従業員満足度調査とエンゲージメントサーベイ アンケートを行う場合の違いとは
アンケート調査の主要な活用目的のひとつに、組織を対象とする調査があります。
経営管理の枠組みのなかで組織の成果を高めることを目的に、従来から行われてきた従業員満足度調査のほか、ウェルビーイングや健康経営に象徴される新しい働き方に対応するためのエンゲージメントサーベイにアンケート調査が用いられます。
従業員満足度調査とエンゲージメントサーベイは、どちらも従業員を対象とするアンケート調査ですが、その考え方に異なる部分があります。
その考え方の違いとアンケートを行う際の尺度(質問項目)について解説します。
従業員満足度調査
従業員満足度はES(Employee Satisfaction)ともいわれ、1920年代からアメリカにおいて組織論の研究分野で生まれたもので「職務満足」という概念がもとになっています。
人的資源管理や労働の問題をテーマとする調査研究のなかで、職務満足が生産性や顧客満足度に与える影響、組織定着との関連性など、学術分野での理論的検証と実務領域への応用が図られてきた経緯があります。
日本においても、1930年代から労務管理に産業心理学からのアプローチが取り入れられるなかで用いられた概念であり、1970年代以降、国内・海外ともに研究が盛んになりました。
職務満足の理論的な枠組みとして多く用いられるのはハーズバーグの「動機づけ・衛生理論(二要因論)」で、満足をもたらす動機づけ要因と不満足をもたらす衛生要因の要素について職務満足を評価するという考え方です。
【ハーズバーグの動機づけ・衛生理論(二要因論)】
動機づけ要因 (従業員の積極的な態度を引き出すもの) | 衛生要因 (不満の解消につながるが、積極的な態度を引き出すには効果がないもの) |
達成感承認仕事そのもの仕事への責任昇進 など | 会社の方針上司の監督給与人間関係労働条件作業環境 など |
職務満足は以下の定義が広く受け入れられています。
【職務満足】 個人の職務ないし職務経験の評価から生ずる、好ましく、肯定的な情動の状態。 |
従業員満足度調査の測定方法(尺度)
職務満足の測定方法には、信頼性や妥当性の観点から広く用いられている尺度(調査項目)として、JDI(Job Descriptive Index)とMSQ(Minnesota Satisfaction Questionnaire)があります。
【JDI:Job Descriptive Index】 「仕事自体」「給与」「昇進」「管理者」「同僚」の5つのカテゴリー、72の質問項目で構成される。 |
【MSQ:Minnesota Satisfaction Questionnaire 短縮版】 ・仕事の達成感 ・技能・技能研修制度の満足度 ・自身の能力活用の満足度 ・貢献感 ・達成感 ・職場環境への満足度 ・報酬に対する満足度 ・昇進機会の公平感 ・人事評価の公平感 ・余暇活動への支援に対する満足度 ・休日数の満足度 ・仕事の道義性に対する満足度 ・創造性を発揮する機会に対する満足度 ・上司との信頼関係に対する満足度 ・同僚との協力関係に関する満足度 ・身体的負荷 ・精神的負荷 ・仕事の難易度 ・仕事に関する課題解決の難易度 ・職務遂行に求められる知的水準 |
日本で標準化されて普及した職務満足測定の尺度としては、1955年に社団法人日本労務研究会(NRK)により開発されたモラルサーベイ(従業員満足度調査)が知られています。
NRK方式といわれる従業員満足度調査では、モラール(集団的感情・意識、労働意欲、士気)とモチベーション(個人の動機「動機づけ」)に焦点を当てた、5分野17のカテゴリーからなる95の標準質問で構成されます。
【NRK方式モラールサーベイ】
分野 | 種目 |
---|---|
労働条件 | 仕事の負担 職場の設備 給与 福利厚生 |
人間関係 | 同僚との関係 上司との関係 幹部との関係 |
管理 | 上司の行う管理 幹部の行う管理 意思の疎通 |
行動 | 上司の行動 個人の行動 育成と心身への配慮 |
自我 | 地位の安定 地位についての満足 昇進・向上の機会 会社との一体感 |
また、一般社団法人 日本労務研究会ではNRK方式モラルサーベイの効果として以下の点を挙げています。
- 調査の実施自体が従業員の満足感とやる気向上につながる
- 経営診断の効果
- 問題・課題の掘り起こし
- 教育訓練ニーズの掘り起こし
- 人事労務管理上の課題抽出、企業倫理の確立
- 従業員と経営層のコミュニケーション効果
- 改善意欲の向上
- 顧客満足、経営管理満足に直結する社員満足
- 他社との比較
- 従業員の本音の把握
エンゲージメントサーベイ
仕事におけるエンゲージメントは、1990年代に米組織行動学者Kahnが個人と仕事の関係性を示す「パーソナル・エンゲージメント」という概念を用いたのが最初といわれています。
パーソナル・エンゲージメントは次のように定義されています。
