インサイト業界のレポーティングカテゴリー / 産業別マーケットリサーチを行う調査会社

インサイト業界のレポーティングカテゴリー

産業別のマーケットを独自に分析し、企業の経営層や報道機関、広告代理店のマーケティング部門などに対してレポートを提供するのがインサイト産業(マーケティングリサーチ業界)のレポーティングというカテゴリーに属する企業群です。

レポーティングというカテゴリーは2020年にESOMAR※の統計資料のなかに加えられたものですが、新たに加えられたのは戦略系のコンサルティングファームやシンクタンクと、古くからマーケティングリサーチ業界の一翼を担ってきた業種・業界別の市場調査を行う調査会社です。

このカテゴリーに属する企業について解説します。

※ESOMAR(European Society for Opinion and Marketing Research):マーケティングリサーチの国際的業界団体

マーケティングリサーチとは|基礎から応用まで徹底解説

マーケティングリサーチの意味、目的、条件、方法、必要なことなどを詳細解説。マーケティングリサーチの必須情報が詰まっています。

ESOMAの分類における業界特化型調査レポートとは

ESOMAは世界規模のマーケティングリサーチの業界団体であり、業界レポートである「Global Market Research 2020」のなかで、従来のマーケティングリサーチ業界をインサイト産業と捉え直す枠組みが公表されました。

業界団体ではこれまで、各調査会社のアンケート調査やインタビュー調査、会場調査など従来のリサーチ手法の売上をもとにマーケティングリサーチ業界の市場規模を集計していましたが、これにテクノロジー主導型の調査とレポーティングというカテゴリーが加わった形です。

テクノロジー主導型の調査には、CRM(顧客管理)・SFA(営業支援)・MA(マーケティングオートメーション)ツールにマーケティングリサーチの要素を組み込んだものやセルフ型アンケートツール、ソーシャルリスニングなどの分野が含まれます。

レポーティングに分類されるのは戦略系コンサルティングファームとシンクタンクに加え、業界特化型調査レポートを提供する市場調査会社です。

最後に挙げた業界特化型調査レポートという呼び方は、具体的にどんな業務を行う企業が含まれるのかがイメージしづらく、一般的にもあまり知られていない種類の調査会社といえます。実際には業歴の長い企業が多く、企業の経営層や広告代理店等を主要な顧客として専門的な調査・分析結果を提供してきた調査会社です。

JMRA(一般社団法人日本マーケティングリサーチ協会) 「第47回経営業務実態調査 2022年度」のなかで示されたレポーティングカテゴリーの解説と具体的企業は以下のようになっています。

【ESOMAR提唱の各売上高セグメントの解説「レポーティング」】

売上高セグメントセグメントの解説代表的な企業の例
経営コンサルティング / シンクタンク調査やデータ分析からさらに進んで、顧客企業の経営戦略変革提案までを手掛ける。日本ではシンクタンクによる調査研究 / コンサル事業を含む。McKinsey、BCG、Deloitte、Accenture、PwC、三菱総研 等
業界特化型調査レポート特定の業界(IT、自動車)に専門特化し、デスクリサーチやヒアリング調査等を通じて情報を収集分析し、汎用レポート / カスタムレポート / DB等を提供。矢野経済、富士経済、J.D.Power、Gartner、IDC 等

レポーティングに分類される代表的な企業

マーケティングリサーチを行う企業の分類としてレポーティングというカテゴリーが設けられたわけですが、何をレポーティングするのか、どんな種類の企業が該当するのかという点がわかりにくい印象を受けます。

具体的には以下のような企業が代表例として挙げられます。

経営コンサルティング / シンクタンク

コンサルティングファームとはクライアント企業の経営レベルの課題解決や意思決定のため助言を行うことを主要な業務としています。

シンクタンクは経済予測や政策提言など公共部門に関わる調査研究を行うことが中心的な仕事ですが、民間企業をクライアントとしてコンサルティングファームと同様なコンサルティングやアドバイザリーの役割を担うことも行っています。

コンサルティングファームとシンクタンクの業務領域は重複する部分も多く、社会経済全体に関わるマクロ環境の分析から、個々のビジネスに関するコンサルティングまで幅広いのが特徴です。

マッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company)

米国を本拠地とし世界60カ国に支社を置く世界的なコンサルティング会社です。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)とともに戦略系コンサル2大ファームといわれており、マッキンゼーは「ザ・ファーム」という呼び方で区別されます。

組織変革のためのフレームワークである「マッキンゼーの7S」や経営リソース配分のGE(ゼネラル・エレクトリック社)のビジネススクリーンなどがマッキンゼーのオリジナルであり広く知られています。

業務領域は産業別と機能別それぞれ多岐にわたり、国内トップ企業30社のうち8割の企業をサポートしています。

【産業別業務領域】

先端エレクトロニクス・半導体、自動車・産業機械、化学・農業、消費財、電力・ガス、エンジニアリング・建設・建材、金融サービス、ヘルスケアシステム・サービス、ライフサイエンス、金属・鉱業、石油・ガス、紙・板紙製品・包装材、プライベート・エクイティ・プリンシパルインベスター、パブリックセンター、小売、テクノロジー・メディア・通信、トラベル・運輸・インフラ
マッキンゼーの産業別業務領域

