企業や業界を調査対象とする市場調査|調査の種類と調査会社を紹介
消費者を対象とするアンケートやグループインタビューのほか、企業や業界についての情報を集めることも市場調査の役割のひとつです。
市場環境や競合企業の動向に関する情報収集はマーケティング戦略を立てるために必要であり、経営レベルの意思決定にも活かされる重要な調査活動です。
マーケティングリサーチや事業戦略策定のための企業や業界を対象とする調査の種類と、その分野に実績のある調査会社をご紹介します。
調査会社の利用方法について知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
企業や業界を対象とする調査の目的
市場調査やマーケティングリサーチで調べる対象とするのは、需要と供給で成り立っている市場・マーケットです。
需要側である消費者・生活者について調べることが必要であると同時に、供給側である業界全体の成り立ちや競合企業の動向について知ることも事業戦略やマーケティング戦略を策定する上で欠かすことはできません。
供給側について知るためには市場全体をマクロ・ミクロの視点から分析する必要があります。これらを分析するために活用されるのがPESTや5フォースという環境分析のためのフレームワークです。
PESTと5フォースは、それぞれマクロ環境とミクロ環境を分析することに対応しており、企業を取り巻く外部環境を明らかにすることを目的とします。
フィリップ・コトラーのPEST分析
Politics(政治的要因):規制や補助金など市場のルールの変化
Economy(経済的要因):景気動向や消費動向など価値連鎖への影響
Society(社会的要因):人口動態や世相など需要構造への影響
Technology(技術的要因):技術革新など競争パラダイムの変化
マイケル・E・ポーターの5フォース分析
業界内での競合関係新規参入の脅威代替品の存在顧客(買い手)の交渉力サプライヤー(売り手)の交渉力
外部環境を分析することにより事業戦略策定に資する以下のような判断材料を得ることができます。
市場機会の発見
潜在的な消費者ニーズを探し出すことや、自社の長所・強みを活かすことができる分野を明確にすることで、取り組むべき事業をより成功する確率の高いものにすることができます。自社の長所・強みは競合他社に対する相対的なものであり、競合他社についての情報収集は不可欠です。
成長性・収益性
対象とする市場の成長性は事業の継続や投資判断に大きく関わります。中長期的に成長が見込まれる市場であるほど事業の成功確率は高まり、事業の収益性も経営資源の効率的な活用に影響します。
競合他社の業績推移、また、新規参入と撤退の動向なども市場の成長性を判断する材料となるほか、市場にインパクトを与える新たな技術シーズといった情報にも気を配っておくことが必要です。
市場規模や市場シェア、ポジショニング
対象とする市場の大きさと競合企業の数、また、市場シェアによる位置付けは戦略上のポジショニングに関わります。業界全体をマクロな視点から俯瞰した上で、直接的な競合関係に当たる企業や協調すべき企業を具体的にする必要があります。
業界構造・取引慣行
政府の規制なども含め、流通構造やサプライチェーン全体のなかで事業活動の制約となる要素を明確にし、解消・回避することが求められます。新規参入を図る場合には、業界特有のルールや取引慣行の存在などにも留意します。
参入障壁・代替品の脅威
商品やサービスの特性、業態の種類によって参入障壁の高低は異なり、競争環境を左右する要因になります。また、代替品・代替サービスは表面化しにくい場合もあるので綿密な調査が必要です。
業界調査に実績のある調査会社
ここまで述べたような種類の情報を独自に集めようとする場合、政府統計をはじめとし、さまざまな情報源に当たらなければならず、各業界に対する知見や専門知識がなければ手に入らない情報も多いのが実際のところです。
さまざまな業界・業種についての総合的な情報をパッケージとして提供するのが業界調査に実績を持つ調査会社です。産業分野や業界ごとに総合的な市場調査レポートを販売するほか、オーダーメイドのマーケットリサーチにも対応しています。
矢野経済研究所
1958年創業の独立系市場調査会社です。自主企画調査のレポートを販売するほか、マーケットリサーチの受託調査やコンサルティング、セミナー、会員制のビジネスライブラリを提供しています。
矢野経済研究所HPのトップページに紹介されている調査レポートの一例
- 2023年度版 産直ビジネスの市場実態と将来展望~オーガニック農産物、フードロス対応などで拡大する農産物流通・販売の新潮流~
- 2022年度版 医用画像システム(PACS)・関連機器市場の展望と戦略
- 宇宙開発に伴う建設関連国内市場
- 2023 採用アウトソーシング(RPO)市場の実態と展望
- 2023 アフィリエイト市場の動向と展望
株式会社矢野経済研究所 所在地:東京都中野区本町2-46-2 中野坂上セントラルビル 創業:1958年 資本金:1億円 従業員数:200名(2021年3月現在) |
