経営企画部門のリサーチに関わる戦略策定のためのフレームワーク

Framework for formulating strategies related

経営企画部門は経営トップの判断に関わる重要な情報を扱うとともに、組織全体を調整する役割も担う高度な機能を果たす部署といえます。

特に、経営戦略に関わる情報の収集と分析には幅広い知識が求められ、自社の実情を正確に把握することに加えて、外部から情報を集めるリサーチの能力も求められます。

経営判断に必要な情報を見極める上で、経営戦略論で用いられるビジネスフレームワークを知っておくことが役に立ちます。この記事では経営企画部門の役割と経営戦略策定のためのフレームワークについて解説します。

経営企画とは

経営企画部門は経営トップの意思決定を支援する役割を持ち、大まかには計画に関わる業務と組織のコントロールに関わる業務を担います。

具体的には、経営ビジョンや経営理念などの企業の価値観や方向性、規範に関連する意思決定支援、それに基づく経営戦略の策定、経営戦略を事業計画に落とし込んだ中期計画の策定、事業計画に関わる予算の編成管理などに関わるほか、取締役会の事務局としての機能やグループ企業の統括に関わる機能を果たします。

そのほか、新規事業開発や組織改革のマネジメント、M&A推進などの全社的なプロジェクトの統括も経営企画部門の業務範囲であり、近年では、社会課題解決につながるSDGsに関わる取り組みや災害対策(BCP:事業継続計画)の要請といった特命的なプロジェクト関わるケースも増えてきています。

経営企画部門求められるリサーチの役割

経営企画部門に求められる最も重要な役割と位置づけられるのが、戦略決定に資する判断材料を経営層に提供することです。

経営戦略は企業の置かれた状況や市場の中でのポジショニングによって異なり、経営を取り巻く環境のなかで最善の戦略を取るための情報を集めて分析することが、経営企画部門の大きな仕事のひとつと位置づけられます。

環境分析や戦略検討には各種のビジネスフレームワークが用いられ、フレームワークを使った分析に必要な情報を集めるためのリサーチも欠かすことのできない業務となります。

経営戦略策定のためのフレームワーク

経営戦略策定のためのフレームワークは、大まかに経営を取り巻くマクロ環境とミクロ環境を分析するものと、企業や組織の外部環境と内部環境を分析するものがあり、市場環境のなかで経営に影響を与える要因を明確にすることを目的とするものです。

また、環境分析の結果を踏まえて、取るべき戦略をパターン化した戦略フレームワークが広く用いられており、それらのフレームワークを柔軟に活用することが求められます。

PESTLE分析

PESTEL分析とは、Political(政治的)・Economic(経済的)・Sociological(社会的)・Technological(技術的)・Legal(法律的)・Environmental(環境的)の5つの切り口から自社のビジネスに影響を与える外部要因を特定するためのフレームワークです。

PESTLEの各要素には以下の内容が含まれます。

Political(政治的)政権の方針、具体的な政策、規制改革の動向、など
Economic(経済的)経済成長率、景気動向、金利・為替の動向、など
Sociological(社会的)人口動態の変化、価値観やライフスタイルの動向、教育・文化、など
Technological(技術的)技術革新の動向、新技術の出現、情報インフラの普及状況、など
Legal(法律的)事業分野の法規制、労働法・環境法・消費者保護法等の規制、など
Environmental(環境的)温暖化の影響、天然資源の確保、災害による影響、など
PESTLE分析の要素

これらの各要素に関する情報収集は、政府機関の統計や専門機関が公表する調査資料など、幅広い情報源から自社に関わるものを見つけ出す作業を行う必要があります。

5フォース分析

5フォース分析は、競合他社との競争要因に焦点を当てた分析フレームワークであり、標的とする市場の業界構造と競争要因を明らかにするミクロ環境を分析するための手法です。

5フォース分析の図解
5フォース分析の図解
市場の競合環境特定の市場環境のなかでの競争に影響を与える業界構造には以下の要素が挙げられる。
参入企業数業界の成長性固定コスト・在庫コストの水準差別化要素の大きさ撤退障壁 など
新規参入の脅威参入障壁が低く、新規参入が活発な業界であれば競争は激しくなり、また、これから新規参入を図る場合には、先行企業の優位性がどの程度あるのかといったことも検討要因のひとつとなる。
代替品の脅威代替品とは、標的とする市場の製品やサービスによってもたらされる価値が、他の市場の製品やサービスによって置き換えることが可能なケースのこと。具体的には、劇場映画館に対する動画配信サービス、宿泊業における民泊サービス、家電・家具の販売とサブスクリプションサービスなど。
売り手(サプライヤー)の交渉力原料、資材、機材等の供給先や供給量が限られる場合、差別化の度合いが高い場合など、交渉の際の力関係によって変動コストをコントロールしにくくなる。
買い手(顧客)の交渉力スイッチングコストが低い場合や差別化の要素が限られる場合、顧客が持つ情報量が多い場合には、顧客の側が有利な立場で製品やサービスを選択することができる。
5フォース

5フォース分析は、市場構造や具体的な競合企業についての情報が必要な分析フレームワークであり、自社の取引先や営業現場などからの情報収集のほか、業界調査や企業調査を行う専門機関からの情報入手が必要とされます。