【機能別業務領域】

デジタル、グロース(成長)・マーケティング・アンド・セールス、Leap by McKinsey(新規事業立案)、オペレーション、人材・組織・パフォーマンス、戦略・コーポレートファイナンス、サスティナビリティ、企業変革
マッキンゼーの機能別業務領域

ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)

マッキンゼーと双璧をなす戦略系コンサルティングファームとして知られ、世界100カ所以上の拠点と25,000人の社員を要するグローバル企業です。

経営戦略専門のコンサルティング会社として1963に米国で創設し、欧州の拠点に先駆けて1966年に東京オフィスを開設しました。そのほか名古屋、京都、大阪にも拠点が置かれ、日本での事業展開はBCGのほうが積極的です。

マッキンゼーも同様ですが、同社に所属した後に産業界や政界、財界、教育界などで活躍する人材を多く排出しています。

【産業別業務領域】

産業財、消費財、金融、プリンシパル・インベスター、プライベート・エクイティ、テクノロジー・メディア・通信、航空宇宙・防衛、教育、ヘルスケア、パブリックセンター、運輸・物流、自動車・モビリティ、エネルギー、保険、流通、旅行・観光
BCGの産業別業務領域

【テーマ別業務領域】

パーパス(存在意義)、気候変動・サスティナビリティ、デジタル/テクノロジー/データ、グローバルビジネス、マーケティング・セールス、人材戦略、社会貢献、ビジネス・レジリエンス、コーポレートファイナンス&ストラティジー、ダイバーシティ・インクルージョン、M&A・トランザクション・PMI、オペレーション、プライシング・レベニューマネジメント、トランスフォーメーション、顧客インサイト、イノベーション戦略とその実現、製造、組織、リスクマネジメント・コンプライアンス、ゼロベース予算
BCGのテーマ別業務領域

野村総合研究所(NRI)

野村證券調査部と野村證券コンピュータ部門を母体とする野村総合研究所は、シンクタンク・コンサルティングファーム・システムインテグレーターとして総合的な情報サービスを提供しています。

顧客基盤は国内主要企業で構成されており、収益に占めるコンサルティングの割合は2割ほどですが、ITソリューションと組み合わせて課題解決に結び付けられる総合力が大きな特徴です。

【コンサルティングサービス 業種・サービス】

電機・ハイテク、化学・素材、自動車、消費財・サービス、ヘルスケア・社会保障、エネルギー・環境、運輸・物流、住宅・不動産、ICT・メディア、金融、公共
NRIのコンサルティングサービス 業種・サービス

【コンサルティングサービス 社会課題領域】

社会課題の解決に向けたアプローチ、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、グリーントランスフォーメーション(GX)、CSV・ESG、ESG金融・トランジションファイナンス、プライバシーガバナンス、フード・バリューチェーン、都市再生・地方創生、震災復興・産業再生、イノベーション・産学連携、ルール形成・経済安全保障、デジタルガバメント、スマートシティ・スマートビル
NRIのコンサルティングサービス 社会課題領域

【コンサルティングテーマ】

経営改革、組織・チェンジマネジメント、人材戦略・人的資本、クロスボーダーPMI、イノベーション・マネジメント、DX戦略、データサイエンス&アナリティクス、マーケティング・CX、サービスデザイン、デジタル業務改革、Global ERP、SCM
NRIのコンサルティングテーマ

三菱総合研究所(MRI)

三菱グループ各社の共同出資によって設立されたシンクタンクであり、コンサルティングサービスと三菱UFJフィナンシャル・グループを顧客とする金融・カード事業を収益源としてます。

公共部門からの委託事業を数多く手掛け、社会課題解決に向けての調査研究、政策提言などに強みを持っています。

【サービス・ソリューション】

経営コンサルティング、デジタルトランスフォーメーション、エネルギー、サスティナビリティ、情報通信、テクノロジー、MaaS、スマートシティ・モビリティ、ヘルスケア、人材、防災・リスクマネジメント、経済・社会・技術、海外戦略・事業、食品・農業
MRIのサービス・ソリューション

【経営コンサルティングサービスメニュー】

経営戦略・事業戦略の立案と実行、新型コロナによる社会環境変化を踏まえた戦略コンサルティング、中長期ビジョン・新事業・サービス開発コンサルティング、新事業・イノベーション創出、企業・業務コンサルティング、組織・人材戦略コンサルティング、エンタープライズ・リスクマネジメント、技術・研究開発・知財コンサルティング、海外事業展開支援、海外における制度構築支援、ヘルスケアビジネスのコンサルティング・事業化支援、職能ビジネス、不動産・まちづくり・スマートシティのコンサルティング・事業化支援
MRIの経営コンサルティングサービスメニュー

