生成AIで変わるアンケート業務〜設問作成から自由記述分析まで〜chatGPT/Geminiのプロンプトと回答つき

生成AIで変わるアンケート業務〜設問作成から自由記述分析まで〜chatGPT/Geminiのプロンプトと回答つき

アンケートの実務では、調査の目的を具体的な質問にどう落とし込むか、また、集まった回答に対しどのような分析を行えば役に立つ知見が得られるかに悩むケースが少なくありません。

本記事では、生成AIを用いてアンケートの設問作成を効率化し、これまで多大な時間と労力を要した自由記述回答の分類や分析を自動化する手法を、具体的なプロンプト例を交えて解説します。

アンケート調査における生成AIの活用法

アンケート調査の実務は、調査目的に沿った設問の設計から、手間のかかる自由記述回答の集計・分析まで、多くの工数を要します。生成AIは、こうした従来からの課題を解決する強力なツールです。

企画・設計段階では、詳細なプロンプトを与えることで、調査目的に応じた設問の叩き台を迅速に作成できます。

また、集計・分析段階では、これまで人手に頼らざるを得なかった自由記述回答の分類や要約を自動化し、作業負荷を大幅に軽減します。これにより、時間や労力といったコストを削減し、迅速かつ質の高いインサイトを得る大きな助けとなります。

アンケートの企画・設計段階での生成AIの活用

アンケートの設問項目を生成するためのプロンプトは、自身の役割・立場・動機、調査の目的、調査の背景、調査の対象、調べたいこと、知りたいこと、わからないことなどを具体的に示した上でプロンプトに入れ込む必要があります。

例えば以下のようなプロンプトの例が考えられます。

顧客満足度調査のプロンプト例

以下の内容をもとにアンケート調査の設問項目と選択肢を考えてください。各設問ごとの設問形式も明示してください。


当社は、法人向けのプロジェクト管理ツールを提供しているSaaS企業です。既存のお客様を対象に、当社のソフトウェアとサービスに関する満足度を測定し、製品改善やサポート品質の向上に繋げるためのフィードバックを収集したいと考えています。アンケートでは、ソフトウェアの機能、使いやすさ、パフォーマンス、カスタマーサポートの対応品質(解決までの時間、担当者の知識、丁寧さ)、料金プランの妥当性、そして全体的な満足度について質問してください。また、当社を同僚や他の企業に薦める可能性についても尋ねてください。

従業員エンゲージメント調査のプロンプト例

以下の内容をもとにアンケート調査の設問項目と選択肢を考えてください。各設問ごとの設問形式も明示してください。


人事部として、全従業員を対象としたエンゲージメント調査を毎年実施しています。目的は、従業員の働きがい、会社への貢献意欲、帰属意識を把握し、組織全体の課題を特定して改善策を立案することです。調査内容として、現在の仕事内容への満足度、キャリア成長の機会、上司のマネジメント、チーム内の人間関係、会社のビジョンや目標への共感度、ワークライフバランス、評価や報酬制度への納得感、そして会社で働き続けたいか、といった項目を含めてください。

ブランド認知調査のプロンプト例

以下の内容をもとにアンケート調査の設問項目と選択肢を考えてください。各設問ごとの設問形式も明示してください。


当社は、最近市場に参入したオーガニックスキンケアブランドです。20代から40代の女性をターゲットに、自社ブランドの認知度やブランドイメージを把握するためのマーケットリサーチを実施します。アンケートでは、まず当社のブランドを知っているかどうかを質問し、知っている場合はどこで知ったか(SNS、雑誌、友人からの紹介など)を尋ねてください。また、当社のブランドに対してどのようなイメージ(例:自然派、高級、手頃な価格、信頼できるなど)を持っているか、競合のA社やB社と比較してどう思うかについても聞きたいです。製品の購入経験の有無や、今後の購入意向についても質問に含めてください。

上記3つ目の<ブランド認知調査のプロンプト例>を実際にchatGPTに入力すると、以下の設問文と選択肢が出力されます。

ブランド認知調査のプロンプト例【chatGPT】回答

■設問1:当社ブランドの認知有無Q1. あなたは、当社のオーガニックスキンケアブランドをご存じですか?(単一選択)
はい、知っている名前は聞いたことがあるが、詳しくは知らないいいえ、知らない