【パーソナル・エンゲージメント】 仕事上の役割を遂行するなかで、身体的・認知的・感情的に自己を活用し、表現すること。そのための心理的条件として有意味感・安心感・可用性が必要。 ・有意味感:役割遂行に対する見返りを期待できる。 ・安心感 :ネガティブな結果に至る可能性を受け入れて自己を活用・表現できる。 ・可用性 :役割遂行に必要な、身体的・感情的・心理的資源を有している。 |
従業員エンゲージメント
従業員エンゲージメントは米コンサルティング会社Gallup社がエンゲージメント調査ツールとして12項目の尺度を開発し、実務領域に普及していったものがはじまりといわれています。
パーソナル・エンゲージメントが仕事上の役割を対象としたものであったのに対し、従業員エンゲージメントは仕事全般を前提に置いた概念で、以下のように定義づけられます。
【従業員エンゲージメント】 個人の仕事への関与・満足・熱意。従業員の貢献行動を引き出すための管理手段や資源。 |
従業員エンゲージメントは職務満足や組織コミットメントと重複するところがあり、従業員の企業への理解や信頼と貢献意欲を示す指標とされています。
従業員エンゲージメントの測定尺度
Gallup社の12の質問項目は以下のものです。
【従業員エンゲージメント Q12 】 0. 職場にどの程度満足しているか。 01. 職場で自分が何を期待されているのかを知っている。 02. 仕事に必要な材料や道具を与えられている。 03. 仕事で最善を尽くす機会がある。 04. 過去7日間のうちに、よい仕事をしたと認められたり、褒められたりした。 05. 上司または職場の誰かが、ひとりの人間として気にかけてくれているようだ。 06. 職場の誰かが自分の成長を促してくれる。 07. 職場で自分の意見が尊重されているようだ。 08. 会社の使命や目的が、自分の仕事は重要だと感じさせてくれる。 09. 職場の同僚が真剣に質の高い仕事をしようとしている。 10. 職場に親友がいる。 11. 過去6ヶ月のうちに、職場の誰かが自分の進歩について話してくれた。 12. 昨年、仕事について学び、成長する機会があった。 |
ワーク・エンゲージメント
ワーク・エンゲージメントは産業保健心理学の分野から提唱され、労働者の健康と安全や生活の質の向上といった側面から、ワーカホリズムやバーンアウトなど職場で引き起こされるネガティブな心理状態と対極にある概念を定義したものとされます。
【ワーク・エンゲージメント】 仕事に向けられたポジティブで持続的かつ全般的な感情と認知。活力・熱意・没頭から構成される。 ・活力:仕事から活力を得ていきいきとしている ・熱意:仕事に誇りとやりがいを感じている ・没頭:仕事に熱心に取り組んでいる |
ワーク・エンゲージメントの測定尺度
ワーク・エンゲージメントはオランダユトレヒト大学の心理学者Schaufeliによって提唱されたもので、測定尺度 UWES:Utrecht Work Engagement Scaleが用いられます。
【ワークエンゲージメント尺度 UWES(ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度)】 ・仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる。(活力1) ・自分の仕事に、意義や価値を大いに感じる。(熱意1) ・仕事をしていると、時間がたつのが速い。(没頭1) ・職場では、元気が出て精力的になるように感じる。(活力2) ・仕事に熱心である。(熱意2) ・仕事をしていると、他のことはすべて忘れてしまう。(没頭2) ・仕事は、私に活力を与えてくれる。(熱意3) ・朝に目がさめると、さあ仕事へいこう、という気持ちになる。(活力3) ・仕事に没頭しているとき、幸せだと感じる。(没頭3) ・自分の仕事に誇りを感じる(熱意4) ・私は仕事にのめり込んでいる。(没頭4) ・長時間休まずに、働き続けることができる。(活力4) ・私にとって仕事は、意欲をかきたてるものである(熱意5) ・仕事をしていると、つい夢中になってしまう。(没頭5) ・職場では、気持ちがはつらつとしている。(活力5) ・仕事から頭を切り離すのが難しい。(没頭6) ・ことがうまく運んでいないときでも、辛抱強く仕事をする。(活力6) |
まとめ
従業員満足度調査とエンゲージメントサーベイのそれぞれの系譜と考え方、使われることの多い尺度(質問項目)についてご紹介しました。
従業員満足度調査がマネジメントに関わる多数の質問項目を挙げて職務満足の要素を検証するのに対し、エンゲージメントサーベイは、自主性を引き出すための個人の状態に着目した調査であることが違いといえます。
従業員満足度調査とエンゲージメントサーベイの概念を厳密に区別して調査を行う必要はなく、生産性向上、組織開発、ガバナンス強化、組織定着など、組織の課題に沿ったものを柔軟に取り入れていくことが重要です。
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