パーパスとは?企業理念やCSR、MVVとの違いについて時系列で解説

パーパスとは?企業理念やCSR、MVVとの違いについて時系列で解説

企業が持つ価値観や理念を表現するためのフォーマットとしてMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)を挙げることが一般的でしたが、近年では「パーパス(企業の存在意義)」というキーワードに注目が集まっています。

SDGsが社会・経済に浸透していくなかで、社会課題への向き合い方を含む企業のあり方を問うのがパーパスという考え方です。

従来からの企業理念やMVVに関連した概念であるパーパスが意味するものについて解説します。

企業はどうあるべきか

2021年11月に日本経済新聞、12月に東洋経済が記事に取り上げたことをきっかけに、国内企業の経営層やスタートアップ界隈を中心に一気に広がったのが「パーパス」というキーワードです。

「パーパス」は企業の存在意義という意味合いを持っていますが、企業が果たす役割やビジネスのあり方、社会との関わりについては古くから議論されており、学術研究分野では戦前まで遡ることが指摘されています。

パーパスという言葉が登場する以前の、企業の存在意義や価値観についてのキーワードをご紹介します。

CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)

1950年代の米国において資本主義による自由競争が加速するなか、企業の社会的影響力の高まりに目を向けたのが米経済学者ボーエンです。

経済の自由放任主義の負の側面が拡大していくことに対し、倫理的・道徳的な面からの規範の必要性を説いたものがCSR(企業の社会的責任)と考えることができます。

経営者の意思決定が経済的・社会的に大きな影響力を持つことと同時に、企業が社会からの支持が得られなければ存続していくことができない点について経営者の自覚を促すものでした。

経営理念

国内では、戦後復興期から企業経営の民主化に主導的役割を果たした経済同友会と、国内産業の近代化に向けて欧米の知見を取り入れることを進めた日本生産性本部が、経営理念という言葉の普及に大きく関わっています。

この流れのなかで「企業の社会的責任」という概念が実業界に普及したのは、1956年に邦訳が出版されたドラッカーの「現代の経営」がベストセラーとなったことがきっかけといわれています。

経営思想や経営哲学への関心が高まっていくなかで、企業の命題である利潤追求に加えて企業の社会的責任という考え方が「経営理念」という言葉とともに受け入れられていきました。

CI(Corporate Identity:企業アイデンティティ)

CSRや経営理念が企業の責任や義務、果たすべき役割といった概念を中心に据えたものであるのに対し、企業と外部の関係性をコミュニケーションや企業文化という考えに発展させたのが、1970年代にはじまるCI(コーポレートアイデンティティ)です。1990年代に入るとブランディングという考え方につながっていきます。

CIというと、ロゴやコーポレート・メッセージなどの統一を図ることと思われがちですが、経営理念に加え、企業文化や経営哲学など企業の精神的方向性を示すMind Identity、経営目標や経営戦略を示すBehavior Identity、ロゴやコーポレートカラーなどのデザインの統一を図るVisual Identityの3つを統合することがCIの全体像です。

MVV(Mission・Vision・Value)

MVVはドラッカーが2003年の著書「ネクスト・ソサエティ」のなかで提唱したものとされますが、本書のなかではValues、Mission、Visionが何を意味するのかまでは明確にされていません。

国内外の多くの企業が、経営理念の策定やCIへの取り組みをバージョンアップするような形でMVVを掲げるようになっている一方で、MVVの解釈と意味合いはMVVを策定する企業や、コンサルタントなどの外部機関それぞれによって異なっています。

一般的にMVVのそれぞれは以下のような意味合いで用いられています。

Mission(ミッション)企業の果たすべき使命(何をすべきか:what)
Vision(ビジョン)企業が目指すあるべき姿、未来像(目指す場所:when/where)
Value(バリュー)企業が持つ価値観や行動指針(どのように実現するか:how)

CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)

社会課題への関心の高まりや、技術革新によるグローバル化のダイナミックな変化などを背景として、米経営学者マイケル・E・ポーターとマーク・R・クラマーがCSVという考え方を2011年に発表しました。

CSVの共通価値は「企業が事業を行う地域社会や経済環境を改善しながら、自らの競争力を高める方針とその実行」と定義されています。

環境問題を始めとし、人権や貧困問題など、存在する社会課題への企業の向き合い方を重要視している点が、これまでの企業のあり方を論ずるキーワードとは最も異なっている点です。

