ソーシャルマーケティングとは?社会的背景と事例を挙げて解説

ソーシャルマーケティングとは?社会的背景と事例を挙げて解説

地球温暖化による環境被害が深刻化するなかで、カーボンニュートラルへの関心がより高まっています。このような社会問題の解決に向けてマーケティングの知見を活用し、社会全体の行動変容につなげるのがソーシャルマーケティングの考え方です。

既に多くの企業が取り組みを開始しているソーシャルマーケティングについて事例を交えて解説します。

ソーシャルマーケティングとは

マーケティングは営利企業が自社の利益の拡大を目的に、顧客・消費者を対象として行う働きかけのことを指します。これをコマーシャルマーケティングとした場合、ソーシャルマーケティングは、環境、健康、人権、インクルージョン(包摂)、平和などの社会問題の解決にコマーシャルマーケティングの手法や技術を活用することです。

公共セクターや非営利組織が実施主体である場合をソーシャルマーケティング、企業が実施主体である場合をソサエタル・マーケティングと区別する場合もあります。

ソーシャルマーケティングの対象者は社会問題に直面する人々とその利害関係者、特定の属性を持つ人や特定の環境などが挙げられます。

ソーシャルマーケティングに対して、学術分野でもさまざまな定義がなされていますが、以下の4点が共通する認識といえます。

  • ソーシャルマーケティングの対象の行動変容がその目的となる
  • 行動変容の結果が対象者や対象領域のソーシャルグッドを達成する
  • コマーシャルマーケティングの概念・手法・技術を適用する
  • 制限や強制ではなく、対象者の自発的な行動変容を促す

ソーシャルマーケティングは1970年代に経営学者コトラーによって用いられたのが最初といわれています。1960年代を前後して当時のアメリカでは公民権運動やコンシューマリズムが社会問題化しており、それらの解決に向けてコマーシャルマーケティングの知見を活用しようという発想にもとづいています。

近年では、温暖化による環境意識の高まり、LGBTの尊重やハラスメント対策などインクルージョンの拡大、高齢化社会における健康教育の必要性などを背景として、ソーシャルマーケティングのアプローチが取られています。

ソーシャルマーケティングに関連する考え方

コマーシャルマーケティングは営利活動という企業の行動原理にもとづく考え方であり、社会全体の利益を目的とするソーシャルマーケティングとは相反する価値観にもとづいています。

企業がソーシャルマーケティングに取り組むべき背景として、以下のような考え方がもとになっています。

CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)

企業の行動原理は利潤追求とゴーイングコンサーン(継続企業の前提)を前提としており、

競争原理が働くことで市場が活性化し消費者の利益にもつながるというのが、自由主義経済の考え方です。

自由主義経済が加速した1950年代、生産の規模を拡大した大企業が公害を引き起こしたり、影響力を濫用した不当表示や欠陥商品による消費者被害など、自由競争の負の側面に目が向けられるようになりました。

これに対し、社会的公正や環境配慮など地域社会や従業員、株主など企業活動全般に関わる利害関係者に対する説明責任と倫理的行動を企業に求めるのがCSRの考え方です。

近年では、地球温暖化を背景としたカーボンニュートラルやサプライチェーンにおける労働搾取撲滅、健康経営の取り組みといった分野がCSRの対象とする企業の課題として挙げられます。

CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)

CSVは、企業がそれぞれの事業領域に関連する社会課題を取り込み、イノベーションを通じてその解決に取り組むことが成長の機会と競争力を高めることにつながるという考え方です。

2011年に経済学者ポーターが提唱した概念であり、利潤追求と社会課題の解決の両立を目指すという点で、企業がソーシャルマーケティングに取り組む矛盾を解消し持続的な成長に結びつくことを主張しています。

ソーシャルマーケティングの8つの基準

英国ソーシャル・マーケティング・センターは、ソーシャルマーケティングを実施する際の要件として8つの基準を示しています。

1.顧客志向
ソーシャルマーケティングは社会課題に関わるさまざまなステークホルダーが対象となります。それらの人々を対象とする単なる啓発活動ではなく、各ステークホルダーの視点に立ったソリューションを提供することが求められます。
2.行動
ソーシャルマーケティングは社会全体の行動変容を目的とし、測定可能な行動目標を設定することが求められます。行動変容に至るまでのプロセスと、知識や信念のほか環境、状況など行動に影響する要因を理解することが必要です。
3.理論
ソーシャルマーケティングのプログラムやソリューションは、行動科学の理論と実証にもとづいて設計されることが求められます。変容ステージモデルや計画的行動理論、イノベーション普及理論などの知見が代表的な行動科学の理論です。
4.洞察
行動変容の動機づけに対する理解を重視し、定量・定性両面からの調査活動によりインサイトを得ることを重視します。
5.交換
行動変容から得られるベネフィットとそれに伴うコスト意識を明確にすることが重要であり、自発的な行動変容につながる有形・無形のインセンティブを設計する必要があります。
6.競争
行動変容の妨げとなる、心理的な内的要因と環境に存在する外的要因を特定し、それらを抑制、あるいは、取り除くための手段・方策を用意し、対抗するための戦略を取ります。
7.セグメンテーション
ソーシャルマーケティングの対象をセグメントし、部分的・段階的なアプローチを取ることがすべての対象者への包括的なアプローチよりも効果的である場合が少なくありません。
8.メソッド・ミックス
複数の方法論や介入手段による相乗効果によって、より効果的な行動変容に結びつけることが重要です。
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ソーシャルマーケティングの企業事例