■設問2:認知経路(※Q1で「はい、知っている」を選んだ人のみ)Q2. どこで当社のブランドを知りましたか?あてはまるものをすべてお選びください。(複数選択)
InstagramなどのSNS投稿や広告で雑誌・Webメディアの記事でテレビ・YouTubeなどの映像コンテンツで店頭で見かけて友人・知人からの紹介で口コミサイト・レビューでその他(自由記述)


■設問3:ブランドイメージQ3. 当社のブランドに対して、どのようなイメージをお持ちですか?あてはまるものをすべてお選びください。(複数選択)
自然派・オーガニック高品質高級感がある手頃な価格信頼できるパッケージがかわいい・おしゃれ成分が安心できる環境に配慮している特にイメージはないその他(自由記述)


■設問4:競合との比較Q4. 当社のブランドを、競合のA社・B社と比べてどのように感じますか?(単一選択)
A社よりも魅力的に感じるB社よりも魅力的に感じるA社・B社と同程度に感じるA社・B社よりも劣っていると感じるA社・B社を知らない/比較できない


■設問5:購入経験Q5. 当社のスキンケア製品を購入したことがありますか?(単一選択)
はい、現在も使用しているはい、過去に購入したことがあるいいえ、購入したことはない


■設問6:購入意向Q6. 今後、当社の製品を購入してみたいと思いますか?(単一選択)
はい、ぜひ購入したい機会があれば購入してみたいあまり購入したいとは思わない全く購入するつもりはないまだ判断できない


必要に応じて、以下のような自由回答も追加できます:Q7. 当社ブランドに関するご意見やご要望があれば自由にご記入ください。(自由記述)

「アンケート調査の質問項目と選択肢を考えてください」という指示を与えているため、アンケート調査に即した質問文と選択肢が出力されます。

一見このまま使用できそうに感じられますが、この段階で生成されたものは、あくまでも叩き台として考えることが重要です。

例えば、設問4.競合との比較では、評価軸があいまいで、A社とB社を同時に比較していることから選択肢がわかりにくくなっています。この点をchatGPTに指摘するとマトリクス形式の設問形式が提案されました。

わかりにくい点を指摘するプロンプト

Q4.競合との比較の選択肢がわかりにくいと思います。他にA社・B社と比較しやすい選択肢の提示方法はありませんか。

【chatGPT】回答

改善案:評価項目を並べたマトリクス形式以下のように、複数の評価軸(価格・品質・イメージ等)でA社・B社と比較してもらう形式のほうがわかりやすく、比較しやすくなります。設問4.各項目に最も当てはまるブランドを一つだけ選んでください。

評価項目当社A社B社
品質が良い
価格が手頃
ブランドイメージが良い
デザインが良い

また、設問3のイメージに関連するキーワードは、自社のブランドコンセプトに沿ったキーワードが挙げられているかどうかを確認する必要があり、さらに、他社と比較するのであれば、他社のブランドイメージに関するキーワードも合わせて選択肢に含める必要があります。

その検証も生成AIに任せて、以下のようなプロンプトを入力すれば、より適切なブランドイメージに関するキーワードを取得できます。

ブランドイメージに関するキーワードを集めるためのプロンプト

以下のURLは当社、A社、B社のスキンケア製品の詳細ページです。3社の各ブランドイメージにそれぞれふさわしいキーワードを10個ずつ挙げてください。

  • https:〇〇◯
  • https:△△△
  • https:▢▢▢

各ブランドごとのキーワード合計30個程度を出力させた結果から、ふさわしいものを人間の目で判断すると、質問の精度を高めることができます。

このように、生成AIとの少ないやり取りで理想に近い回答を求めるには、プロンプトの段階でより詳細な条件を網羅的に指定する必要がありますし、プロンプトにより具体的な内容を盛り込んでもハルシネーション(事実と異なる存在しないもの)が含まれる可能性があることは、現状では避けられません。

生成AIから出力されたものを鵜呑みにせずに、常に疑ってかかる姿勢が求められるとともに、段階を踏んでやり取りを繰り返しながら求めるものに近づけていくという作業が必要です。

