ビジネスモデルキャンバスとは?リーンキャンバスとバリュープロポジションキャンバスと比較して解説
国内の人口減少による消費のパイの縮小と高齢人口の増加による消費構造の変化は、既に顕在化してきており、多くの企業がビジネスモデルの見直しや新規事業の開発に迫られています。
新たなビジネスモデルを検討する際に用いられるフレームワークとしてビジネスモデルキャンバスが挙げられますが、類似するフレームワークにリーンキャンバスやバリュープロポジションキャンバスがあります。
この記事ではビジネスモデルキャンバスを中心に、それぞれのフレームワークの特徴と使い方について解説します。
ビジネスモデルキャンバスとは
ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスモデルを可視化するためのフレームワークです。
ターゲットとする顧客セグメントにどんな価値を提供するかというマーケティングの視点と、自社のリソースと収益・コストというビジネスの視点から、ビジネスモデル全体を俯瞰できることが大きなメリットです。事業戦略の検討や既存事業の検証・改善を行う際のフレームワークとして用いられます。
ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスを構成する9つの要素をチャートにあらわすことで、顧客・企業・収益性の3つの視点からビジネスモデルを分析します。
ビジネスモデルキャンバスを構成する9つの要素
ビジネスモデルキャンバスのチャートは9つの区画(ビルディングブロック)に分けられており、ビジネスモデルを構成する9つの要素を記入していきます。
それぞれの区画の番号は記入時の優先順位を示しています。ビジネスモデルは顧客視点の発想が起点となるという意味で右側のビルディングブロックの優先順位が高くなっていますが、必ずしも順番どおりに記入する必要はありません。
【ビジネスモデル・キャンバス】
①顧客セグメント(Customer Segment) | ビジネスの起点、また、マーケティングの起点という意味でも、ターゲットとする顧客セグメントを明確にしておくことが最優先となります。 |
②価値提案(Value Proposition) | ビジネスが目的とする、顧客に提供する価値の本質的な部分を記入します。最終的には、顧客視点から提供チャネルや関係性を通して価値を実現できるかどうか、企業視点からリソースと活動を通して価値を提供できるかの両面から検討します。 |
③提供チャネル(Channels) | 顧客へのアプローチ方法、商流・物流面でのタッチポイントなど、価値提供のためのチャネル全般を指します。 |
④顧客との関係(Customer Relationships) | スーパーで買う野菜と音楽配信サービスでは事業者と顧客の関係性は異なります。商品やサービスのカテゴリーに即した、チャネルを介して形成される顧客との関係性構築の方法を検討します。 |
⑤収益の流れ(Revenues Streams) | 商品代金、利用手数料、広告収入、月額課金などの収益の形態とキャッシュポイントを明確にします。 |
⑥主要なリソース(Key Resources) | 経営リソース(人・モノ・金・情報)のなかで、顧客への価値提供や競争優位構築のためのkeyリソースを特定します。 |
⑦主要な活動(Key Activities) | 顧客に価値を提供するための活動を機能面とリソース面から具体化します。 |
⑧主要なパートナー(Key Partners) | サプライヤーなど事業に不可欠なモノやサービスの提供者、協業先や提携先、代理店など事業展開を補完するための相手先をリストアップします。 |
⑨コスト構造(Cost Structure) | 固定費の割合や変動費の発生要因など、ビジネスの特性によって特徴づけられるコスト構造を明らかにします。 |
ビジネスモデルキャンバスの活用法とメリット
ビジネスモデルを検討する際のたたき台となるのがビジネスモデルキャンバスであり、次のような点にメリットがあります。
ビジネスモデルの評価に対する共通認識の形成
ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスモデルを検討する際のフレームワークであり、議論の枠組みを提供するものです。ビジネスモデルを9つの軸で見た場合の実現性を直感的に捉えることが目的であり、事業計画書のような詳細な詰めの内容を書き込む必要はありません。
9つの軸はビジネスモデルを構成する主要かつ重要な要素であることから、新規事業の開発や既存事業の見直しを図る際の共通認識の形成に役立ちます。
可能性と実現性の両面からビジネスモデルを検討する
ビジネスモデルキャンバスの右側の顧客視点に含まれる部分は、価値を創造するための方法と収益の可能性であり、左側の企業視点に含まれる部分は、そのために必要な経営リソースとコストという実現性をあらわしているといえます。
顧客に提供する価値を中心に据え、左右の要素を収益とコストというビジネスの視点で捉えることで、ビジネスモデルが成立するかどうかを可能性と実現性の両面から検討することができます。
複数のビジネスモデルを比較する
新規事業で複数のビジネスモデルがある場合や、競合他社のビジネスモデルと比較を行う場合にビジネスモデルキャンバスが役に立ちます。
複数の案がある場合に、一つの要素の違いが他の要素へ及ぼす影響を明らかにすることができます。また、提供する価値は同じでも経営リソースが異なる競合他社と優位性を比較して対策を見出すことにもつなげられます。
リーンキャンバスとは