ソーシャルマーケティングに積極的に取り組んでいる企業として以下のような具体例が挙げられます。

パタゴニア

パタゴニアは創業50周年を迎えるアメリカのアウトドア用品ブランドです。1980年代から環境問題への具体的な取り組みと環境保護へのメッセージを発信し、エコフレンドリーな企業として知られています。

次のような環境保護に関連する取り組みを行っています。

「1% for the Planet」

売上の1%を自然環境の保護/回復のために拠出する取り組みで、1985年から行われています。1億4,000万ドル以上の環境保護団体への寄付を行っています。

1% for the Planetという非営利団体を設立して、売上の1%の寄付を条件に団体への参加を他の企業にも呼びかけています。100カ国、5,400以上のメンバーと6,500以上の環境パートナーが加盟しています。

「WORN WEAR」

衣料品の大量廃棄による環境負荷削減を目的に、自社製品の修理と再利用の呼びかけを行っています。自分で修理する場合のノウハウを動画で公開するほか、修理キットの販売、店舗とオンラインでの修理受付、WORN WEARイベントでのリペアトラックの修理受付などを行っています。

「プロビジョンズ」

環境危機の原因となる食分野に着目し、オーガニックな農産物や環境修復型の農法、小規模な家族経営で営まれる水産物、環境負荷の低い素材を使ったパッケージの食品・飲料の販売も手掛けています。

「Don't Buy This Jacket」

2011年のブラックフライデーに「Don't Buy This Jacket」という自社のフリースジャケットの写真が表示された広告をニューヨーク・タイムスの一面に載せました。消費財の生産にともなう環境負荷の大きさを自社の製品を例に挙げて、環境に配慮した思慮深い消費のあり方を啓蒙しています。

サスティナブルな原材料の使用

ペットボトルをリサイクルしたフリース、綿素材商品の原料のオーガニックコットンへの切り替え、アパレル製品での再生ナイロン素材の使用など、サスティナブルな原材料の使用に積極的に取り組んでいます。

環境保護へのメッセージ発信

自社のWebサイトとYouTubeチャンネルを活用し、環境保護へのメッセージを発信しています。環境危機の実態とパタゴニアの企業姿勢を発信することで、環境保護への関心を高め、取り組みへの参加を呼びかけています。

キリンホールディングス

ビール・清涼飲料事業を行うキリンホールディングスではCSVの実践をパーパスに掲げ、社会課題の解決と持続的成長の実現を目指しています。酒類メーカーとしてアルコールに関連する問題に取り組むほか、健康・環境・コミュニティの3つの領域に関連する社会課題への事業を通じた解決への取り組みがその内容です。

キリンホールディングスWebサイトでは、以下の内容が公表されています。

中期経営計画による2024年目標

非財務目標として環境・健康・従業員それぞれに以下の目標を設定しています。

環境温室効果ガス削減ペットボトルリサイクル率向上水使用の上限設定
健康プラズマ乳酸菌の認知率、摂取人数の目標設定免疫・脳機能・腸内環境分野の新価値創造
従業員従業員エンゲージメントスコア目標値設定女性経営職比率・キャリア採用比率目標値設定労働災害の削減

CSVコミットメント

2022-2024年CSVコミットメントとして、各領域ごとに数値目標が設定された以下のコミットメントを掲げています。

酒類メーカーとしての責任適正飲酒プログラムの実施と啓発コンテンツなど、アルコール有害摂取根絶のための取り組みノン/低アルコール商品の販売拡大、アルコール摂取量のコントロール支援
健康医薬品・健康食品分野での独自製品の提供拡大のほか、ヘルスサイエンス領域や摂りすぎない健康食品の開発・育成健康経営の実践
コミュニティサプライチェーンの人権尊重と原材料サプライヤーの認証取得支援災害復興支援プログラムの実施クラフトビール市場・ワイン市場の拡大による食文化の活性化
環境紅茶葉・紙の生物資源生産地での認証取得による森林破壊の抑制製品廃棄量の削減水使用量の削減と水源地保全活動の実施リサイクルインフラ整備とリサイクル材・バイオマス容器の利用拡大温室効果ガス排出削減と再生可能エネルギー100%の早期達成

まとめ

環境問題をはじめとする社会問題への対応は、一部の企業だけに求められるものではなくなり、ソーシャルマーケティングへの取り組みがブランディングや顧客・株主からの評価に大きな影響を与えるようになっています。

事例として挙げたパタゴニアは、自社製品のフィールドである環境を軸にインパクトのあるソーシャルマーケティングを展開しており、キリンホールディングスはCSVを具体的な数値目標を掲げて実践しています。共通するのは消費者の行動変容につながる実効性を追求しているという点です。

ソーシャルマーケティングへの取り組みを行うにあたり、ソーシャルマーケティングの8つの基準で示されている、行動変容につながるインサイトを調査することは不可欠です。

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