生成AIを使った自由記述回答の処理・集計・分析

アンケートの集計・分析において自由記述回答の処理・分析・解釈は、人手を使ってコーディングや分類を行う必要があり時間と労力を要する作業です。

構造化されていない自由記述回答は、回答者による表現の違いや想定外の回答が入り交じるため、人の手に頼るしかないのが従来の処理方法でした。

自然言語処理を技術基盤とする生成AIは、大量のテキストに対するテーマやパターンの抽出、分類、要約、感情分析などに本領を発揮するといわれており、自由記述回答の処理・分析に親和性が高いと考えられます。

実際に自由記述回答の分析に生成AIを活用した例を2つご紹介します。

商品を品目ごとに分類する(フリーワードの分類)

物価高騰を背景に、一般消費者を対象としてスーパーでの購買行動の変化を尋ねるアンケートを実施しました。「数年前と比較して買わなくなったもの」という設問を設け、思いついたものを商品名、品目名を問わずに自由記述回答形式でひとつだけ回答してもらう形としています。

さまざまな商品の値段が上がるなかで、肉、野菜、調味料など大きな品目分類を選択するのは回答負荷が高く、思いついたものを自由に書いてもらい後から分類するほうが、購買行動の変化をリアルに見ることができるのではないかという意図があります。

以下の画像は回答結果のローデータです。U列に回答者が記入した商品名や品目名が記載されています。最初の質問で買い控え、購入頻度減少、代替品選択など購買行動の変化の種類を聞き、該当するものについて具体的な商品名・品目を尋ねるという設問構成としています。サンプル数は600です。

回答結果となるU列のテキストデータは、「ない」「わすれた」「とーっても魅力的」など質問に答えていないもの、「キャベツ 米」など2つ以上記入したもの、「柔軟剤」など食品ではないもの、「お菓子」「おかし」のような漢字・ひらがなの混在などがあります。

chatGPT-o3とGemini-2.5Proそれぞれで、上記ローデータのエクセルファイルを添付して、記入された回答データを分類し、分類ごとの件数をカウントさせてみました。

U列テキストデータを分類するプロンプト

添付したスプレッドシートは、消費者の購買行動に関するアンケートのローデータです。U列には、数年前と比べてスーパーで買わなくなったものを聞いた自由記述回答が記載されています。
U列に記載されている商品をカテゴリー分けし、各カテゴリーに分類された商品の数をカウントしてください。
#U列に記載されているのはスーパーマーケットで販売されていると想定される商品です。
#商品を分類するカテゴリーは食料品のカテゴリーとし、カテゴリーはスーパーで販売される食料品を網羅的に含むものとしてください。
#商品が食料品でない場合はその他に分類しA列のidと紐づけて、別途リストにしてください。
#回答が具体的な商品名の場合は食料品の品目を推定してください。
#複数の品目・商品名が記載されている場合は最も左側に記載されている品目を採用してください。
#レコードは600あるのですべて分類してください。

求める結果が得られたかどうかを「その他」に含まれるテキストデータで最初に確認し、chatGPTとGeminiそれぞれの分類の精度を見ることにしました。

idと紐づけて対象となるフリーワードを抽出させることで、データークリーニングがしやすくなります。

chatGPTとGeminiそれぞれの分類結果と「その他」に含まれるデータのリストは以下のようになりました。

chatGPTとGeminiが分類したカテゴリーを見ると、ほぼ同じようなカテゴリーが挙げられ、それぞれのカテゴリーの件数の大小も同じような結果を示しています。

しかし、「その他」として分類された回答の数と内訳を見ると、chatGPTでは88件の分類できないかったものがあり、「アルコール類」「まつたけ」「海苔」「マウントレーニアカフェラッテ」など、いずれかのカテゴリーに含めるべき回答がかなり多く含まれていることがわかります。

一方、Geminiでは「その他」を食品と非食品に分けており、その内訳を見ると「おかし」「輸入缶のスープ」の2件のみが、いずれかのカテゴリーに入れるべき回答で、その他(食品)その他(非食品)ともに、適切な分類ができています。

この結果から、chatGPTは満足いく精度が得られないと判断し、Geminiの分類を採用することにしました。

さらにGeminiの分類の精度を検証するために、Geminiが分類したテゴリーにもとづき、U列の回答結果を人の手で分類し、Geminiのカテゴリ別の件数と人の手で分類した結果を照合するという作業を行っています。