リーンキャンバスはシリコンバレーの起業家アッシュ・マウリャ氏の著書「Running Lean(実践リーンスタートアップ)」で紹介された、ビジネスモデルの仮説検証を頻繁に繰り返すスタートアップに適したフレームワークです。
9つのビルディングブロックを作るのはビジネスモデルキャンバスと同じですが、そのうちの4つの要素がビジネスモデルキャンバスと異なり、PMF(Product Market Fit:製品の価値が市場に受け入れられた状態)を達成するためにより重要な要素に置き換えられています。
①顧客の課題(Problem) | 起点となるのが、ビジネスモデルがどんな顧客の課題を解決を目的とするかということです。顧客インタビューを行い課題を特定します。 |
②顧客セグメント(Customer Segment) | 見過ごされてきた顧客の課題をこれまでになかった製品で解決する場合、受け入れられやすい顧客層(アーリーアダプター)をターゲットと想定します。 |
③独自の価値提案(Unique Value Proposition) | 顧客の課題を解決することで提供できる価値の本質が該当します。これまでと異なるどんな切り口が価値となり得るのかを明確にします。 |
④ソリューション(Solution) | 課題を解決し価値に転換するための手段がソリューションの位置づけです。 |
⑤提供チャネル(Channels) | ビジネスモデルキャンバスの場合のチャネルと同じですが、これから起業する場合、顧客へのアプローチ方法を新たに開拓していく必要があります。 |
⑥収益の流れ(Revenues Streams) | 収益形態に加えて取引単価と回数、利益の目安を想定します。 |
⑦コスト構造(Cost Structure) | 経常的なコストに加えて、初期コストの負担を合わせて考える必要があります。 |
⑧主要指標(Key Metrics) | スタートアップではPMFに到達するまでの段階ではKPIを定めにくいことから、仮説検証が済んだ段階から設定することも可能です。 |
⑨圧倒的優位性(Unfair Advantage) | スタートアップがスケールするためには、大きな差別化要因が必要です。それが競合他社に対する決定的な優位性として働くかどうかを検討します。 |
リーンキャンバスの活用法とメリット
リーンキャンバスもビジネスモデルキャンバスと同様に、関係者間での共通認識を形成するために役立つほか、以下のようなメリットがあります。
起業のリスクを網羅している
起業家が考えるビジネスモデルは、市場性があるかどうかが検証できるまではアイデアに過ぎません。そのアイデアの市場性を検証しないまま製品をつくり続けてしまうことが起業のリスクです。具体的には次の3つが起業のリスクにあたります。
- 製品リスク:顧客の真の課題を解決し価値を提供することができない
- 顧客リスク:価値を提供すべきターゲット設定が間違っている
- 市場リスク:ビジネスとして成り立つ収益をあげられない
リーンキャンバスを使って仮説検証を繰り返すことで、これらのリスクを回避することができます。
仮説検証を繰り返しながら更新していく
スタートアップのビジネスモデルは、事業化を進めていくなかで軌道修正が繰り返されることがほとんどです。顧客ターゲットや課題、提供すべき価値についての仮説検証を繰り返しながらリーンキャンバスを更新していくことで成功に近づくことができます。
顧客の課題発見しソリューションを検討する段階では、それを仮説としてリサーチによる検証により製品リスクと顧客リスクを解消していきます。次にMVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)をリリースし、改良を繰り返しながら市場リスクを検証していくのがスタートアップの事業化プロセスです。
バリュープロポジションキャンバスとは
バリュープロポジションとは、想定する市場のなかで自社だけが提供できる顧客にとっての重要な価値のことであり、それを検討するためのフレームワークがバリュープロポジションキャンバスです。
顧客の悩みや課題に対する企業側の提供ソリューションが、顧客のどんな価値につながっていくのかを言語化して掘り下げる際の分析軸となり、両側の視点を対比して概観できる点がバリュープロポジションキャンバスのメリットです。
提供価値(Value Proposition) | 顧客セグメント(Customer Segment) |
④製品/サービス(Products & Services) | ①顧客が実現したいこと(Customer Job) |
⑤顧客に恩恵・メリットを与えるもの(Gain Creators) | ②顧客が得る恩恵・メリット(Gains) |
⑥顧客の悩みや解決したい課題を取り除くもの(Pain Relievers) | ③顧客の悩みや解決したい課題(Pains) |
まとめ
ご紹介した3つのフレームワークはビジネス開発に取り組む組織やメンバー間に共通認識をもたらし、ビジネスモデルを議論する上での分析軸を提供してくれるものです。
3つのフレームワークは、いずれも顧客に届けるべき価値は何かということが中心に置かれています。ビジネスモデルのなかでの顧客にとっての価値を考える際の判断材料となるのが顧客・消費者を理解することであり、フレームワークにはリサーチすることが不可欠な要素が含まれています。
顧客の課題を見出す方法としてインタビューを行うことが勧められますが、セルフ型アンケートツールQiQUMOを使えば、多数の顧客の課題や悩みをスピーディーに聴取することができます。ビジネスモデルが想定する仮説を定量化して把握できるアンケートは、インタビューによる結果を補完するという点でも重要なリサーチの手法です。
新しいビジネスを始める際のアンケート調査にはセルフ型アンケートツールQiQUMOをご活用ください。