MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)とは?再注目される理由と活用法

MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)の活用方法

ビッグデータの活用がビジネスの大きなテーマとなるとともに、データから知見を掘り起こすための統計技術の活用が求められるようになってきています。広告の効果測定に関連するMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)もそのひとつです。

MMMが注目されている背景と統計モデリングの活用に加えて、効果的なMMMの運用の仕方について解説します。

MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)とは?

MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)とは、広告を中心としたマーケティング施策の効果を、事業への貢献度の観点から評価するための手法です。

個別のマーケティング施策の効果測定とは異なり、各マーケティング施策のROI(対費用効果)を分析することで、目標とする事業成果に対する予算配分を最適化し、マーケティング戦略や広告戦略の将来的な貢献度を予測することを目的とするものです。

MMMで分析の対象とするのは過去のデータです。4P(Product・Price・Promotion・Place)のプロモーションに投じた予算やオンライン・オフラインでの効果測定の結果と、製品・価格・流通から得られるデータを説明変数とし、売上やCV(コンバージョン)数などの成果指標を独立変数として統計モデルを組み立てるのがMMMの中身です。

季節要因やマクロ経済指標などマーケティング施策以外の外部要因も説明変数に含められるほか、広告の残存効果や変数間の関連性なども統計モデルに組み入れられます。

MMMが再注目されている理由

MMMは1950年代から用いられている手法であり、目新しい分析アプローチというわけではありません。

近年、広告メディア業界を中心にMMMが見直されている背景には次のような理由が挙げられます。

コミュニケーションチャネルの多様化

オムニチャネル化した消費者へのアプローチのなかで、マーケティング施策は複雑性を増しています。

消費者の購買プロセスのなかで、オンラインで計測できる指標以外にオフラインメディアやSNSの口コミの影響などを含めて、実際に成果につながった要素をメディアやプロモーション単位で見極めることが難しくなっていることが挙げられます。

リーチや認知率など個別に把握できる効果測定の結果のほかに他の指標を加えて、変数として扱い統計モデルを当てはめることで、それぞれの関連や因果関係を定量的に導き出そうとするのがMMMの考え方です。

クッキー規制によるアトリビューション分析の限界

個人情報保護に関する認識の高まりからサードパーティークッキーの利用規制は強化される方向にあり、デジタル広告の効果測定の精度を保つことが難しくなってきています。

クッキーに依存する従来のMTA(マルチタッチアトリビューション)という効果測定手法に代替し、さらにプロモーション全体での費用対効果の評価手法としてMMMが再注目されています。

説明責任と全体最適の要請

マーケティング施策のオムニチャネル化により総合的な施策の評価が難しくなったことは、個別の施策の意思決定にも大きな影響を与えます。オンラインとオフラインへの予算配分や効果の高いメディアの選択など、効果測定の結果だけでは結論を出せない状況が増えています。

その際、MMMは原因と結果を客観的に説明する判断材料としての役割を果たします。投資判断のための根拠として、あるいは叩き台としてもMMMは有効です。

また、それぞれのチャネルのマーケティング施策は個別最適に陥りがちです。チャネルやメディア、リアルでのプロモーションも含め、全体最適の視点を提供することもMMMに求められる目的のひとつです。

効果測定との違い

テレビCMの場合の効果測定指標の代表的なものはGRP(述べ視聴率)やGAP(延べ注視率)です。

デジタル広告の場合はインプレッション・クリック・コンバージョン単価のほか、広告経由の売上についてはROASにより対費用効果を特定できます。このほか、リーチや認知率、想起率、ブランドイメージ、購入意向なども効果測定指標として用いられます。

これらの指標は購買行動プロセス(認知・興味/関心・比較/検討・行動)のなかの一部分についての効果を知ることができますが、メディアやプロモーション単位での売上に対する貢献度やプロセスの各段階での効果の比較をすることができません。

一方、MMMはこれらの指標を説明変数とし、その成果である売上や販売数量、アクティブ率などを目的変数として、統計モデルにもとづいた関連性や因果関係を定量的に把握することができます。

結果から原因を推定するというアプローチによって、オンライン施策とオフライン施策を比較した場合の貢献度の評価や、最も費用対効果の高いメディアを推定するといったことが可能になります。

