カスタマーサクセスで活用するアンケート調査 SaaSビジネスの顧客満足度調査とは
toBのSaaSビジネスはユーザーがサービスを活用できるまでの過程が重要視されます。サービスをスムーズに導入し活用できるかが顧客満足度を左右し、継続利用やアップセル・クロスセルに大きな影響を与えるからです。
顧客の実態を把握し評価を改善につなげるための解決策となるのがアンケート調査です。SaaSビジネスにおけるアンケート調査の活用方法について解説します。
SaaSにおける顧客維持の重要性
SaaSがリアルビジネスやECと異なるのは、ビジネスの成果に直結する要素としてサービスの利用継続が大きな意味を持っていることです。
SaaSのビジネスモデルは新規顧客獲得に要するコストと既存顧客の維持に要するコストの格差が大きいことと、チャーンレート(解約率)が高い状況ではビジネスの成長につながらないという点に特徴があります。
これらの点からSaaSビジネスでは新規顧客の獲得に加えて、既存顧客の維持にも力点が置かれることになります。
カスタマーサクセスに必要な顧客満足度調査
リアルのビジネスと比較するとSaaSビジネスは顧客の反応として知ることができるのは登録数や課金率、利用頻度などダイレクトな数値に反映されるサービスの結果に限られます。
カスタマーサポートは顧客との接点のひとつですが受け身の対応であることから、評価や問題点を改善に活かすためには仕組みづくりが必要です。
SaaSビジネスでは、カスタマーサクセスがこの点を補う役割を果たしますが、顧客からの声を集約して活かす仕組みがないとプロダクトやサービスに反映させることはできません。
SaaSビジネスにおいて、プロダクトの使用状況・実態、または、サービスやサポートに対する満足度や評価を積極的に把握する取り組みは不可欠であり、それがプロダクトの改善とカスタマーサクセスの具体的なアクションにつながっていきます。
現状把握のためのヘルススコア
カスタマーサクセスで顧客へのアクションの前提となるのはカスタマーヘルススコアです。カスタマーヘルススコアはサービスの利用状況を指標化することで、ビジネスそのものの将来性やカスタマーサクセスの貢献度を可視化することができます。
ヘルススコアに採用すべき指標はケースにより異なりますが、次のようなものが想定されます。
- ユーザーアクティビティ
- 利用頻度
- ログイン回数
- アクション実行数 など
- 課金状況
- 売上高
- 課金率
- チャーン(解約率) など
- ユーザーサポート
- 問い合わせ回数
- 問い合わせ対応時間
- 問題解決率
- VOCなど
- 顧客満足度
- NPS®(ネット・プロモーター・スコアSM)
- CSAT(顧客満足度指数)
- CES(顧客努力指数)
- GCR(目標達成率)など
これらの指標のうち、ユーザーアクティビティ、課金状況、ユーザーサポートは自動的に集まる情報ですが、顧客満足度は能動的に情報を収集する必要があります。これらの情報を収集するための手段のひとつとなるのがアンケート調査です。
ユーザーアクティビティや課金状況、ユーザーサポートで数値化されるヘルススコアを前提とし、これらの数値を向上させるために顧客満足度のどの要素を高めることが必要かを検討することが重要です。
ヘルススコアによる顧客セグメントごとの対応
ヘルススコアは改善やサービスの向上を目的とするだけでなく、顧客のセグメンテーションにも活用されます。ヘルススコアを基準として顧客層を分類し、ビジネスの成果に繋がりやすい顧客層を特定することで、経営資源を効率的に振り分けることが可能になります。
有望な顧客層にセールスフォースを集中するのは多くのビジネスに共通することですが、LTV(顧客生涯価値)の向上が見込めない顧客に対し必要以上の働きかけを行うことは、効率的なセールスと顧客維持にはつながりません。
顧客セグメントごとのアプローチ方法を区別する方法論としてタッチモデルがあります。LTV(顧客生涯価値)の大きさを基準に顧客層を分け、売上に対するインパクトによって段階的にセールスやサポートのリソースを割り当てるという考え方です。
タッチモデルでは顧客層によるアプローチ方法を次の3つに区別します。
ハイタッチ
購入単価、利用頻度、継続期間などLTV(顧客生涯価値)の上位の顧客、または、LTV向上の可能性が高い顧客へのアプローチです。カスタマイズやコンサルティングなどを含め、人員と時間を割いた個別対応を行います。
ロータッチ
ハイタッチの層に次いで収益に貢献する顧客層に向けたアプローチ方法です。サービスの利用に対して一定の実績や関心を持つ層であり、セミナーやワークショップなどを通して少人数のカスタマーサクセスチームで多くの顧客とコミュニケーションできる方法を活用します。
テックタッチ
利用実績が少なくサービスへの関与度が低い段階の顧客層へのアプローチ方法です。サービスのチュートリアルやFAQなどをコンテンツとしてあらかじめ用意するほか、人手を介さないチャットボットやメールなどシステムによるやり取りで完結させる顧客層です。潜在顧客も含め最もボリュームの多い顧客層です。
注意しなければならないのは、すべての顧客にタッチモデルの区分を一律に適用すべきものではないということです。テックタッチの接点のなかからタッチレベルを引き上げて収益につなげる取り組みは必要であり、反対に、LTVの高い顧客であってもハイタッチを求めていないケースも存在します。
