マーケティング戦略策定の大原則 STPの精緻化のためのアンケートを活用のポイント
現代マーケティングの大家であるコトラーが提唱したターゲットマーケティングは、マーケティングミックスを設計するための前提であり、マーケティング施策を行う上での基本的な考え方となっています。
ターゲットマーケティングはS(セグメンテーション)T(ターゲット)P(ポジショニング)を行うことでターゲット(標的市場)に対して最も効果的なマーケティング手段を投入することです。
消費財市場を念頭に、アンケートを行う上で知っておくべきSTPの内容について解説します。
マーケティングにおける市場の概念
STPを検討するにあたってコトラーは市場の概念についてもフレームワークを提示しています。Occupants、Objects、Occasions、Organization、Objective、Operationsの7つのOです。
Occupants「誰が市場を構成しているか」
消費財市場は商品カテゴリーによって対象とする個人の属性と特性が異なり、属性や特性によって消費者が分類されます。分類されたグループが市場の構成者となります。
Objects「何を買うか」
同じ商品カテゴリーに含まれる競合ブランドや、他の商品カテゴリーに含まれる代替品が市場のなかで消費者が購入するモノです。
Occasions「いつ買うか」
商品やサービスの特性によって、消費サイクルや時間・季節などのタイミングが異なり、商品の流通を通じた適切な供給や広告などの効果的な運用に影響します。
Organization「誰が購買にかかわっているか」
消費財においても世帯を考えると購買者と購買意思決定者、使用者が異なる商品カテゴリーは存在します。家族旅行や教育関連サービス、介護用品などではマーケティングアプローチの対象を峻別する必要があります。
Objective「何を求めているか」
生理的、社会的、精神的な欲求や感情、問題解決が消費者ニーズを発生させます。消費者が求めているものの本質を見極めて、価値対コストを最適化することが求められます。
Operations「どのようにして買うか」
商品を認知してから購買に至るまでのプロセスであり、AIDMAやAISAS、SIPS、パーチェスファネルなどの購買行動モデルが知られています。
Outlet「どこで買うのか」
決済方法の多様化やネットの一般化もあり、消費者の購入場所がオンライン(EC)にも広がりました。リアルでの購買においても、立地や小売業の形態といった選択肢が多岐にわたります。
マーケティング施策が介入の対象とする部分であり、購入者特性、商品・ブランド、売り手、状況などが影響を与えます。購入者特性には心理的要因、個人的な要因、社会的要因、文化的要因などに分解できます。
心理的要因 | 動機、知覚、学習、信念、態度 など |
個人的要因 | 年齢、ライフサイクル、職業、経済状態、ライフスタイル、性格 など |
社会的要因 | 準拠集団、家族構成、役割、地位 など |
文化的要因 | 文化、下位文化、社会階層 |
STPの理論的枠組
S(Segmentation:市場細分化)T(Targeting:ターゲティング)P(Positioning:ポジショニング)はコトラーが1967年『マーケティング・マネジメント』初版でSTP理論として提唱した枠組みです。
市場調査によって市場細分化するための変数を特定し、分類したセグメントの魅力度の評価・選択、ポジショニング可能なコンセプトの特定・開発という流れで、特定したターゲットに対してマーケティングミックスの4Pを最適化することを目的とします。
セグメンテーション
ビジネスにはそれぞれに特有の顧客層があり、対象とする顧客層は商品カテゴリーによって異なります。さらに同じ商品カテゴリーでも顧客のタイプや属性が異なる場合があると同時に、異なる商品カテゴリーでも同じ属性を持つ顧客層が対象である場合もあります。
自社のビジネスの顧客を集団として捉え、共通する属性を分類の基準としたものがセグメンテーションです。
セグメントの変数は、「地理的変数」「人口統計的変数(デモグラフィック変数)」「感情・認知的変数」「行動的変数」の4つに大別されます。
地理的変数 | 地域都市規模人口密度気候 |
人口統計的変数 | 年齢性別世帯規模家族ライフサイクル所得職業教育水準婚姻関係の有無宗教人種国籍社会階層 |
感情・認知的変数 | 知識関与態度求めるベネフィット価値観革新度購買への準備段階趣味・嗜好ライフスタイル |
行動的変数 | 利用するメディア支払い方法ロイヤルティの状態使用率使用頻度使用者の状態使用状況購買機会追求便益ロイヤルティマーケティング要因への感受性 |
「Consumer Behavior and Marketing Strategy」Peter,J.P. and J.C.Olson p381より作成
地理的変数
距離や気候など物理的な条件が重要となる商品カテゴリーに必要な変数です。人口密度や都市規模など地域の経済水準に関わる要素も地理的変数となります。
人口統計的変数(デモグラフィック変数)
人口統計は入手しやすいという点で、市場を定義する際に用いられることの多い変数です。市場規模を推計する基準となるほか、例えば、「世帯主年齢 ✕ 家族数 ✕ 所得水準」など複数の変数をかけ合わせることにより、商品カテゴリーに対するニーズが発生するセグメントを推測する判断基準とすることができます。
