アンケートはなぜ必要なのか?〜現状把握から未来を創る「問い」の力〜

アンケートはなぜ必要なのか?〜現状把握から未来を創る「問い」の力〜

アンケートは、社会や組織の状態を把握し、関係者との対話を可能にし、意思決定を支える強力なツールです。そして今では、かつて専門家だけが使っていた調査の技術を、誰でも手軽に使えるようになりました。

中小企業や市区町村、小規模なNPOや個人に至るまで、自分たちの「問い」を持ち、それを社会や自らの集団に投げかける力を持てる時代です。

この記事では、アンケートが私たちの生活にどのような役割を果たしてきたか、そして、なぜ、アンケートを「取ってみる」ことが大きな意味を持つのかを掘り下げていきます。

アンケートは集団の現実を映す鏡

アンケートは、社会や市場、組織を映し出す「鏡」としての役割を持っています。社会調査がその代表例です。

日本の「社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)」は、1955年から約10年おきに実施されている大規模な学術調査で、長年にわたって国民の職業、学歴、家庭環境、意識などを記録し続けています。このような継続調査は、人々の生活や価値観の変化を客観的に可視化する鏡となり、時代ごとの「社会の顔」を映し出してきました。

この鏡が映すのは、単に外面的な変化だけではありません。バブル崩壊後に深まった格差意識や、非正規雇用の増加による生活の不安定化、あるいは「中流階級意識」の揺らぎなど、社会の深層にある構造的な変化も、この調査を通じて明らかになっています。

企業にとっても、アンケートは「組織の鏡」「市場の鏡」となります。従業員満足度調査やエンゲージメント調査は、経営者が見えづらい職場の雰囲気やチームの状態を知るための手段です。

また、顧客アンケートは企業が市場と向き合うための重要な「鏡」でもあります。製品やサービスに対する顧客の率直な声を集めることで、マーケティング施策の誤りや改善すべきポイントを知ることができます。

アンケートが映し出す鏡像は、常に真実そのものではありません。誰に、どんなふうに質問するかによって、そこに映る姿は変わります。しかし、それでもなおアンケートは、私たちが自分たちが所属している集団について「知る」ために欠かせない装置であり、主観と客観の橋渡しとなる存在です。

アンケートという鏡があることで、私たちは初めて自分たちの立ち位置を知り、改善への第一歩を踏み出すことができるのです。

アンケートは進むべき方向を見極めるための地図

集団の姿を映す「鏡」としてのアンケートに続いて、今度は「地図」としての役割を考えてみましょう。

社会や市場、組織の中で何が起きているのか、それがどのように構造化されているのか、そして今私たちはどこに立っているのかを把握するためには、「地図」が必要です。アンケートは、この「地図」を描くための手段となります。

企業におけるマーケットリサーチは、市場の「地図づくり」に似ています。アンケートを活用することで、自社製品がどの層に支持されているのか、価格や機能に対する期待がどのように分布しているのかといった構造を明らかにできます。その情報は、単なる顧客の感想ではなく、「顧客像」と「市場の構成」を描き出す座標軸となるでしょう。

新サービスの導入前に行うニーズ調査では、「年代別」「地域別」「ライフスタイル別」といったセグメントごとの違いを可視化することで、訴求すべきターゲット層が明確になります。さらに、時間をかけて定点観測を行えば、市場や社会の動きそのものを追いかけることも可能です。

政策を決める際にも、アンケートは社会の構造を解明する道具として用いられています。EBPM(Evidence-Based Policy Making)という考え方は「根拠に基づいた政策決定」を意味し、主観や思い込みではなく、データと事実を基にした意思決定を行おうとするアプローチです。アンケート調査は、そのためのデータ基盤として非常に重要な役割を担います。

つまり、アンケートは単なる「今の気持ち」を集めるための道具ではなく、複雑に入り組んだ社会の構造や傾向を整理し、これからの方向性を示すための地図なのです。適切に設計され、正しく読み解かれたアンケートは、政策立案者や経営者、現場の実践者にとって、まさに未来を切り拓くための「羅針盤」となります。

アンケートは社会や組織を動かす梃子(てこ)

アンケートには「映す力」「描く力」だけでなく、「動かす力」もあります。それが、アンケートを「梃子(てこ)」にたとえる理由です。歴史を振り返ると、数多くの社会運動や制度改革の背後に、アンケートの力があったことがわかります。

1930年代に標本調査を用いて米大統領選を予測したことで知られるギャラップ社は、米のベトナム派兵に対する賛否を世論調査で記録しています。調査によって可視化された国民の反戦感情は、為政者の政治的選択肢を狭め、政策転換に導く圧力として機能したといえます。

国内に目を向けると、日本のジェンダー平等の推進を規定した「男女共同参画社会基本法」の制定は、長期にわたる地道な世論調査の積み重ねが包括的な法律の土台を築く契機となりました。

1979年以来、定期的に実施されてきた世論調査の「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という質問が、社会に横たわるジェンダー観を測る重要なバロメーターとなり、この質問への賛否が逆転したことが、男女共同参画社会の実現が単なるスローガンではなく、実行に移すべき政策課題であることを政府関係者に認識させる上で大きな役割を果たしたと考えられます。

