効果的なアンケートの作り方とは 質の高い調査を行うためのポイント
サンプルの集め方をはじめとして、質問項目や選択肢をどう設定すればいいのかなど、専門的な知識なしにアンケート調査を実施しても、結果を効果的に活用できるものにはなりません。
効果的なアンケート調査とは質の高い調査であり、調査の質にはさまざまな要素が影響します。この記事では効果的なアンケート調査を実施するための方法について解説します。
効果的なアンケート調査の条件
効果的なアンケート調査とは、マーケティング課題の解決方法やマーケティング施策の有効な打ち手につながる情報が調査結果から得られるアンケート調査です。
効果的なアンケート調査を実施するための条件として以下の3点があげられます。
- マーケティング課題に対する仮説、または、仮説を立てるために収集する情報が適切かどうか
- 必要とされる情報を得るためのリサーチデザインが適切なものかどうか
- 得られたデータの解釈とそれをもとした推論が正しいかどうか
これらの条件は調査の品質と言い換えられ、リサーチャーには質の高い調査を実現する方法を常に模索していくことが求められます。
調査の品質に関わる要素
アンケート調査の目的のひとつは、2次情報からは得られない消費者の意識や心理を解き明かし、それをマーケティングに活かすことです。
マーケティングリサーチが対象とする消費者の意識や心理という目に見えないものを説明するために、購買意思決定プロセスや製品に対する関与度、商品やサービスから得られる経験価値といった概念が用いられます。これらの目に見えないものの説明を構成概念といいます。
アンケート調査は構成概念を測定するための手段であることから、マーケティング課題に対応する構成概念とその測定に用いる方法が適切であること、さらに、測定した結果が信頼できることが調査品質に関わる要素となります。
構成概念の妥当性
構成概念という言葉は心理学や社会学、経済学などの学術分野で使われてきたものであり、消費者心理を扱うマーケティングにおいても、その分析手法の部分から取り入れられてきました。
ビジネス分野では構成概念とその測定方法について理論的な正しさよりも課題解決につながるものかどうかにより重きが置かれます。また、時代感覚や購買行動の変化に対応する形で、マーケティングに関わる構成概念は次々と新しいものが提案されています。
新しい構成概念にキャッチアップしていくことと共に、従来から用いられる調査分析手法と合わせて課題解決に最適なアプローチを選択することが必要です。
マーケティング課題は抽象度が高い形で提起されることがほとんどです。例えば、継続的な購買につながらずLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)が向上しないといったケースが挙げられます。
これをマーケティング課題としたときに、その仮説としてブランドロイヤリティの問題と捉えるか顧客満足度が要因と考えるかの見極めが、マーケティングの構成概念が妥当であるかどうかということです。
この例の場合、定性調査を含めた探索的なアプローチからLTVに関わる要因を絞り込んでいくことが実践的ですが、仮に顧客満足度にフォーカスしたとすると、ブランドロイヤリティの向上が正解であった場合には課題解決から遠のいてしまいます。
マーケティングの分野では構成概念とその分析手法が多岐にわたり、時代が進むとともにリサーチの複雑性も増しています。測定すべきものに正しく狙いを定めることが品質の高い調査のための第一歩です。
測定の妥当性
構成概念を測定する方法が正しいかどうかが測定の妥当性です。アンケート調査では、質問項目や選択肢の設定、回答形式に用いる尺度が構成概念の測定に適したものである必要があります。
消費者行動を分析する経営学や心理学の分野では、妥当性があることが検証されて広く用いられる質問尺度があり、マーケティングの分野にもそれが取り入れられています。
質問尺度の一例としてサービス品質の評価モデルとして知られるSERVQUAL(サーブクオル)モデルを紹介します。マーケティングの研究分野から提唱されたものでサービス業全般に一般化された質問尺度です。
有形成(Tangibles) 施設、設備、従業員の外見 | 1.最新の設備を備えているか2.施設の見栄えはいいか3.従業員の身なりはきちんとしているか4.施設のグレードは釣り合いが取れているか |
信頼性(Reliiability) 約束したサービスを正確に遂行するる能力 | 5.約束の期日を守れるか6.顧客が困っているとき、親身になって心配してくれているか7.頼りになるか8.時間通りにサービスを提供してくれるか9.正確に記録を保管しているか |