パーパスの登場

オックスフォード大学のコリン・メイヤーがCSR、CSVに代わる新しい概念として「パーパス(存在意義)主導の経営」を提唱したこと、2018年に大手機関投資家のラリー・フィンクが「A sense of purpose」という書簡を世界の大企業経営者に送付したことなどが、企業の存在意義としてパーパスが用いられた最初といわれています。

2019年に開催された米国の大企業で構成されるビジネスラウンドテーブルのなかで「企業の目的の再定義」として発表された提言で世界的に注目されるようになりました。

パーパス、パーパス経営、パーパスブランディングなど、「パーパス」というKWが国内のビジネス界に取り入れられるようになったのは2021年からだといわれています。

パーパスはMVVと同様に、最初から明確な定義が存在する概念ではなく、実務分野を中心に取り入れられていくというプロセスを踏むという点でさまざまな解釈があり、学術分野でもさまざまな論議がなされている段階といえます。

パーパスの導入状況

歴史のある企業の多くは、経営理念が企業理念や社訓、社是として従前から存在しており、CI、MVV、CSVといった新しい概念の登場と時代の要請に合わせて、企業それぞれに自社のあり方を見つめ直してきたと考えられます。

国内でパーパスという考え方が知られるようになったのは2021年ということもあり、実際にパーパスを策定している企業はそれほど多くはありません。2022年に実施された調査(アイディール・リーダーズ株式会社)によると、上場企業3,849社のうちパーパスを策定している企業は215社(約5%)であったことが報告されています。

一方、日本経営倫理学会誌に発表された「企業のパーパス論と日本企業の実践」という論文では、Fortune Global500に入る日本企業53社のなかで、企業のパーパスや存在意義をホームページ上で開示している企業は45社(85%)であったとしています。

この研究では45社のなかから6社を対象にパーパスの捉え方と実践状況についてのインタビュー調査が行われています。6社のうち4社で従来の経営理念をパーパスと捉えているとし、2社は経営者の交代などのタイミングに従来の理念体型を整理したことをパーパス策定の動機としており、これまでの企業理念やMVVの延長線上でパーパスが策定されていることが伺えます。

広告代理店日本経済社が2022年末に行った、パーパスを策定している企業に勤務し、パーパス策定に関わった20〜69歳までの男女を対象としたネット調査では、勤務する会社のパーパス策定プロセスについて調べています。

勤務先企業のパーパス策定のきっかけとしては、①組織風土改革、②SDGsへの取り組み強化、③人材採用効果への期待が挙げられています。

また、パーパス策定に関わった人数は10〜50名未満、策定に要した期間は3ヶ月〜1年未満がそれぞれ過半数を占めており、パーパス策定が長期間にわたる組織的な取り組みであることが示されています。

パーパス策定の効果は以下の項目が挙げられています。

【Q.パーパスを策定されて実感できた効果はありますか。(複数回答)】

策定効果構成比(%)
社員間での一体感が高まった24.5%
社会貢献意識が高まった23.8%
自律的に動く社員が増加した19.8%
企業の認知が高まった19.3%
社員エンゲージメントが高まった19.0%
仕事のスピードが上がった17.0%
新しい商品や事業の開発につながった15.5%
イノベーションが起きやすくなった15.3%
消費者に好評だった15.3%
ステークホルダーからの反響が高まった15.0%

まとめ

実際に企業ホームページなどで公開されている、企業理念や経営スタンス、行動指針などを紹介するページを見ると、企業それぞれに千差万別であり、パーパスやMVVといったフォーマット通りに自社のあり方を規定しているところは少数です。

ホームページやIR資料等で自社の存在意義を宣言することが、パーパス策定の本来の目的ではなく、事業活動から社会的・経済的な価値を実際に創造する仕組みを企業全体に浸透させていく取り組みが求められます。

パーパスを一時的なバズワードと捉える向きもないわけではありませんが、企業が環境問題をはじめとする社会課題へ向き合うことの重要性は、CSVで指摘されているとおり今後ますます大きくなっていくことは間違いないでしょう。

時代の変化に合わせて企業のあり方にも変化が求められることは必然といえます。パーパス(存在意義)という言葉は自社のあり方を突き詰めて考える上での重要なキーワードになるはずです。