手がかりという意味では、綿密に設計されたアンケート調査から、あるいは、想定外の調査結果に偶然見つけたインサイトを梃子に、ヒット商品が生まれた企業の例は数え切れません。

海外ではコカ・コーラ社のダイエットコークレゴ社の女児向け玩具、国内では、アサヒビールのノンアルビールセブン&アイHDの高級食パンなど、多くのヒット調品がアンケート調査を含むマーケティングリサーチの結果にもとづいて世に送り出されたものです。

このように、アンケートによって全体の声を可視化することで、行政や企業が行動を起こすための根拠が生まれます。多くの人が感じていた「モヤモヤ」が、データというかたちで整理されれば、それは「意思決定」や「実行」を後押しする強い力になります。

アンケートの重要性は、変化の「起点」となりうる点にあります。単なる現状把握ではなく、そこから次のアクションが生まれ、実際に結果が変わる。これこそが、アンケートが「社会を動かす梃子」として機能する理由です。

アンケートの「梃子」としての側面は、問題提起・現状整理・行動変化という一連の流れを生み出します。そしてその出発点は、たった一つの「問いかけ」です。問いを持ち、声を集めることで、社会の歯車は確実に動き出すのです。

アンケートの本質は対話

「問いかけ」には相手が存在します。その対象となるのが社会、市場、組織など、問いかけを投げかけるべき特定の集団です。アンケートを取るという行為は1対多、かつ1往復で完了する対話であるといえます。

アンケートの調査票に記載された問いは、すべての回答者に同じように理解される必要があります。また、やり取りが1回で終わることを前提とすれば、その問いが目的に合っていて、わかりやすく的確であることが重要です。

さらに、売上データやWebの行動ログなど、自然に得られる情報とは異なり、アンケートの「問いかける」という行為自体が相手の意識や態度に影響を与える能動的な働きかけです。

そのため、相手が質問の意図を正しく汲み取り、正確に答えられるような調査設計と質問への配慮を欠いてしまうと次のようなバイアス(偏り)を生み出してしまいます

誰に聞くか?:サンプリングバイアス

対話の相手を間違えれば、話が噛み合わないのは当然であり、知りたい対象である母集団全体を正しく代表する調査対象を選ばなければ求める結果は得られません。

以下のバイアスを防ぐために、母集団から無作為にサンプルを抽出する確率標本抽出、母集団の性別や年齢の構成に合わせてサンプルを割り付ける層化抽出などの手法を用います。

  • 選択バイアス:抽出されたサンプルが集団の全体像を反映しない場合に結果が偏る。
  • 自己選択バイアス:特定のテーマに関心や意見を持つ人だけを調査対象とする。
  • 生存バイアス:成功した事例や生き残ったデータのみを拾ってしまう。

何をどう聞くか?:質問設計バイアス

調査票の構成や質問の仕方が回答に影響を与えてしまうのが質問設計のバイアスです。設問項目とその順番が論理的な妥当性を持つこと、それぞれの質問文や選択肢を正しく設定することでバイアスの発生を防ぎます。

  • アンカリング:前の質問が後の質問の回答への基準となり、後の質問の回答に影響を与える。
  • 質問順序(ローテーション)・タイトルバイアス:質問・選択肢の順番、調査タイトルが回答に影響を与える。
  • 誘導質問:質問自体に答えを誘導する要素が含まれる。

誰がどう答えるか?:回答バイアス

回答バイアスとは、回答者が本音の意見や実態とは異なる回答をしてしまう傾向のことです。回答者側の立場や状況、心理傾向が回答結果に影響を及ぼします。正しい質問設計を前提として、回答バイアスを想定した対策を加えます。

  • 社会的望ましさ:周囲から見て好ましいと思われる回答をする。
  • 同意傾向:負荷が高い質問や調査に非協力的な場合に、質問に関わらずyesと回答する。
  • 極端化傾向:評価を答える質問に対し、肯定・否定どちらか極端な選択肢を選択する。
  • 中央傾向:極端化とは逆に、常に中庸を選択する。
  • 順位効果:最初や最後に選択肢が選ばれやすくなる。

声なき声:無回答バイアス

無回答バイアスはサンプリングバイアスに含まれます。調査全体に非協力的な場合に多くの質問に対して無回答とする場合と一部、または特定の質問に無回答とする場合があります。

無回答には以下の理由が考えられますが、全体に無回答が多い場合、特定の質問に無回答が多い場合には、設問設計を見直す必要があります。

  • 非該当:回答者が自分には当てはまらない質問をされる。
  • 不明:回答者が理解しにくい、認識外の質問をされる。
  • 回答拒否:調査自体、あるいはその質問の内容に答えたくない場合。

アンケート作成のキモとなる問いの力

アンケートは、集団の姿を映し出す「鏡」として、進むべき道を示す「地図」として、そして社会や組織を動かす「梃子」として、私たちに大きな力をもたらします。しかし同時に、その力を正しく引き出すには、様々なバイアスを回避する工夫と配慮が必要という難しさもあります。

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