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バリューチェーン分析

バリューチェーン分析は、自社の企業活動を製品やサービスを提供するためのすべてのプロセスに分解し、それぞれのプロセスで生み出される付加価値を俯瞰するための分析手法です。

バリューチェーンのイメージ図
バリューチェーン

バリューチェーン分析は、マイケル・E・ポーターが提唱した製造業のビジネスプロセスを分解した概念が用いられますが、製造業に限らず、個々の業界や企業ごとにそれぞれのビジネスプロセスが存在します。

バリューチェーン分析は、獲得した収益を企業全体の活動をビジネスプロセスごとに積み上げ、または、配分して収益構造を明らかにすることが目的です。

また、自社の収益構造に加えて、他社との比較や事業部門ごとの定性的な比較を行うことで、自社のバリューチェーンの評価と事業部門の統廃合などを検討する際の基礎データとなります。

コアコンピタンスとケイパビリティ

5フォースとバリューチェーンは、1970年代末から1980年代にかけてポーターが提唱したものです。市場環境に上手く適応することを競争優位を獲得するための枠組みとするものですが、1990年代に入ると、企業が経営資源として持つ内部の力の重要性に着目する戦略論に注目が集まりました。

コアコンピタンスとは「他社が真似することができない、顧客の価値を実現するための中核的な能力や強さ」のことを指し、競合他社との比較において優位性を持つ内部資源のことです。バリューチェーンを構成する企業活動の個別の要素が持つ強みといえます。

具体的には、OpenAIの生成AI技術やTSMCの微細化技術、キーエンスの営業力、アップル社のブランド力、などがコアコンピタンスの一例として挙げられます。

コアコンピタンスは以下の要件を持つ内部資源とされています。

模倣可能性が低い競合他社が簡単に真似をすることができない
移転可能性が低い簡単に応用することが難しい
代替可能性が低い他の要素で代替することができない
希少性が高い手に入りにくいものである
耐久性が高い競争優位を長期にわたって保つことができる
コアコンピタンスの要件

また、コアコンピタンスを市場での競争優位につなげることができる能力やスキルのことをケイパビリティといい、リーダーシップや管理体制、従業員の質などバリューチェーン全般にわたる組織力のことを指します。

コアコンピタンスとケイパビリティの分析は標準的な方法が存在しておらず、競合他社の内部資源に関わる情報をすべて入手することが困難であること、定性的な要素の比較に客観性が持てない点など難しい部分もありますが、できる限り定量的な方法で比較検討することが求められます。

アドバンテージマトリクス

アドバンテージマトリクスは、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)がオリジナルであり、既存の複数の市場について事業規模と収益性の関係を、競争要因の数と競争優位構築の可能性の2軸で分類した、標的とすべき市場を見極めるためのフレームワークです。

アドバンテージマトリクスの図解
アドバンテージマトリクス

具体的な分析方法は、複数の市場(業界)の参入企業の売上高を横軸にROA(総資産利益率)を縦軸に取りグラフを描きます。すると、業界ごとに一定のパターンが見られることがわかり、市場(業界)の特性を理解することにつながります。

分類した結果について製品やサービスのカテゴリーの競争の戦略変数(差別化要因)の数が多い市場(業界)であれば、差別化を図ることで競争優位を獲得する可能性があるということであり、差別化要因の数が少なければ事業規模が競争優位を決定するということになります。

必ずしもすべての業界がこのグラフに当てはまるとは限りませんが、手に入りやすい財務データのみで標的とすべき市場を分類する切り口を示すことができるという点で優れた分析方法です。

GEビジネススクリーン

GEのビジネススクリーンは、マッキンゼー・アンド・カンパニーが開発した事業ポートフォリオの優先順位を判断するための戦略フレームワークです。このマトリクス分析の特徴は、2軸を「市場の魅力度」と「自社の競争力」として抽象度を高めることで、より柔軟に競争優位を築くための要因の関係を可視化できるという点です。

GEビジネススクリーンの図解
GEビジネススクリーン

縦軸の市場の魅力度、横軸の自社の競争力・競争上の地位には以下のような変数を取ります。

市場の魅力度市場規模、市場成長率、事業の収益性、競争環境、参入障壁、法的規制、機会・脅威の出現頻度、技術的難易度、マクロ環境の影響、など
自社の競争力・競争上の地位コアコンピタンス、ケイパビリティ、市場シェア、事業の成長率、コスト競争力、研究開発力、ブランド力、など
市場の魅力度/自社の競争力の変数

より多くの変数から競争優位を築くための要素を多角的に検討できることがGEスクリーンのメリットです。

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経営企画部門で求められるマーケティング戦略まとめ

企画に関わる部門では情報収集力と分析力が求められます。特に、経営という高度な判断に必要な情報には客観性と精度が求められ、多角的な観点から総合的な判断に結びつく分析を行うことが必要です。

この記事で挙げたそれぞれのフレームワークは、学術分野や民間のコンサルティング企業で提唱されたもので、経営戦略を検討する際に広く用いられています。

これらのフレームワークを枠組みとして活用するためには、枠組みを適用できる適切な情報を収集するリサーチが不可欠です。クロス・マーケティングではマーケティングに関わる豊富な知見をもとに、経営判断に関わるさまざまなリサーチを提案させていただきます。

経営企画に関連する課題解決やマーケティング戦略をご検討の際は、クロス・マーケティングにご相談ください。