検証は各カテゴリーごとに人の手により分類した回答のリストをプロンプトに提示して、Geminiの分類と何が違っているのかを答えさせる、または、特定の回答(品目・商品名)についてどのカテゴリーに分類したのかを尋ね、その理由(分類ルール)を聞くという形で行っています。

検証する際に用いたプロンプト

私が「魚介類」に分類したのは以下の18件です。Geminiとの違いを教えて下さい。
イカの塩辛、いくら、ウナギ、うなぎ、うなぎ、お魚、かまぼこ、ツナ、たこ、塩辛、海苔、海老、鯖缶、刺身、刺身、生いか、シーチキン、ニッスイの3本入りちくわ

【Gemini】回答

ご確認いただきありがとうございます。ユーザー様が分類された18件のリストと、私が「魚介類」に分類したリストを比較しました。

  • Geminiのみが分類した項目: 「干し椎茸」
  • ユーザー様のみが分類した項目: なし

「干し椎茸」の分類について

今回、私が「干し椎茸」を「魚介類」に分類してしまった理由は、分類ルールのキーワードに「干し椎茸」を追加してしまっていたためです。

正しくは、「干し椎茸」「野菜・果物」に分類されるべきでした。これは私の分類ミスです。大変失礼いたしました。

検証する際に用いたプロンプト

「トマトジュース」はどのカテゴリーに分類しましたか。

【Gemini】回答

ご質問ありがとうございます。
調査データ内で「トマトジュース」という回答を検索したところ、2件見つかりました。これらは、「野菜・果物」に分類されています。
id 買わなくなったもので思いつくものを1つだけ、品目、または商品名を具体的に記入してください。

id品番カテゴリ
22461067トマトジュース野菜・果物
22461126トマトジュース野菜・果物

分類の理由
分類ルールでは、先に「野菜・果物」カテゴリのキーワードである「トマト」が検出されます。そのため、「飲料」カテゴリのキーワード「ジュース」よりも優先され、「野菜・果物」に分類される仕様となっております。

この回答に対し、「トマトジュース」を飲料に分類すること、再集計することを指示して商品カテゴリー別件数を更新していきます。

このような手順で各カテゴリーごとに生成AIによる分類と人の手による分類を照合した結果、Geminiの間違いが6件、人の手による間違いが1件見つかりました。

600サンプル(実質的な分類対象データは約300件弱)に対して、6件程度の間違いであれば、人の手による間違の検証も含めた作業に要する手間を考えても生成AIを活用するメリットは大きいと考えられます。

アンケートの集計場面でのフリーワードの人の手による分類作業は、分類の定義が明確な場合を除き、似たようなものをまとめていく試行錯誤を繰り返すケースも多く、生成AIを使って最初の段階である程度の分類の目安が得られることで、作業上の負荷を大きく低下させることができました。

ただし、今回の作業ではchatGPTが期待する結果が得られないと最初の段階で判断されたこと、また、分類の対象とするフリーワードがより判別が難しいと考えられるようなケースに生成AIがどの程度対応できるかどうかは未知数であることなど、ケース・バイ・ケースで生成AIの利用範囲を見極める必要があります。

文章の自由記述回答の分析(テキストマイニング)

文字数のある文章の自由記述回答の分析に生成AIを活用した例です。eNPSを測定するためのアンケート調査の自由記述回答を分析した事例をご紹介します。ひとつの部署30名のメンバーに対してeNPSの定型質問とその理由を自由記述回答で尋ねたアンケート調査です。

以下は30名分の回答結果です。

①要約ー全体的な傾向の把握

自由記述回答で挙げられたさまざまな意見を総体的に捉え、全体的な傾向を把握することが要約することの目的です。特に、サンプル数が多いアンケート調査の場合、要約は自由記述回答の分析に必須の作業となります。

全体の傾向を把握するためのプロンプト

添付のスプレッドシートは、ひとつの部署の30名のメンバーに対してeNPS測定のアンケートを取った結果です。h列にeNPS、I列にその理由についての自由記述回答が記載されています。


