙げられます。

矢野経済研究所や富士経済は、さまざまな業界のマーケットレポートを古くから手掛けてきた実績があります。

定義の内容特定の業界(IT、自動車等)に専門特化し、デスクリサーチやヒアリング調査等を通じて情報を収集・分析し汎用レポート/カスタムレポート/DB等を提供。
代表的企業J.D.パワージャパン(外資系)ガートナージャパン(外資系)IDCジャパン(外資系)矢野経済研究所富士経済

まとめ

ビッグデータやAIの活用、DXの浸透など、企業を取り巻く情報環境は日々進化しています。マーケティングリサーチの領域でも情報の流通経路や仕組み、分析方法などが多様化しており、従来のマーケティングリサーチ業界として捉えきれなくなってきたのは必然的なことといえます。

また、分けられたカテゴリーは明確に区別できないものも多く、従来のマーケティングリサーチ企業も既に新しい領域への取り組みを積極化させています。

リサーチャーやマーケターは、マーケティングリサーチの新しい方法についてもキャッチアップしていくことが求められてます。