当てられるリソースに制約があることはそれぞれのSaaS企業によって異なりますが、柔軟性のある臨機応変な対応力を備えることが求められます。
SaaSビジネスにおける顧客満足度
SaaSビジネスにおける顧客満足を分解したモデルにCX(Customer Experience)ピラミッドという考え方があります。顧客満足度の最終的な結果が「他者への推奨度」を測るNPS®に現れると想定のもと、他者へ勧めたいサービスの解像度を高めるために3つの段階を設けたものです。
GCR(Goal Completion Rate:目標達成率)
SaaSにおける顧客満足の最も基本的な段階とされるのが、提供するサービスが顧客が求める課題解決につながったかどうか、ニーズを満たすものであるかどうかということです。ソリューションフィットの達成度合いがGCRということになります。
CES(Customer Effort Score:顧客努力指標)
サービスを利用して求める結果を得るための過程の労力や手間、物理的・心理的コストも含めて問題がなかったかどうかに焦点を当てるものです。サービスの導入や業務への実装のしやすさ、使い勝手に対する顧客からの評価がCESに当たります。
CESは情報収集から契約、活用、更新に至るCXの各フェーズごとに段階をわけて評価を得る必要があります。
CSAT(Customer Satisfaction Score:顧客満足度)
一般的な顧客満足度として捉えられるものがCSATです。
- 全体的な満足度
- サービスの品質
- サービスの機能性
- サービスの信頼性
- カスタマーサポートの質
- 問題解決の速さ
- 対費用効果のバランス
など
これらの要素に対する評価が顧客満足を達成できたかどうかの指標となります。サービスの種類によってはEnjoyable(楽しさ)といった感情的要素も評価の対象に組み入れられます。
また、顧客満足度は事前の期待度との相対的な比較によって決まることから、知覚品質や事前期待といった要素についても評価の対象とする必要があります。
NPS®(Net Promoter Score:ネット・プロモーター・スコアSM)
最終的な顧客満足度の指標として顧客ロイヤリティを測るのがNPS®です。他者へ勧めるかどうかを10段階で評価してもらい、推奨者の割合から批判者の割合を差し引いた数値を求めるものです。
NPS®は以下の特徴を持っています。
- 購買行動に結びつく確率が高いとされ、支持層と離反層を特定することができるため財務結果との連動性が高い。
- 業績の先行指標となり、KPIとしての実用性がある。
- 測定方法の標準化により、時系列や事業間・企業間での比較に用いることができる。
カスタマーサクセスのアンケート調査の活用の仕方
SaaSビジネスでは、ここまでに挙げたヘルススコアの一部として管理すべき顧客満足度、つまり、CXピラミッドの内容がアンケート調査で聴取すべき内容です。
顧客満足度調査といった場合、一般的にはCSAT(顧客満足度指標)やNPS®(ネット・プロモーター・スコアSM)が評価項目となりますが、SaaSビジネスでは、それに加えてGCR(目標達成率)とCES(顧客努力指標)についても聴取する必要があります。
カスタマーサクセスの視点では、サービスを使うことで望む結果が得られたかどうか(GCR)と結果を得るまでのプロセスに問題がなかったか(CES)についての顧客からの評価が重要な意味を持つということです。
GCR(目標達成率)についての質問項目
GCRは調査プロジェクトのなかで質問項目に含められる以外に、FAQページやサポートが情報を提供した段階で「この内容は役に立ちましたか?」などの質問と回答フォームを組み入れたり、ポップアップで表示させたりすることでユーザーからのフィードバックを求めます。
アンケート調査の質問項目で聴取する場合は、サービスのコンセプトで想定するソリューションがユーザー側から見て実現できているかどうかという視点から質問を作成します。
CES(顧客努力指数)についての質問項目
SaaSで提供されるサービスはユーザーが使いこなすことができて初めて価値を持つことから、使い勝手の部分が満足度に大きく影響します。プロダクトそのものの機能や利用手順、設定や操作の複雑さ、問い合わせ方法やレスポンスなども含めて、それぞれのプロセスにユーザーがストレスを感じている部分がないかどうか、ネガティブな評価につながる要素をできる限り拾い上げます。
アンケート調査の調査票でCESに関する質問項目を設定する場合は、CX(顧客体験)のそれぞれのフェースごとに課題がないかどうかを聴取する必要があります。情報収集の段階から契約・商談、オンボーディングやアダプション、通常業務での活用度や契約継続・更新までの各フェーズごとに問題・課題がないかどうかを聴取します。
まとめ
ヘルススコアの現状を認識するとともに、アンケート調査によって具体的なユーザーからの声と定量的な利用実態を把握することが、カスタマーサクセスを向上させるための指針となります。
日々の顧客との接点のなかで得られる情報に加えて、アンケート調査によるフィードバックを積極的に活用する取り組みがSaaSビジネスには不可欠です。