応答性(Responsiveness) 顧客を助け、迅速なサービスを提供する意向 | 10.サービスの提供前に、サービスについての説明がなされているか11.従業員は迅速なサービスをしているか12.従業員が進んで顧客に力を貸そうとしているか13.従業員が顧客の要望に迅速に対応しているか |
保証性(Assurance) 信用と信頼を与える従業員の知識と丁寧さ | 14.従業員は信頼できるか15.従業員と安心して接することができるか16.従業員は礼儀正しいか17.従業員が働きやすい環境が整えられているか |
共感性(Empathy) 顧客に対する気遣いや個人的な注意 | 18.個人の要望に合わせて対応してくれるか19.従業員は顧客の個人的な要望を汲み取ってくれるか20.従業員は顧客が何を必要としているかがわかるか21.顧客の一番関心のあることを気にかけてくれるか22.各種サービスの営業時間は便利か |
マーケティングリサーチ入門(有斐閣)p.72より引用
測定の信頼性
測定の信頼性は測定結果のバラツキや偏りの程度を指します。測定の妥当性が高くても測定の信頼性が低ければ、アンケート調査の品質を担保することができません。
アンケート調査の回答結果にバラツキや偏りを生じさせる原因となるのが測定誤差です。測定誤差はミス・誤りに起因するもの、アンケート回答者の一般的な傾向に起因するもの、調査票のワーディングが不適切なために生じるものなどに分けられます。
ミス・誤りは回答者が回答する時点の質問の誤解や記入ミスによるものと、集計時点で集計担当者が入力・集計・コーディングなどを間違えてしまうケースです。
アンケート回答者の一般的な傾向
アンケートでは、回答者が調査や測定の対象となっていることを意識すると、通常とは異なる行動を取ってしまう一般的な傾向が見られます。アンケート調査の回答者には以下のような心理的傾向が働くといわれています。
肯定・否定傾向
回答のためにある程度考えを巡らすことが必要な(認知的負荷が高い)2項選択の質問に対し、一律に「はい」または「いいえ」で答えてしまう傾向です。考えるのが面倒だからという心理が働いてしまうケースです。
中心傾向
段階評価のような尺度を用いた質問の場合に肯定・否定傾向と同様な心理が働くケースです。両極端な判定を避けて中立な選択肢を選んでしまう傾向があります。
程度に対する受け取り方の違い
質問文に「かなり」「ほとんど」「どちらかといえば」などの程度を表す副詞が含まれる場合に、その受け取り方は回答者によって異なります。
社会的望ましさ
質問に対する自分の考えや意見とは別に、望ましい選択肢や妥当と考えられる選択肢を選んでしまう傾向です。
寛大性の誤差
選択肢のなかでなじみのあるものをより高く評価してしまう傾向です。
調査設計の妥当性
構成概念と測定の方法はアンケート調査全体の一部であり、これらの要素をリサーチ全体にどのように組み込んでいくのかが調査設計です。
調査設計も調査そのものの品質に大きく関わり、調査対象が適切であることや調査結果に再現性があるかどうかといった観点から調査設計の妥当性を検討します。
外的妥当性
アンケート調査では商品やサービスの特性によって、明らかにしたい対象とする消費者層が決まってきます。アンケート調査で得られたデータを、対象とする消費者層に適用することに差し支えないかどうかが外的妥当性です。
定量調査では標本が母集団を代表するものであるかどうかが問われます。調査対象の選び方が適切でない場合は選択バイアスが働き、調査結果も実態を反映しない偏ったものとなってしまいます。この場合の誤差を標本誤差といい、標本誤差の大きさが外的妥当性を左右します。
調査対象の抽出方法はインターネット調査や郵送調査、面接調査などアンケート調査の実施方法によっても異なるため、適切な実施方法を選択することが重要です。
内的妥当性
アンケート調査の集計・分析では質問項目や選択肢を変数として、構成概念の因果関係を明らかにします。その際の因果関係の説明にどの程度信頼を置けるか、再現性があるかどうかが内的妥当性です。
例を挙げると、季節要因や曜日、天候によって販売が左右される商品カテゴリーである場合には、適切な調査時期や期間、タイミングで調査を行わないと、その結果に基づく意思決定や施策は有効なものにはなりません。
また、広告認知の有無による購入量の比較といったケースでは広告認知以外に購入量に影響する他の要因を排除したうえで評価できる質問項目の設計が必要になります。
調査項目の設定と分析方法まで含めた調査設計の妥当性が調査品質に関わってきます。
リサーチ会社を活用して効果的なアンケート調査を
効果的なアンケート調査を実施するためには、さまざまな要素を検討しながら調査設計を行い、マーケティング課題に即した結果を得るための配慮が必要です。
幅広い専門知識も必要となることからリサーチ会社を活用して実効性のある調査を行うことをおすすめします。