そのペルソナ、思い込みでは?“世代”の呪縛から逃れ、真の顧客インサイトを見つける方法

そのペルソナ、思い込みでは?“世代”の呪縛から逃れ、真の顧客インサイトを見つける方法

メディアから発信される「Z世代」「ゆとり世代」「団塊ジュニア」といった世代語りは、自分以外の世代を見るときのレンズとしてよく話題にのぼります。

ビジネスの現場においても、商品開発やコミュニケーション戦略、あるいはペルソナ設定の拠りどころをステレオタイプな世代ラベルに頼ってしまうケースもありがちです。

価値観やライフスタイルが多様化し、従来の枠組みでは捉えきれない消費行動が増える中で、各世代のラベリングは便利な物語ではあっても、検証可能な説明としては不十分です。

この記事では、世代論の限界とデータに基づくセグメンテーションのあり方を考えます。

なぜ「世代論」はマーケティングで重宝されるのか?

マーケティングにおいて「世代論」がもてはやされる理由は、それが「わかりやすい」からです。

そもそも、世代論として定着している各世代のラベルは、作家、ジャーナリスト、評論家などの社会・文化批評とマスメディアによって生み出されたものであり、そこで述べられている各世代の特性は、時代や現象の一面を切り取った1つの見解に過ぎません。

この枠組みがマーケティングの領域で取り入れられ始めたのは、バブル期以降の消費行動の多様化と市場細分化が進んだ時期に関連付けられます。企業が「誰に、どのような価値を届けるか」を明確にするうえで、世代ラベルは直感的で使いやすいセグメント指標だったわけです。

年齢や時代体験を共有する集団を「価値観」「ライフスタイル」「メディア接触」といった変数に結びつけることで、ターゲティングやコミュニケーション設計が容易になり、メディア側も「○○世代向け」といった見出しで読者を惹きつけやすくなります。

こうした分類は、ターゲット顧客のペルソナ設計やインサイト探索において、説得力を持つストーリーとして誤解してしまいまいがちです。

例えば、取り上げられることの多い3つの世代の典型的な特徴は以下のようなものです。

世代主な特徴とキーワード
Z世代スマホ世代として、物心ついた頃からインターネットやSNSが身近に存在する。コミュニケーションや情報収集をSNS中心に行い、タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する傾向がある。消費においては、共感を呼ぶ「エモ消費」や社会貢献に繋がる「イミ消費」を好み、多様性を尊重する価値観を持つ。
ミレニアル世代デジタル技術の発展と共に成長したデジタルパイオニア。モノの所有よりも体験を重視する「コト消費」を好み、シェアリングエコノミーにも積極的。コスパを重視し、ワーク・ライフ・バランスを大切にする価値観を持つ。仲間との横のつながりを大切にし、社会課題への関心も高い。
シニア世代従来の「高齢者」イメージとは異なる、購買意欲の高い「アクティブシニア」層が消費の主役として注目されている。健康・つながり志向が強く、フィットネスクラブの利用も活発。園芸のような趣味に時間を費やす傾向がある。近年ではデジタルリテラシーも向上し、スマートフォンやSNSの利用も増加している。

こうした「世代」という切り口は、科学的な視点から見るとマーケティング判断を誤らせるリスクを伴います。世代ごとの特徴を強調しすぎるあまり、背景にある社会構造や時代の本質的な変化を見落としてしまうことにつながります。

世代論はあくまで情報のひとつであり、その限界を認識しながら、柔軟に使いこなす視点が求められます。

ステレオタイプ化がもたらすリスク

「Z世代だから」「ゆとり世代だから」といったラベリングに安易に頼ることは、マーケティングの視野を狭め、判断に歪みをもたらす可能性があります。ステレオタイプに基づく解釈は、本質的な顧客インサイトの探索を妨げ、的外れの施策につながりかねません。

リスク①:多様性を無視した「過剰な一般化」

よく取り上げられる「Z世代」ですが、生まれた年が1997年頃から2012年頃までというスパンは、中学生から社会人までが含まれ(2025年現在)、年齢によるライフステージの違いが明確です。

未成年かどうかによって契約や決済、自動車免許などの法的な制約が異なることをはじめ、大学進学や就職による世帯構成の変化、学齢の進行、就労の開始によって可処分時間や支出構成が劇的に変化することなど、一括りにまとめきれない要素が数多く存在します。

「シニア世代」も同様であり、公的機関による定義や一般的な使われ方としても、55・60・65歳以上と年齢の区分と範囲があいまいであることに加え、シニアに差し掛かる年齢と後期高齢者以降では就労状況や健康状態など個人差が大きいのは当然のことです。

団塊ジュニア(1971~1975年生まれ)など、年代幅が狭い区分がある一方で、X世代(1960年代中盤~1970年代終盤生まれ)やミレニアル世代(1980~1990年中盤)など、広い年齢幅を取る場合の一般化には注意が必要です。

リスク②:断定できない「世代イメージ」

世代論の特徴が、その年代のすべての人に当てはまるわけではないことは当然のこととして、特徴としてラベリングされたイメージそのものが妥当かどうかが疑わしいものもあります。