統計モデリングとは

統計モデリングとは確率分布にもとづくデータ解析の枠組みであり、MMMでは回帰モデルや時系列モデルなどが用いられます。

回帰モデルの簡略化したイメージは以下のようなものです。

売上を目的変数としTVCMのGRP、新聞広告の出稿段数、ネット広告のクリック数を説明変数として、一定期間のデータを用意します。

日付売上TVCM(GRP)新聞広告(出稿段数)ネット広告(クリック数)
2023/04/012,327,1682,0003004,176
2023/04/023,273,4182,0005003,765
2023/04/038,735,1425,00050038,824
・・・・・・・・・・・・・・・

これらのデータから重回帰分析により係数と切片を求めれば、各メディアごとのマーケティング施策を横並びで比較したり、将来的な売上の予測に使うことができます。

回帰モデルの簡略図

収集するデータの種類

分析にかけるデータの種類はビジネスの種類や分析の目的によって異なりますが、一般的には以下のようなデータがMMMの分析対象となります。

目的変数

目標変数の要素

売上、シェア、販売数量、CV(コンバージョン)数、アプリインストール数、新規申込数、など

説明変数

広告GRP(TVCM)、ラジオ・新聞・屋外広告等の広告費、出稿数デジタル広告のimp、CTR、CVR、CPC、CPA など
製品・サービス製品仕様の変更、消費者調査での評価 など
価格・販促価格、販促費、配荷率、陳列数、陳列タイプ、イベント等の実施状況など
競合状況シェア、新製品、広告、評価ランキング など
外部要因GDP成長率、天候・休日など

データ収集に関する注意点

分析するにあたり、分析対象とするデータについては次のような点について注意する必要があります。

データのクレンジング

収集するデータには、期間的な欠損値があったり、イベントや突発的な事象による外れ値が含まれていたり、また、カテゴリーデータの扱いなど、分析したいデータが常に完全な状態で存在しているとは限りません。

欠損値や外れ値のチェックとともに、データの尺度・型の変換など、分析にかける前の段階でデータをクレンジングする必要があります。

多重共線性と交絡の問題

説明変数とするデータに強い相関がある場合、回帰モデルでは相関しているデータを個別に取り出すことができなくなります。これを多重共線性といいます。誤った結果をが出力されることを防ぐために、VIF(多重共線性を検出する指標)の値を考慮してデータの統合・削除・分割などを行います。

また、因果関係を判断する場合には、分析対象とするデータ以外に独立変数に影響を及ぼしている要因が存在する場合があります。それが交絡です。特に競合の状況や外部要因に見落としている要素がないかどうかを慎重に判断する必要があります。

MMMの正しい活用の仕方

MMMを効果的に運用するためには次のような点に留意することがポイントです。

データのレイヤーを区別する

分析を行うデータの種類や構築するモデルは、MMMの分析結果を誰がどんな意思決定に活用するかによって変わってきます。戦略レベルで見る場合は、事業単位や部門単位のデータが分析対象ですし、戦術レベルで見る場合は、ブランドや顧客別のデータが必要になります。

意思決定のステークホルダーに適した分析結果の情報を定義し、それにもとづくモデルを作成することが重要なポイントです。

自社のビジネスに沿ったモデルを開発する

オンラインで完結するビジネスとリアルが中心のビジネスでは、顧客とのタッチポイントが異なりますし、コミュニケーションチャネルのウェイトや4Pの各要素の位置づけも違ってきます。

ビジネスの種類とマーケティングの要素に合わせて柔軟にモデルを作成することがMMMには求められます。

統計モデリングは推定でしかない

MMMによって得られた分析結果は統計的な推定の結果でしかないことを認識しておく必要があります。もちろん意思決定の判断材料となるものですから、モデルの精緻化を目指すことは間違いではありませんが、統計モデリングは確率分布を前提とした推計値にしかすぎません。

精緻なモデルであっても意思決定に活用できなければ意味がありませんし、反対に、大まかな傾向を見つけただけでもクリティカルな判断材料になる場合もあります。

分析結果については定量的な妥当性の検証を行うとともに、関連するポジションのスタッフの経験や主観にもとづいて、判断材料としての有用性を評価し共通認識を持つことがMMMの効果的な運用につながります。

まとめ

MMMでは、蓄積された内部データを活用するほか、外部の広告代理店のメディアデータやPOSデータ等のシンジケートデータを入手する必要があります。

これらの結果として示されたデータから、相関や因果関係を推測することがMMMの本質ですが、購買行動の原因や動機、理由まで明らかにするものではありません。

それを補うのが消費者調査によるユーザーのダイレクトな声や反応です。アンケート調査の結果がMMMの分析結果を裏付けることになるとともに、数値だけではわからない新たなインサイトを発見するいとぐちになる可能性もあります。

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