あなたは熟練のマーケティングリサーチャーです。30件の自由記述回答の全体的な傾向を簡潔にまとめてください。

【chatGPT】回答

このスプレッドシートには、部署の30名のメンバーによるeNPS(従業員ネット・プロモーター・スコア)測定の結果が記録されています。自由記述の回答(I列)には、回答者が職場に対してどのように感じているか、またその理由に関する詳細が含まれています。


傾向のまとめ:


ポジティブな回答:
多くの回答者が職場環境や人間関係に満足しており、「穏やかな環境」「人間関係の良好さ」「働きやすさ」といった理由が多く見られます。
また、「上司や同僚からのサポート」や「業務のやりがい」に対する好意的な意見も多く、職場に対する信頼感が強いと感じている人が多いです。


ネガティブな回答:
一部の回答者は、給与面で不満を抱いており、「給与が低いため勧めたくない」という意見が見受けられます。
また、「業務のハードさ」や「仕事の向き不向き」に関する指摘もあり、これが勧めたいかどうかの判断に影響を与えているケースがありました。


中立的な回答:
一部の回答者は、職場環境や業務内容に対して中立的であり、「どちらとも言えない」といった回答が見られます。このような回答者は、積極的に推薦することはないが、特に不満も感じていない様子です。
全体的には、職場環境に対するポジティブな意見が多く、ネガティブな意見は主に給与や業務の負担に関するものでした。

【Gemini】回答

はい、承知いたしました。eNPSの自由記述回答について、以下に全体的な傾向をまとめます。

eNPS自由回答の全体的な傾向サマリー
自由回答全体を分析した結果、従業員エンゲージメントの主なドライバーと阻害要因は以下の通りです。

ポジティブな傾向(推奨度を高める要因)
良好な人間関係と穏やかな職場環境: 最も多くの従業員が言及しており、eNPSの点数に関わらず共通して挙げられる強みです。「良い人が多い」「穏やかな環境」といった声が多く、職場の人間関係がエンゲージメントの基盤となっていることが伺えます。
柔軟な働き方: 在宅勤務やフレックスタイム制度が評価されており、特に推奨者(eNPSが9-10の従業員)からは高く評価されています。ワークライフバランスを重視する従業員にとって、大きな魅力となっているようです。
事業内容への関心: 一部の従業員は、事業内容そのものに面白さを感じています。

ネガティブな傾向(推奨度を低める要因)
給与・待遇への不満: 最も深刻な課題として挙げられているのが、給与水準です。「給与が低い」「賞与が低い」「退職金がない」といった直接的な不満が、批判者(eNPSが0-6の従業員)の主な理由となっています。
業務負荷と体制変更: 「ハードワーク」「残業が多い」「毎年のように体制が変わる」といった声も多く、心身の負担や組織の不安定さがエンゲージメントを損なう要因となっています。
部署や役職による格差: 「部署や役職によって働きがいや給料が大きく変わる」という意見もあり、社内での経験の一貫性に課題がある可能性が示唆されます。

総括今回のアンケート結果からは、従業員は「人」と「働き方の柔軟性」に満足している一方で、「金銭的報酬」と「業務負荷」に強い不満を抱えているという、明確な二面性が見て取れます。eNPSを改善するためには、報酬制度の見直しや、業務負荷の軽減、組織変更の丁寧なコミュニケーションといった、従業員の不満に直接的に対処することが急務であると考えられます。同時に、現在の強みである良好な人間関係や柔軟な働き方を維持・強化していくことも重要です。

chatGPTとGeminiの回答を比較すると、eNPSスコアと関連付けた構造的な分析、改善提案まで踏み込んだ内容となっている点でGeminiのほうが回答の質は高い印象を受けます。

②分類ーラベリング・コーディング

フリーワード(単語)の分類と同様に、文字数のボリュームがある文章も分類することで定量的に分析が可能になります。どんなテーマ、何に関する言及がどれだけあるのかを定量化することで個別の意見を体系的に整理することが可能になります。

分類・ラベリングのためのプロンプト

添付のスプレッドシートは、ひとつの部署の30名のメンバーに対してeNPS測定のアンケートを取った結果です。h列にeNPS、I列にその理由についての自由記述回答が記載されています。
あなたは熟練のマーケティングリサーチャーです。
30件の自由記述回答を内容の同じようなものに分類し、各レコードに分類のためのラベルをつけてください。