「タイパ重視はZ世代特有の価値観」

「『タイパ(タイムパフォーマンス=時間対効果)』の実態調査」(三菱UFJ信託銀行)によると、

「タイパ実践度」は男性が若年層ほど高いのに対して、女性は30代が最も高くなっており、子育てが始まる時期の忙しさがタイパを実践する動機として考えられると述べられています。

また、タイパ重視の象徴的な行動として取り上げられる動画の倍速視聴ですが、若年層ほど実践度が高い傾向にはあるものの、20代の55%強に対して50代も45%強となっており、この違いをZ世代特有の価値観とすることが正しいかどうかは疑問の余地があります。

「タイパ」には効率という概念が含まれますが、それ以前は「時短」という言葉で言い表されてきたことであり、年代よりも生活パターンのなかの可処分時間の過多がタイパ重視の度合いに影響していると考えられ、情報過多な社会における行動様式の変化と見るのが自然です。

「Z世代・ミレニアル世代は環境意識が高い」

SDGs教育の影響などから、若い世代のほうがサステナビリティへの関心が高いと語られますが、タイパに対する意識と同様に、そうとは言えない可能性があります。

「サステナビリティに関する意識と消費行動」(ニッセイ基礎研究所調査)では、”サステナビリティについてのキーワードの認知状況もあわせて考えると、シニア層の方がサステナビリティについての知識があり、高い意識を持つものの、Z世代を含む20歳代の方がボランティア活動や情報の発信などの具体的な行動に積極的に取り組んでいる傾向がある。(ただし2割)”としています。

そもそも個人の価値観や意識は、世代という共通経験だけでなく、家庭環境、教育、職業、地域文化、メディア接触、SNSなど多様な要因によって形成されます。そのため、出生年という1つの軸で括ってしまうこと自体に無理があると言わざるを得ません。

リスク③:本質を見失わせる「思考の固定化」

世代論に対するもう一つの批判は、それが人々の思考を固定化し、社会的な分断を助長する側面もあるということです。

世代という枠組みは、あくまで便宜的な分類にすぎませんが、「Z世代はこう」「氷河期世代はこう」といったラベルが過度に強調されることで、個人の多様性や個々の状況の違いが見えにくくなります。

マーケティングやメディアの現場では、わかりやすさや共感を得やすい構図として世代間の対比が多用されますが、それが「若者 vs 中高年」といった単純な対立構造を生み、偏見や誤解を助長することもあり得ます。

結果として、世代論は現実の理解を深めるどころか、固定観念を再生産し、社会全体の対話や共感を阻むリスクを伴います。世代論を扱う際には、あくまで傾向の一つとしての相対化が不可欠であり、個人や文脈の違いを尊重する視点が求められます。

世代の違いを生む要因

世代論は、出生年をコーホート(共通した因子を持つ集団)として区分してその特性が論じられます。しかし、それぞれの世代の特徴が出生年にのみ関連付けて説明できるかどうかが検証されているわけではありません。

共通の技術・文化・経済情勢などの時代的経験が人々の意識や行動に影響を与える要素であることは社会科学の分野でも認められていることですが、世代の違いを分析する際には、以下の3つの要素との因果関係を明らかにする必要があります。

年齢効果(Age effect)

年齢効果とは、人が人生の段階を移行する中で経験する普遍的な変化を指します。社会的役割や身体的能力、価値観は、年齢とともに静かに変化していきます。

こうした変化は特定の時代や世代に依存せず、ライフコースを通じて誰にでも共通して訪れます。文化や経済環境が異なっても、人の成長と成熟の軌跡には一定のパターンがあり、それが社会全体の秩序や連続性を支えています。

時代効果(Period effect)

時代効果は、特定の時代にすべての世代が同時に経験する社会・技術・経済的な出来事の影響を捉えます 。例えば、スマートフォンの普及は、若者からシニアまで全世代のコミュニケーションや情報収集のあり方を根底から変えました 。

これは特定の世代の特性ではなく、社会インフラの変化がもたらした不可逆的な時代の流れです。同様に、バブル経済期の旺盛な消費意欲やコロナ禍におけるライフスタイルの変容なども、世代の垣根を越えて社会全体に作用した時代効果の典型例と言えます。

コーホート効果(Cohort effect)

コーホート効果は、感受性の高い青年期に共通の社会経験をした世代が、他の世代とは異なる価値観や行動様式を形成し、それを保持し続けることで生じます 。これが一般に「世代論」が指す現象です。

例えば、好景気のなかで社会人になったバブル世代の消費性向や就職氷河期を経験した世代の雇用に対する価値観は、その後のライフスタイルにも影響を与え続けます。世代交代によって社会が緩やかに変化する要因であり 、個人の価値観が変わりにくいことを示唆しています。

効果名説明
年齢効果(Age effect)・ライフコース上の変化・加齢と社会的役割の移行・個人の生涯にわたる連続的な変化就職・結婚・子育てなどによる、価値観・体力、リスク感度などの変化
時代効果(Period effect)・歴史的・社会的出来事・経済変動、技術革新、社会規範の変化バブル崩壊・スマホ普及・リーマン・ショック・震災・コロナ禍など
コーホート効果(Cohort effect)・世代的な社会化経験・特に青年期の人格形成に影響する時代的経験・世代間の不連続な違い団塊世代の集団主義、氷河期世代の雇用不安、Z世代のスマホネイティブ意識

