海外進出に向けた情報収集 海外アンケートを実施する前の事前知識の重要性

海外進出に向けた情報収集 海外アンケートを実施する前の事前知識の重要性

新型コロナによる世界的な経済の停滞が回復に向かうなか、海外の市場に目を向ける企業が増加していくことは必然的な流れといえます。

海外進出を検討する段階で、海外の消費者を対象としてアンケートを行うニーズも増えていくと考えられますが、国内と海外の違いを事前に理解することなしには適切な調査を行うことができません。

海外進出のためのリサーチの段階で必要な情報についてポイントを解説します。

ポストコロナ、国内企業の海外進出の動き

新型コロナは国内経済に深刻なダメージを与えましたが、5類感染症に移行するまでに至る2023年現在ではビジネス環境も回復の兆しが見えてきています。

JETRO(日本貿易振興機構)の「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」では、コロナによる海外ビジネスへのダメージに言及する一方で「新規の海外進出意欲は衰えていな」いこと、「越境ECの活用率は4年間で約15ポイント上昇している」ことなどの結果が挙げられており、国内企業の潜在的な海外進出ニーズは低下していないことが示されています。

また、日本の農水産物・食品の輸出額は2021年、コロナ禍にあったなかでも、初めて一兆円を上回り、グローバルでの需要は一貫して拡大する傾向にあります。

これらは国内企業の海外進出の動向を示す部分的な例ですが、ポストコロナのフェイズに入り海外ビジネスへの意欲が衰えることはないことの現れといっていいでしょう。

JETROのアンケート調査で注目されるのが、中小企業のEC利用拡大です。

国内外の販売にECを利用したい、または、利用を拡大するという中小企業は46.7%に上っています。

さらに、既にECを販売に活用している中小企業のうち、47%が海外に向けた越境ECを利用しており、ECへの取り組み意欲と越境ECの利用率のいずれも、中小企業のほうが高い数値を示しています。

海外進出を図るための検討要素

海外進出を検討する際には、市場機会のあるターゲット国について、自社が扱う商品カテゴリーの市場規模や消費傾向、参入障壁、商習慣、先行企業や競合の事例などについての情報を分析しビジネスの実現性を検討します。

市場機会の検討

既に海外進出を果たしている中小規模の企業の事例を見ると、海外進出につながるきっかけや人脈などが存在し、試行錯誤の期間を経て海外市場での成功にこぎつけるといったケースが多く見られます。

市場機会を検討するために綿密な市場調査を行い、戦略性を持って海外進出計画を図るといった方法はどちらかといえば大手企業が取る方法といえます。

マーケティングのセオリーに従えば、外部環境と内部環境についての情報収集と分析にもとに市場機会を検討しターゲットとする国や進出形態を絞り込んでいくのが定石です。

進出先の市場規模・市場特性・消費傾向

前述のJETROのアンケート調査の結果を見ると、既に海外進出を果たしている企業、これから進出を図りたい企業がターゲットとしている国は、中国、ベトナム、米国、台湾などが上位に挙げられ、欧州とASEAN諸国がそれに続きます。

海外進出に成功した企業の商品やサービスにとって市場性があったのがこれらの国々ということであり、これから進出を図る企業にとってもターゲット国を選ぶ場合に参考になります。

先行企業がなぜその国を選んだのか、その国で成功した要因は何なのかを理解しておくことが重要です。

ターゲット国における自社の商品やサービスの需要があるかどうかを前提とし、国内とは異なる市場特性や消費傾向を把握したうえで市場性があるかどうかを検討します。

SEC(Social-Economic Class:社会経済階層)

進出先とする対象国の市場特性を検討する場合に考慮しなければならないのがSEC(社会経済階層)という概念です。

中国やインドを含む中央アジアと東南アジア、中南米とアフリカの多くの国々は日本や欧米など先進国と呼ばれる国とは所得水準が異なるため、商品やサービスの対象となる購買層を判断する際の指標となります。

SECの階層分けは可処分所得の大きさが基準となりますが、職業や教育水準なども加味されたものであり、各国の政府統計からシンクタンクなどがまとめたものが使われます。

輸出品目の輸出実績の調査 HSコード検索

HSコードは貿易取引において関税を決めるために使われる国際条約に基づいて定められた対象品目の分類番号で、「輸出入統計品目番号」「関税番号」「税番」といった呼び方をされます。

輸出入を行う際の関税手続きに必要なほか、財務省貿易統計からHSコードが該当する品目の輸出入実績を調べることができます。

ターゲット国での市場規模を見積もる際に参考になるほか、日本製品と競合する他国からの輸出も調べることで、ターゲット国における日本製品の位置づけを知ることができます。他国からターゲット国への輸出は他国の税関サイトで調べます。

対象とする品目のHSコードと輸出実績を調べる方法は以下のとおりです。

【HSコードの検索】
税関のサイトで「1.品目分類及び税率」から「輸出統計品目表」を選択し、該当する品目を探す。
https://www.customs.go.jp/tsukan/index.htm
【輸出実績の調査】
財務省貿易統計のサイトで「A-1 品別国別表」を選択し「輸出入、統計年月、品目、国」を指定する。
https://www.customs.go.jp/toukei/search/futsu1.htm