【chatGPT】回答
【Gemini】回答

chatGPTとGeminiのラベリングと件数はそれぞれ次のようになりました。

chatGPTとGeminiのラベリングの精度を比較すると、chatGPTは「その他」の件数が多く適切に分類することができていません。ラベルの付け方も「不満」「不足」などネガティブを前提としたものが目立ちます。

また、「良い人」「人柄の良さ」を含むポジティブな回答を「その他」に分類していること、「成果が評価される企業だから」「働きやすく、評価もきちんとされていると実感できるから」というこちらもポジティブな内容に対し「組織/制度への不満」をラベリングしていることは明らかな誤分類です。

それに対しGeminiは、ラベル自体は中立であり、明らかな誤分類も見当たりませんでした。

③感情分析ー極性・感情・意図・アスペクト

感情分析はそれぞれのテキストを掘り下げて、極性(ポジティブ・ネガティブ・中立)、感情(喜び・怒り・悲しみなど)、意図(目的・考え・意味など)、アスペクト(対象)などを検出することで、回答者をより深く理解する糸口を見つけることを目的とします。

さまざまなプロンプトが考えられますが、要約した時点でeNPSの推奨・非推奨に関連付けた整理はできているため、リスク管理を目的としたプロンプトを設定してみます。

分類・ラベリングのためのプロンプト

添付のスプレッドシートは、ひとつの部署の30名のメンバーに対してeNPS測定のアンケートを取った結果です。h列にeNPS、I列にその理由についての自由記述回答が記載されています。
あなたは熟練のマーケティングリサーチャーです。
30件の自由回答を分析し、特にネガティブな感情が強い回答を特定し対応策を提案してください。

【chatGPT】回答

ネガティブ感情が強い回答 ― 概要30件の自由回答をカテゴリ別に集計すると、特に**「給与・待遇」「業務量・負担」「組織制度・評価」の3領域で強い不満が表れていました。これらは eNPS スコア 0–6 のDetractor**回答に集中しており、早期対応が必要です。

ネガティブ領域件数 *主な不満の焦点代表的なコメント例(要約)
給与・待遇への不満5 ・市場水準より低い給与
・昇給幅が小さい/評価と連動していない
「仕事量に対して報酬が見合わない」
「年1回の昇給額が微々たるもの」
業務量・負担/リソース不足3 ・慢性的な人手不足
・残業常態化/ワークライフバランス悪化
「常に納期に追われて帰れない」
「人員補充がなく業務が積み上がる」
組織/制度・評価への不満2 ・評価基準が不透明
・トップダウンで方針が頻繁に変わる
「評価が上司の主観で決まる」
「制度はあるが運用が形骸化」

*件数=該当カテゴリーに最初にマッチした回答数(全30件)。

優先順位と推奨アクション

優先度領域主要課題即効策(1〜3か月)中期策(3〜12か月)
給与・待遇報酬水準・昇給体系への不満 ・同職種の市場ベンチマークを急ぎ実施し、乖離5%以上なら来期の昇給原資を前倒し確保
・昇給ルールと査定ロジックを1枚の資料に整理し、全社員に説明会
・グレード別の賃金テーブル公開と年2回改定
・成果連動ボーナス比率の拡大とKPIの見える化
業務量・負担人員不足・残業過多 ・残業40h超の社員をリストアップし、翌月から業務棚卸し&再配分
・繁忙工程をRPA/アウトソースできるか速攻レビュー
・標準工数表を作成し、新規案件受注時点でヘッドカウントを自動試算
・業務フロー再設計+ジョブローテで属人化解消
組織制度・評価評価透明性の欠如 ・直近の査定フィードバック面談で評価理由を具体事例付きで説明徹底
・次期評価シートを先行配布し、評価項目を事前共有
・360度フィードバックとOKR連動評価を試験導入
・評価者校正会議でバラつきを数値・コメント両面レビュー