富士経済グループ
矢野経済研究所と並ぶ業界調査を手掛ける市場調査会社です。メーカーや流通事業者などを対象とするフィールドリサーチのノウハウが、ネットリサーチの会社にはない大きな強みです。
富士経済グループHPのトップページに紹介されている調査レポートの一例
- 法人・団体向け充電サービスで使用されるEV充電器の市場を調査
- 完全栄養食の国内市場は546億円(2030年予測)
- オーラルケア、パーソナルケア、ヘルスケアなどの生活用品の市場を調査
- 革新型電池の2040年世界市場を予測
- 清涼飲料と嗜好品の国内市場を調査
株式会社富士経済グループ 所在地:東京都中央区日本橋3-9-1 日本橋三丁目スクエア 創業:1962年 資本金:7,000万円(海外現地法人除く) 総社員数:343名(2021年7月現在) |
個別企業の情報を得られる調査会社
環境分析のなかでも個別企業にフォーカスした情報が必要な場合に活用されるのが企業の信用情報を扱う調査会社です。帝国データバンクと東京商工リサーチが代表的な企業信用調査会社として挙げられます。
上場企業はIR情報からある程度の情報を得ることが可能ですが、未上場企業については企業信用調査会社から提供される情報に頼らざるを得ません。
集められる情報は訪問による地道なヒアリングから得られたものであり、情報の綿密さと信頼性は他の種類の調査会社とは一線を画しています。
企業信用情報のほか、帝国データバンク、東京商工リサーチともに業界調査や競合調査を提供サービスのひとつとしています。
帝国データバンク
経済の近代化が進んだ明治時代に商工業者の信用調査を行うことを目的として設立された歴史のある企業です。
個別企業の信用調査報告書を提供するほか、企業データベースCOSMOSを活用した情報提供サービス、マーケティングに関連する業界・市場調査など、企業情報を軸としたさまざまなサービスを行っています。
帝国データバンクの「信用調査報告書」では以下のような項目の企業情報を得ることができます。
- 登記・役員・大株主
- 登記および許認可・免許関係事項
- 役員
- 大株主
- 従業員
- 設備概要
- 代表者
- 資本関係
- 設立の経緯と特記事項
- 業績推移
- 仕入先及び外注先
- 得意先
- 銀行取引等
- 資金現況
- 事業内容
- 会社の特色
- 現況と見通し
- 財務諸表
- 財務分析表
- 不動産登記
株式会社帝国データバンク 所在地:東京都港区南青山2-5-20 創業:1900年 資本金:9,000万円 従業員数:3,300名(調査取材部門1,700名) |
東京商工リサーチ
日本初の企業信用調査会社である商業興信所と時を同じくして、1892年(明治25年)に創業したのが東京商工リサーチです。
法律用語ではない「倒産」という言葉が一般的となったのは、東京商工リサーチが倒産集計を1952年に開始したことによるものといわれています。(帝国データバンクも1964年から企業倒産集計を開始しています。)
企業信用情報を中心としたサービス以外に、競合企業・業界動向調査も行っています。
東京商工リサーチの「TSRレポート」では以下のような項目の企業情報を得ることができます。
- 企業概要
- 登記及び許認可・免許関係
- 沿革
- 経営者情報
- 系列・株主・出資会社
- 主要事務所
- 主要設備・投資計画・保険加入状況
- 労務状況
- 事業構成・扱い品
- 取引先
- 資本調達・資金状況
- 業績推移・業績説明・事業内容
- 推定貸借対照表
- 財務分析
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 株主資本等変動計算書
- 販管費及び原価明細
- 推定キャッシュフロー計算書
- 推定キャッシュフロー分析
- 不動産明細
- 指定事項
- その他判明事項
- ローカルベンチマーク
株式会社東京商工リサーチ 所在地:東京都千代田区大手町1-3-1 JAビル 創業:1892年 資本金:6,700万円 従業員数:1,988名(2022年3月末現在) |
まとめ
企業や業界を対象とする調査で得られるビジネスインテリジェンスに関わる情報は、経営レベルの意思決定に必要とされるほか、マーケティングレベルの調査活動のなかでも活用されます。
例えば、マーケットシェアを明らかにする場合、自動車やビールなどのように業界団体が生産・出荷を取りまとめているケースを除いて、この記事で紹介した4社の情報をもとに推定する以外に手段がないことがほとんどです。
マーケティングリサーチでは定性調査と定量調査を有機的に組み合わせて調査の目的を達成しますが、敢えて定量調査を独自に行うよりも、競合他社を対象とする定性調査の情報に価値がある場合も少なくありません。
企業信用情報を手掛ける調査会社は信用情報の提供以外にもマーケティング分野の調査ニーズに対応の幅を広げているほか、業界調査のレポートの内容と質も年を負うごとに高度化しています。
マーケティングリサーチのなかでも重要な位置を占める業界分析や競合分析を効果的に活用することが重要です。