海外市場の調査レポートの入手

ここまで述べた情報の収集と分析は自社で行うことも可能ですが、HSコードによる輸出実績の調査をひとつとっても、そういった情報の存在を知らなければ調べることができません。

業界調査を得意とする市場調査会社では、さまざまな品目の海外市場の動向についてまとめた調査レポートを販売しており、これらを利用するのが海外のマーケットを知るための効率的な方法です。

これらの情報を提供する国内の調査会社としては矢野経済研究所や富士経済が挙げられます。

両者のホームページには以下のようなレポートのタイトルが掲載されています。

【矢野経済研究所】

  • 偏光板・部材フィルム世界市場に関する調査
  • パワー半導体の世界市場に関する調査
  • 空飛ぶ車世界市場に関する調査
  • 電動四輪車の世界市場に関する調査

【富士経済】

  • 健康食品における海外展開実態調査
  • グローバル家電市場総調査
  • ワールドワイドロボット関連市場の現状と将来展望
  • 中国の新エネ車市場の実態調査

自社の商品やサービスとターゲット国にマッチするレポートが必ずしも存在するわけではありませんが、関連分野のレポートを見るだけでも参考になる情報が得られます。

必要であれば、商品カテゴリーや対象国を指定して、調査を依頼することも選択肢のひとつです。

制約条件の洗い出し

海外進出を図る品目の市場性を検討するとともに、国内とは異なる海外市場の制約条件となる要素も検討しておく必要があります。

参入障壁や参入する際の難易度、海外で事業を行うにあたっての条件や制約を洗い出す作業を行います。

法規制

海外進出の形態によって法的規制が関連する領域は異なりますが、輸出であれば関税法のほかにも輸出が規制されている品目では主幹する省庁への届出が必要になります。

具体的な規制の例としては以下のようなものがあります。

法令名主な品目
外国為替及び外国貿易法輸出貿易管理令武器・化学兵器、麻薬、ワシントン条約該当物品、特定有害廃棄物等
文化財保護法重要文化財又は重要美術品・天然記念物・重要有形民俗文化財
植物防疫法顕花植物、しだ類、せんたい類に属する植物、有害植物、有害動物等
家畜伝染病予防法偶蹄類の動物、馬、鶏、あひる、兎、みつばち及びこれらの動物の肉、ソーセージ、ハム等
道路運送車両法中古車

上記の規制は日本国内の規制であり、これに加えて相手国の規制にも対応する必要があります。

最終的には現地の税関からの情報を確認することが必要ですが、JETROのサイト「輸出入に関する基本的な制度」https://www.jetro.go.jp/world/trade.htmlを参照することで、貿易、関税、為替管理、輸出入手続きにおける制度を確認することができます。

商習慣

商習慣の違いは必ずしも海外進出に際しての制約となるものではありませんが、ビジネスを行う上での常識の違いを認識しておかないと、ビジネスチャンスを失うきっかけを作ってしまう可能性があります。

日本と海外の商習慣の違いの典型的なものとしては以下のような点が挙げられます。

決済条件日本では月末締め翌月(翌々月)払いという支払い期間についての共通認識がありますが、海外ではこのような慣習はありません。支払いサイトは双方の合意にもとづき決められるものであるため事前に決めておく必要があります。
小売価格日本では希望小売価格として小売業者の販売価格に対して供給者側の意向が反映される余地があります。流通段階における力関係を反映するものでもありますが、海外の販売価格は販売者に委ねられるものであるという考え方が徹底しているために定価という概念がないことは知っておく必要があります。
委託販売・返品小売業者が売れた分だけの仕入れ代金を支払い、売れなかった分は返品できる制度で、日本では家電やアパレル、書籍などに残る制度です。海外では完全買い取りが主流です。
契約海外取引では契約の条件は厳格に決めておく必要があります。日本で双方の誠意にもとづき妥協の余地があるのに対し、海外取引では契約書の内容が最優先されます。

ここまで挙げたことは、海外取引の制度と取引事業者間にまつわる制約です。これに加えて、消費者の消費行動にまつわる慣習にも注意を払う必要があります。

例えば、対象とする商品の決済手段や購買頻度、購入する販売チャネルの違いなどが、マーケティング施策に関わってきます。

国内とは異なる取引環境と消費行動の違いについて広く情報を集めることが重要です。

国内と海外との違いを認識した上で海外アンケートの質問を検討する

国内でアンケートを実施する場合にも共通することですが、回答者側の実情を踏まえないまま、質問作成者側の一方的な思い込みで作られたアンケートの質問は、聞かれた側が答えようがない場合や質問作成者の意図とは全く異なる選択肢を選んでしまう可能性さえあります。

文化や習慣が異なる海外の消費者を対象にアンケートを行う場合には、記事で挙げた点を踏まえた上で、質問と選択肢の妥当性を十分に検討することが重要です。

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