フォローアップの進め方

  1. フォーカスグループ
    • Detractor に該当した10名程度を対象に小規模インタビューを行い、上表の施策で「何が最も響くか」「他に優先課題はないか」を確認。
  2. KPI設定
    • 半期後 eNPS+10pt、給与領域の満足度スコア+0.5pt、平均残業‑20% を管理指標に。
    • 施策ごとにリードKPI(例:残業超過者の業務棚卸し完了率)を設置。
  3. 経営層へのレポーティング上記優先度①〜③を「コスト・インパクト・実現難易度」でマッピングし、取締役会決裁を得る。
  4. 継続モニタリング施策実行後3か月ごとにパルス eNPS を実施し、Detractor のテーマ変化をトラッキング。改善が停滞した場合は施策をピボット。

まとめ

  • ネガティブ感情の源泉は 報酬・業務負担・評価制度の3点。
  • まずは “不公平感” を数値と対話で解消し、短期で可視的な変化を示すことがエンゲージメント回復の鍵になります。
  • eNPS と施策KPIを並行で追い、改善サイクルを四半期単位で回すことで、Detractor を半年で半減させる現実的なロードマップが描けます。

【Gemini】回答

はい、承知いたしました。 先の分析に基づき、特にネガティブな感情が強いと判断される自由記述回答を特定し、それらに対する具体的な対応策をご提案します。

特にネガティブな感情が強い回答
eNPSスコアが特に低い(0~3点)回答や、強い不満が表明されている回答は以下の通りです。これらは従業員エンゲージメントを著しく低下させている要因と考えられます。

  • 給与・待遇への不満
    • 「賞与が低い。退職金が出ない。」(eNPS: 0)
    • 「給料が安いから」(eNPS: 4)
    • 「給与が低いから。」(eNPS: 6)
  • 業務負荷と組織への不満
    • 「残業多い、毎年体制変わりすぎる」(eNPS: 2)
    • 「ハードワークだから」(eNPS: 5)
    • 社内格差への不満「部署、役職によって働き甲斐や給料が大きく変わると思うため。」(eNPS: 1)
  • 将来性への不安・魅力の欠如
    • 「自身で働く分には問題ないが、人に勧めるほどのポイントもないため」(eNPS: 3)
    • 「仕事内容に不満はないが、人に強く勧めるような要素もない。」(eNPS: 0)

根本的な課題と対応策の提案これらのネガティブな意見は、主に「①金銭的報酬」「②業務負荷と組織の安定性」「③公平性とキャリアの魅力」という3つの大きな課題に集約されます。以下にそれぞれの課題に対する対応策を提案します。

課題①:金銭的報酬への強い不満
給与や賞与、退職金といった金銭的報酬が、エンゲージメントを阻害する最大の要因となっています。これは従業員の生活に直結するため、最も優先的に対処すべき課題です。

提案する対応策:

  • 短期的な対応(すぐ着手すべきこと)
    • 競合調査と現状の透明性確保: 同業他社や同一地域の報酬水準を調査し、自社の立ち位置を客観的に評価します。その結果を従業員に(可能な範囲で)共有し、会社として課題を認識している姿勢を示すことで、不満の緩和と信頼の醸成を図ります。
  • 中期的な対応(制度・仕組みの見直し)
    • 報酬制度の見直し: 現在の給与テーブルや評価制度が、市場価値や個人の成果と連動しているかを見直します。成果が報酬に反映される仕組み(インセンティブ制度の導入など)を検討し、従業員のモチベーション向上を図ります。
    • 福利厚生の拡充: すぐに給与水準を上げることが難しい場合でも、退職金制度(iDeCo+など)の導入や、住宅手当、資格取得支援といった福利厚生を拡充することで、総合的な報酬パッケージの魅力を高めます。

課題②:過大な業務負荷と組織の不安定さ
「ハードワーク」「残業が多い」「体制が毎年変わる」といった声は、従業員が心身ともに疲弊し、先を見通せない不安を感じていることの表れです。

提案する対応策:

  • 短期的な対応(すぐ着手すべきこと)
    • 業務実態の可視化: 勤怠データやヒアリングを通じて、特に負荷が高い部署や個人の実態を把握します。緊急性が高い場合は、業務分担の見直しや一時的な人員補充を検討します。
  • 中期的な対応(制度・仕組みの見直し)
    • リソース配分の最適化: 全社的に人員配置や業務フローを見直し、特定の部署に負荷が偏っていないかを確認します。RPAなどのツールを導入し、定型業務を自動化することも有効です。
    • 組織変更プロセスの改善: 組織変更を行う際は、その目的、背景、今後の見通しを従業員へ丁寧に説明する場(タウンホールミーティングなど)を設けます。変更に伴う従業員の不安を払拭するためのコミュニケーションを徹底します。

課題③:公平性とキャリアの魅力の欠如
部署や役職による待遇・働きがいの格差や、「人に勧めるほどのポイントがない」という意見は、従業員が公平に評価されていないと感じ、自社で働くことに誇りを持てていない状況を示唆します。

提案する対応策:

  • 短期的な対応(すぐ着手すべきこと)
    • 従業員へのヒアリング: 「なぜ部署によって差が生まれると感じるのか」「どのような点に魅力を感じないか」について、1on1や小規模な座談会を通じて深掘りします。
  • 中期的な対応(制度・仕組みの見直し)
    • 評価制度の公平性担保: 評価基準を全社で統一し、評価プロセスの透明性を高めます。評価者へのトレーニングを実施し、評価のばらつきをなくす努力も必要です。
    • 自社の魅力(EVP)の再定義と発信: 従業員がポジティブに感じている「良好な人間関係」や「柔軟な働き方」を、会社の正式な魅力(EVP: 従業員価値提案)として再定義し、社内外に一貫して発信します。これにより、従業員の帰属意識と誇りを醸成します。

これらの対応策を講じることで、従業員のネガティブな感情を和らげ、エンゲージメントの改善、ひいてはeNPSの向上に繋がることが期待できます。

chatGPTとGeminiの分析結果はともに、ネガティブな面が強い回答の特定と、それに対する短期・長期の改善提案という構成となっています。

chatGPTはネガティブ意見を分類しそれぞれの件数を提示していますが、それぞれの件数が実際の回答内容と一致しておらず、また、不満の焦点や代表的なコメント例は実際には書かれていない、盛られた内容となっています。

その一方で、改善提案は、KPIを明示する形での詳細なアクション提案となっており、見た目のインパクトという点では、専門性の高い提案がなされているような印象を受けます。

Geminiはネガティブ感情とされる回答内容のピックアップは適切です。ただ、課題に対する提案内容は一般的な対応策という感じが否めません。

今回のテーマに対するchatGPTとGeminiの比較では、chatGPTは精度や信頼性を欠く回答が多かったのですが、創造的な回答という点では、chatGPTにも使い方によっては優位性を発揮できるケースがありそうな気がします。

【重要】個人情報・機密情報のマスキング

eNPSや従業員アンケートのような組織に関するアンケートの自由記述回答には、部署名や担当者名、個人名などの個人情報や機密情報が混入してしまう可能性があります。回答結果をそのまま生成AIに渡すことは、プライバシー侵害やコンプライアンスのリスクにつながります。

Microsoft Azure OpenAI Service、Google Cloud Vertex AIなど、データが学習に使用されないAIサービスを利用する、オンプレミスのプログラミングツールを利用して事前に個人情報をマスキングするといった方法が対応策ですが、chatGPTやGemini、DeepSeekなど一般向けの生成AIサービスを利用する場合には、何らかの方法で個人情報や機密情報をマスキング・削除する必要があります。

生成AIとアンケートまとめ

生成AIを活用したアンケートの設問作成と、特にこれまで手間のかかった自由記述の分析を効率化する手法をご紹介しました。生成AIの出力が必ずしも満足の行く結果が得られるものではないことを前提としても、従来のアンケート業務と比較して生成AIを取り入れることで効率化できる要素は大きいと考えられます。

しかし、効率化よってアンケートのハードルが下がったとしても、元となるデータの質が低ければ、有益なインサイトを得ることはできません。質の高いデータを集めるためには、回答者が迷わず答えられる設問設計や、スムーズな回答体験を提供する「データ収集の土台」が何よりも重要です。

セルフ型アンケートツール「QiQUMO」は、まさにその土台作りを簡単かつ効率的に行える、あらゆるアンケート調査に対応できるツールです。生成AIと組み合わせて使うことでアンケートの可能性は大きく広がります。