感情・認知的変数
購買行動に至るまでの認知・態度プロセスに焦点を当てた変数といえます。商品やサービスとの関与の程度を前提として、知識や理解度、態度、目的、価値観などについて、定量調査を行って把握する必要があります。
行動的変数
商品カテゴリーやブランドに対する利用経験、使用状況・頻度など消費行動に関わる行動を基準とする変数です。感情・認知変数と同様に定量調査で把握する必要があり、購買行動を把握することは消費者を理解する上で最も重要なことに位置づけられます。
ターゲティング
細分化したセグメントのなかで、どのセグメントをビジネスの対象とするかがターゲティングです。保有するビジネスリソースによって進出できるセグメントは限定されます。
その上で各セグメントを評価し、選択すべきセグメントを選択します。その際の基準となるのがターゲティングの6Rです。
ターゲティングの6R
6Rは、Realistic Scale、Rate of Growth、Rival、Reach、Response、Ranks/Ripple Effectを指します。
Realistic Scale「有効な市場規模」
セグメントした市場がどの程度のサイズを有するかは、売上を確保しビジネスを継続していく上で最も重要です。ビジネスにマッチする市場であっても市場規模が小さければ売上は頭打ちになります。市場規模が大きなカテゴリーは参入企業も多いと想定され、シェアを獲得できるかどうかが問題となります。
Rate of Growth「成長率」
商品カテゴリーの市場規模は時代とともに変化します。成長する可能性のある市場なのか、衰退傾向が見られる市場なのかは、人口構成や産業構造など変化に加えて、技術革新の趨勢や消費トレンドなどについての情報を精査して見極める必要があります。
Rival「競合」
競合他社のブランド、サービスなどとの競争環境もターゲットとするセグメントを特定する上で重要なポイントです。参入企業の数とともに寡占の状況、参入障壁の高さなどが競争環境を判断する際の要素となります。
Reach「到達可能性」
ターゲットとの関係性において、営業・販売・広告・プロモーション・情報などを届けるためにどんな手段や方法があるか、また、それによって求めるセグメントに的確にアプローチできるかどうかが到達可能性です。
Response「測定可能性」
アプローチに対する反応を測定するための手段や方法の有無、また、それが可能かどうかという問題です。インターネットとデジタルデバイスの普及によりコミュニケーション手段が多様化したことで、到達可能性とともにさまざまな選択肢が想定されます。
Rank/Ripple Effect「顧客の優先順位/波及効果」
セグメントが複数想定される場合の優先順位、また、ターゲットとするセグメントが他のセグメントに与える影響の有無と程度を検討する必要があります。
ポジショニング
対象とするターゲットのセグメントには競合が存在します。STPにおけるポジショニングは、競合との差別化、商品コンセプトの違いを明確にすることです。
また、競争上の地位(獲得シェア)もポジショニングであり、取るべき競争戦略に関わる無視できないポイントです。
コンセプトを明確にするためのポジショニングマップ
購買決定要因(KBF:Key Buying Factor)のうち、重要な2つの要因を競合と比較して2軸のマップ上で可視化したものがポジショニングマップです。
ターゲットとするセグメントが商品やサービスにまつわるどんな要素に対して最も関心を払うのかは定量調査によって把握する必要があります。そこで抽出されたKBFについて、自社と競合との比較マトリックスを作成し、2軸マップに落とし込みます。
2つのKBFによって投入する新製品のコンセプトが明確になり、競争戦略上の差別化要因を特定し訴求要素を打ち出すことができます。
マーケットシェアによる競争地位別戦略
競合との比較という点では、市場シェアによって異なる戦略が求められることに着目したコトラーの競争地位別戦略もポジショニングに関わります。
競争地位別戦略では、市場参加者を獲得シェアによってリーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーの4段階に分類して取るべき戦略が提示されています。
類型 | シェア | 目標 | 戦略 |
---|---|---|---|
リーダー | トップシェア | No.1の維持 | フルライン化 非価格訴求 |
チャレンジャー | 2位グループ | リーダーに対抗 | リーダーとの差別化 |
フォロワー | 中位グループ | 市場での利益最大化 | 低価格訴求 |
ニッチャー | 下位グループ | 市場に定着すること | 特化したセグメントに集中 |
まとめ
1970〜80年代のマーケティング2.0を象徴するSTP理論は、現在でもマーケティング戦略策定の基本として広く用いられています。
STPの検討にはマーケティングリサーチによってセグメントを定量化する必要があり、顧客理解のためのセグメンテーション、コンセプト策定のためのポジショニングのプロセスにアンケート調査は不可欠です。
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