業界特化型調査レポート

大手コンサルティングファームやシンクタンクのような知名度はありませんが、具体的な例として以下に挙げた企業は、国内市場調査業界では歴史の長い企業です。

カバーする産業分野や業界の種類は幅広く、フィールドリサーチによって集められた情報をもとにレポートが作成されます。

矢野経済研究所

1958年創業の国内市場調査会社のパイオニア的存在です。自社企画調査資料の販売と受託調査のほか、シンクタンク、経営コンサルティング、データベースサービスなどを主力事業としています。

その他にもM&Aマッチングやアライアンス支援、ビジネス研修やセミナーなどにも力を入れています。

【産業分野】

ファッション・スポーツ・美容・生活雑貨、その他消費財、食品・アグリ・バイオ、建設・住宅・不動産・建材・住宅設備機器、ヘルスケア・医療・医薬・介護・医療機器、流通小売・サービス・金融、ブランドビジネス・ライフスタイル、環境・エネルギー・自動車・機械・エレクトロニクス、マテリアル~プラスチック・セラミックス・紙パルプ、情報通信、教育・人材、レジャー・エンタメ・パチンコ・パチスロ、産業全般、海外関連
矢野経済研究所の産業分野

【受託調査メニュー】

事例 1:新商品投入先市場の実態把握調査(業界動向調査、販路状況調査、ユーザー調査、先行企業の動向調査)事例 2:海外市場進出支援調査(現地価格調査、進出先販路開拓の調査、現地市場実態調査、仕入先動向調査)事例 3:既存市場での自社ポジショニング把握(マクロ環境調査、競合企業の同行把握調査、ユーザー動向調査、チャネル動向調査)事例 4:流通チャネル調査(自社ないし他社の評価調査、新規販売網開拓の調査、販路状況調査、出店戦略調査)事例 5:エンドユーザー評価調査(BtoC、BtoB)(顧客満足度調査、特定製品・サービスの潜在需要調査、ブランド評価調査)
矢野経済研究所の受託調査メニュー

【事業創造・コンサルティングサービス】

開発技術マッチング支援、技術課題調査支援、事業の市場性評価業務、企業誘致に関する支援業務、地域の観光資源活用支援、地域資源を活かした地域振興支援
矢野経済研究所の事業創造・コンサルティングサービス

富士経済

矢野経済研究所とともに業界調査の老舗企業のひとつであり、1960年代から業界別の調査レポートやマーケティング要覧・年鑑といった資料を企業向けに提供してきた歴史があります。

サプライチェーンを構成する各事業者に直接取材を行うフィールドリサーチが情報価値の源泉であり、マーケットを理解する上で貴重なインサイトを提供しています。

【カテゴリ別レポート】

フードサービス、ヘルスケア、医薬品・メディカル、化粧品・トイレタリー、産業機器・制御機器、電子機器・電子部品、ICTソリューションサービス、ケミカル・マテリアル、エネルギー、環境・社会・インフラ、建築・住宅、自動車・輸送
富士経済のカテゴリ別レポート

【受託調査 調査対象分野】

(消費財・生活サービス分野)食品・飲料、食ai、食品流通、外食産業、特定保健用食品、サプリメント、化粧品、化粧品材料、トイレタリー、医療用医薬品、動物薬、医療、介護用品、ペット関連、通販、eコマース、家電など(生産財・B2Bサービス分野)制御機器、ロボット、電子部品実装機、工作機械、画像処理、検査装置、物流・搬送システム、モータ/アクチュエータ、センサ、リレー、スイッチ、半導体、二次電池、タッチパネル、フィルム、生産管理システム、樹脂材料・複合材料など(社会インフラ)電力・ガス、系統、発電、再生可能エネルギー、エネルギー・マネジメント・システム、水処理、環境設備、自動車、新交通システム、住宅、建築設備・建材、HVAC、証明・光源、セキュリティ、アグリビジネスなど
富士経済の受託調査 調査対象分野

【受託調査 調査内容】

(市場・業界調査)市場規模と予測、トレンド分析、マーケットシェア分析、有望分野分析、参入企業動向など(競合企業調査)経営実態・戦略分析、生産体制・開発体制/同行分析、新技術・新製品分析、価格戦略分析など(流通調査)販売・物流チャネル分析、価格戦略分析、サプライチェーンマネジメント分析など(消費者調査)メーカー・製品・価格等、評価及び満足度のサンプリング調査グループインタビュー、ユーザー分析など(海外調査)市場・業界調査、競合調査、消費者調査、産業構造分析、政策・法令・参入障壁分析、商習慣分析など
富士経済の受託調査 調査内容

まとめ

記事のなかで取り上げた、コンサルティングファーム、シンクタンク、市場調査会社は、ネットリサーチを主体とするマーケティングリサーチ企業とは成り立ちやカバーする情報の範囲が異なっています。

企業の意思決定に資する情報提供サービスという点ではマーケティングよりも経営全般に関わる領域を網羅しており、提供される調査レポートは経営層の情報ニーズに対応するものでもあります。

コンサルティングフィーや調査レポートは高額ですが、それだけの価値のある情報が提供されています。

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