人々の社会意識や価値観の移り変わりは社会科学の分野でも扱われるテーマですが、その時に見られた世代間の違いを解き明かす際に、APC(Age-Period-Cohort:年齢・時代・コーホート)分析というアプローチが取られます。

APC分析の識別問題

APC分析には、「年齢効果」「時代効果」「コーホート効果」の3つを明確に区別することが難しいという、「識別問題」(区別困難)が存在します。これは、3つの要素が数学的に完全に重なり合っているためです。

たとえば、ある人が2025年に30歳であれば、その人の出生年は1995年となり、「時代=年齢+出生年」という関係が必ず成り立ちます。このように、3つの変数のうち2つがわかると残り1つも自動的に決まるため、それぞれの効果を独立して推定することができません。

そのため、分析を行う際には、どの効果を基準として固定するか、あるいはどの効果をより重要視するかという仮定を置く必要があります。識別問題は理論上の制約でありながらも、研究者や実務家は補助変数や統計モデルを工夫して、できる限り各効果の特徴を見極めようとします。

この点を踏まえると、各世代ラベルの典型的な特徴は、より多様な解釈が可能であることが明らかになります。

世代特徴識別の難しさ
団塊~高齢層保守・安定志向加齢による保守化(年齢)と戦後体験(コーホート)が不可分。
ロスジェネ・ゆとり消費のコスパ化・慎重さ長期不況(時代)と、氷河期育成環境(コーホート)が重なる。
ゆとり・Z世代ワークライフバランス重視組織文化の変化(時代)+育成環境(コーホート)+ライフステージ(年齢)の三重効果。
ゆとり・Z世代ブランド離れ/モノよりコト景気低迷(時代)と個性化教育(コーホート)、さらに若年期における可処分所得の低下(年齢)も関与。
Z世代タイパ志向(効率的情報摂取)「情報過多社会」という時代効果と、「スマホ・動画文化に幼少期から慣れた」コーホート効果の区別困難。
Z世代多様性・ジェンダー感度の高さ教育・政策・メディア変化(時代)と、学校・SNSで多様性が当たり前だった社会化(コーホート)双方。

世代のラベルを疑い“いま”の顧客を捉える

「世代論」をAPC分析(年齢・時代・コーホート効果)の視点で見ると、多くの要素を切り捨てた単純化であることが見て取れます。メディアが作り上げたステレオタイプな世代像は、思考のショートカットとしては便利ですが、顧客のリアルな姿を捉える上ではむしろ足枷(あしかせ)になりかねません。

では、私たちは世代という便利な「物語」を断ち切り、顧客を正しく理解するために、何から始めるべきなのでしょうか。

「正しく疑う」ことから始める

最初の一歩は、自社がターゲットとする顧客に対して、世の中で語られる世代イメージが本当に当てはまるのかを「正しく疑う」ことです。

「最近の若者はタイパを重視する」「シニア層は健康志向が強い」といった言説は、一見するともっともらしく聞こえます。しかし、思い込みやステレオタイプによる判断は、的外れな施策を生み出す温床です。

多様性を捉えるセグメンテーションの必要性

世代という大きな括りの中には、無数の価値観やライフスタイル、購買行動が混在しています。例えば、同じ20代前半の「Z世代」でも、都市部で一人暮らしをする学生と、地方で家庭を持つ社会人では、可処分所得も、休日の過ごし方も、情報に触れるメディアも全く異なります。

マーケティングの精度を高めるためには、「世代」という一つの軸に頼るのではなく、より多角的な視点でのセグメンテーションが不可欠です。興味関心、ライフステージ、購買履歴、メディア接触態度といった多様な軸を組み合わせることで、顧客像の解像度が増していきます。

定量調査で「ファクト」を掴む

顧客のリアルな姿を捉え、精度の高いセグメンテーションを行う上で最も有効な武器が、客観的なデータ、すなわち「ファクト」です。そして、そのファクトを効率的に収集する手段が、アンケートに代表される「定量調査」に他なりません。

仮説やイメージで顧客を語るのではなく、データに基づいて顧客を理解する。この根本的な転換こそが、世代論の限界を超えるための唯一の道筋と言えるでしょう。

まとめ

世代論は、複雑な消費社会を理解するための便利な「物語」ですが、その物語に過度に依存することは、顧客の多様な実態を覆い隠し、機会損失につながるリスクを伴います。

変化の激しい現代において、マーケターに求められるのは、大きな物語に頼ることではなく、データを通じて顧客一人ひとりの「事実」に真摯に向き合う姿勢です。

セルフ型アンケートツールは、そのための最も強力な武器となります。これまで一部の専門家や大企業のものであった「顧客調査」を、すべてのビジネスパーソンの手に解放し、仮説と検証のサイクルを高速で回すことを可能にします。

ステレオタイプなペルソナに語りかけるのは、もうやめにしませんか。