閾値(しきいち)とは|簡単解説

閾値(しきいち)の意味とは

閾値のカンタン語句解説

閾値(いきち / しきいち)は 、刺激や入力などの連続した変化量のなかで、特定の反応や出力を得るための境界となる値のことです。マーケティング分野では、収益や成果を得るための基準となる指標のことを指します。

さまざまな分野で用いられる閾値の意味

学術用語として用いられる閾値は、生理学や心理学などでは「いきち」、物理学や工学などでは「しきいち」という読み方が定着しています。

英語ではthreshold(戸口の敷居、出発点、基準値、境界値)やlimit(限度、上限・下限、境界、極限)が閾値の訳語に当たります。

閾値という用語が用いられる典型的なケースとしては以下のような例が挙げられます。

理学分野の閾値の例

聴力のイメージ画像

神経科学の分野では、人間の感覚に対して、特定の反応が引き起こされる刺激の量や強度、持続時間の境目の値のことを指して閾値が使われます。

例えば、味覚に対する刺激ということでは、砂糖の水溶液の濃度を極めて薄いものから段階的に濃くしていった場合に、はじめて甘いと感じられた砂糖の濃度が閾値(絶対閾値)として検出されます。

また、甘いと感じられる同じ濃度の砂糖水を2つ用意し、一方の濃度だけを少しづつ変えていった時に、2つの甘さの違いを識別できた砂糖の濃度の変化量を弁別域(相対閾値)といいます。

聴覚に対する刺激ということでは、人間が聞き取ることの出来る音の周波数の範囲の上限と下限が閾値であり、この場合の閾値は人によって異なる以外に、音の大きさや他の音を同時に聞く場合などによって変化します。

産業分野の閾値の例

製造業の生産管理にも閾値という言葉が使われます。

工場の生産ライン

工業製品の大量生産では個々の製品にバラつきが生じます。これを見越して、設計の段階で公差や許容差などを閾値として設定し、閾値から外れたものを不良品と判定します。

工場の生産能力に対して閾値を狭い範囲に設定すると、不良品の発生率が高まり生産効率が悪化します。かといって閾値を広く取ると、ユーザーの使用場面で不具合が発生する可能性が高まり、市場クレームが多発する結果を招いてしまいます。

閾値の設定は品質とコストのバランスを図る上で合理的な決め方をする必要があります。

それ以外に、デジタル分野では、プログラミングで条件分岐をする際に基準とするパラメーターの量や、デジタル画像処理やアプリの挙動を設定する際の基準の値に対して閾値という言葉が用いられます。

マーケティング分野で用いられる閾値

閾値の例として、刺激に対する人間の感覚という観点での閾値と、定量的な情報を処理するために設定する閾値を挙げましたが、マーケティング分野で使われる閾値は、その両方の意味合いで使われます。

消費者心理・態度・行動に対する刺激と態度変容

マーケティングの枠組みでは、消費者に対するマーケティング施策を「刺激」、それに対する消費者の態度・行動の変化を「反応」と捉えます。

例えば、広告の出稿量を増加させていった時に、消費者の反応の変化として現れるのが売上や認知の変化です。

求める売上の変化量に対応する広告の出稿量を閾値とする場合や、広告予算の上限を閾値と定めて、売上の変化量を評価するといったことが行われます。

消費者の認知・態度の変化はアンケート調査の定量情報を使って分析を行います。購買行動につながる認知や態度のスコアから閾値を検出し、スコアを目標に導くための施策を検討します。

Webマーケティングにおける閾値

Webマーケティングでは、マーケティング施策の量的変化とユーザーからの反応がよりダイナミックに変動することが特徴です。

最もわかりやすい例としては、コンテンツマーケティングでオーガニック検索からの顧客獲得を目指す場合の検索順位が挙げられます。検索順位が1ページ目に表示される場合と2ページ目以降、また、検索順位1位とそれ以下では獲得できるアクセス数が極端に異なるため、検索順位もコンテンツが成果に結びつくための閾値であると考えることができます。

コンテンツマーケティングにおける記事数

メディアのコンテンツの量とアクセスボリュームの関係にも収益化できるかどうかの閾値が存在します。

メディア立ち上げ当初の記事数が少ない段階では、獲得できるアクセス数はほとんどないまま推移します。ところが記事数が一定数に達するとアクセス数が一気に上昇します。その際の記事数が閾値となるわけですが、そのボリュームはジャンルやテーマ、記事の質などによってそれぞれに異なります。

広告予算とCV(コンバージョン数)

Web広告の効果はコンテンツマーケティングとは異なり、広告予算とCVはある程度比例した関係を示すことがほとんどです。広告予算をかけて広告の露出を増やすことでCVを増加させることができます。

傾向として見られるのがCVが一定量に達した時点から、それ以上広告予算を増やしてもCVが増加しなくなることです。広告の対費用効果を考える上で、その境目となる広告予算を閾値と判断して広告予算の最適化を図ります。

RFM分析における閾値

RFM分析はCRM(顧客関係管理)において、顧客のカテゴライズを行うための指標を見るものです。顧客を分類することで、DMの配信やキャンペーンの告知などのマーケティング施策の効果につながる顧客層を特定することができます。

顧客のそれぞれの購買履歴をもとに、R(Recency:最終購買日)、F(Frequency:購買頻度)、M(Money:購入金額)別に顧客を分類しますが、それぞれのランクの境界をどこに設定するかが閾値となります。

RFMそれぞれのスコアが高いほど、自社にとって優良な顧客であると判断でき、RFMのスコアが高い顧客を対象に施策を行うだけでもその効果を高めることにつながります。

また、スコアが低い顧客に対してはその理由を特定するとともに、クーポンの配布など再購入・再利用につなげるための施策を行うことが有効です。

閾値をどの指標のどの水準に取るかは企業や商品カテゴリーによって異なり、それぞれに最適な値を見つけ出す必要があります。

LTV分析における閾値

LTVは顧客生涯価値と訳されますが、1人の顧客から一定期間に得られる利益のことを指します。

RFM分析のM(Money)に相当しますが、金額を単位とする指標であることから、得られる利益と顧客を獲得するためのコストを関連づけることで、マーケティング施策にかかる費用を最適化するための指標として活用できます。

顧客1人あたりの利益であるLTVとマーケティング費用であるCPA(Cost par Aquisition:1人の顧客を獲得するためのコスト)は以下のように求められます。


LTV=購入単価 ✕ 購買頻度 ✕ 設定期間 ✕ 利益率
CPA = 広告宣伝費 ÷ 設定期間あたりの成約数(CV数)

一定期間のなかで、1人の顧客を獲得するためにかかるコストが、1人の顧客から得られる利益を上回れば、赤字になってしまいます。つまり、LTV > CPA であることを意識しながら広告費を運用することが重要であり、その際の上限となるCPAを閾値と考えることができます。

まとめ

ケースごとにどのような意味合いで閾値が使われているかを挙げましたが、それぞれのコンテクストのなかで観測されるトリガーとなる値であったり、ターゲットとする値と解釈できます。

実務のなかでは客観的な定量情報から導き出される基準となる数値であり、正しい手順を踏んで算出することが重要です。