ジョブ理論とは|簡単解説
ジョブ理論のカンタン語句解説
ジョブ理論とは、顧客が抱える課題を「ジョブ」と捉え、片付けるべきジョブを顧客の購買行動の文脈と合わせて把握することが、消費のメカニズムの理解につながるとする考え方です。
破壊的イノベーションと「ジョブ理論」
ジョブ理論は、イノベーション研究の第一人者であるハーバード・ビジネス・スクール教授クレイトン・クリステンセン氏が、著書「ジョブ理論」(原題:Competing against Luck)で示した消費者インサイトを得るためのフレームワークです。
1997年の著書「イノベーションのジレンマ」で破壊的イノベーションという概念を確立したクリステンセン氏は「ジョブ理論」をイノベーションを成功に導くための理論であると本書のなかで述べています。
破壊的イノベーションとは、既存市場の成り立ちを一変させてしまうほどの革新的な技術や新たなビジネスモデルのことであり、破壊的イノベーションの出現が非連続的であることを説明したのがイノベーションのジレンマです。
ジョブ理論は、イノベーションのメカニズムを「消費者が特定の状況で成し遂げようとする進歩(Progress)」と捉え、それを理解するための方法論を説いたものと位置づけられます。
ジョブ(Job)と雇用(Hire)
ジョブ理論では、顧客が求めるゴールにたどり着くことを「進歩:Progress」と表現し、ジョブを「ある特定の状況で人が成し遂げようとする進歩」と定義づけています。
さらに、顧客が進歩にたどり着くためには、片付けるべきジョブ(JTBD:Job to Be Done)が存在し、JTBDを片付けるために商品やサービスを購入・使用することを「雇用:Hire」と呼んでいます。
顧客が成し遂げる進歩はニーズや便益であり、JTBDは顧客が抱える課題と置き換えられますが、ジョブが生ずる際の状況や文脈を捉えることを強調している点が、従来のマーケティング用語との違いです。
本書では、ジョブの定義として「ある特定の状況で人が成し遂げようとする進歩」のほか、次の項目を基本的定義として挙げています。
- 成功するイノベーションは、顧客の困難を解消し、満たされていない念願を成就させる。
- ジョブは社会的および感情的側面のほうが機能面よりも重要。ジョブは日々の生活のなかで発生し、その文脈を説明する「状況」が定義の中心となる。
- イノベーションに不可欠な構成要素はプロダクトの属性でも新技術でもトレンドでもなく「状況」である。
- 片付けるべきジョブは継続し反復するもので、独立したイベントであることは稀である。
「ジョブ理論」ハーパーコリンズ・ジャパン p62から要約
ニーズとJTBD(Job to Be Done)
ニーズは顧客が商品やサービスを購入・使用する状況までを説明していないというのがJTBDとの違いです。
本書では、ミルクシェイクの事例が取り上げられています。
【ミルクシェイクのニーズとJTBD】
ニーズ | JTBD |
---|---|
甘い味わいの満足感 | 朝食に何か取りたい(機能的ニーズ) |
暑い季節の冷たい飲み物 | 退屈な車通勤の時間にちょっとした楽しみが欲しい、でも、ミルクシェイクを片手に運転している姿を同僚に見られるのは恥ずかしい(社会的・感情的なニーズ) |
特別な場所での飲み物 | 夕食前の息子と一緒のときに優しい父親の気分になりたい(社会的・感情的なニーズ) |
ジョブの定義で述べたとおり、ニーズに対してJTBDはニーズが発生するコンテクストまで含めて詳細に把握されています。この例で挙げたニーズを把握したとしても、個々の顧客がその店でミルクシェイクを購入する具体的な理由にはならないことが指摘されています。
課題解決、PSF(Product Solution Fit)とJTBD
JTBDを解消するために商品やサービスを雇用(購入・使用)するという考え方は、ドラッガーの顧客価値やレビットのドリルの穴理論、デザイン思考で用いられるPSFと同様な概念と考えることができます。
顧客の価値はJTBDのために雇用される商品やサービスによってもたらされる進歩のことであり、PSFは消費者調査の検証・分析により顧客ニーズを精緻化するためのアプローチ方法です。
いずれもたどり着くところは同じですが、ジョブ理論では状況・背景・コンテクストにより発生するニーズの中味が異なる点をことさら強調・重要視している点が特徴といえます。
ジョブの見つけ方
JTBDは顧客に存在するものであり、さまざまなマーケティングリサーチのほか、顧客とのタッチポイントで得られる情報や偶然の気づきなど、探索的にインサイトを求めるアプローチが必要になります。
JTBDを見つけることは顧客理解を深めることそのものですが、本書ではジョブを見つける方法として以下の5つを挙げています。
1.生活に身近なジョブ
身近な生活の中から発見されたジョブの例として、ソニーのウォークマン、オンライン学習サービスのカーン・アカデミー、ベビーシッターサービスのケア・ドットコムが挙げられています。
成功している大企業やスタートアップに、創業者のJTBDがイノベーションに発展した例を多く見つけることができます。
自分にとってのJTBDのほか、日常生活のなかの消費者の行動を観察することがジョブのヒントを得る機会になるとしています。
2.無消費と競争する
本書では、JTBDの解決手段が存在しないため、何も雇用(購入・使用)しない顧客の選択を無消費と呼んでいます。顕在化していない消費者ニーズのことであり、それを見つけることができれば大きなイノベーションにつながる可能性があります。
エアビーアンドビーが代表的な事例であり、個人宅の部屋の貸し出しに対する需要はそれ以前に存在しなかった宿泊ニーズです。
3.間に合わせの対処策
高齢者人口の増加に伴い、尿もれや失禁に悩む中高年層のJTBDに着目し成人用おむつに熟年向けという新たなカテゴリーを作ったキンバリー・クラーク社の事例が挙げられています。
成人用おむつは日常的に着用することに抵抗感があり、生理用品が代用品として使われていましたが、見た目とつけ心地を通常の下着に近いものとした新たなカテゴリーの商品を開発しました。生理用品という間に合わせの対処からJTBDを見出した代表的な例といえます。
4.できれば避けたいこと
できることなら避けたいというJTBDを解決した事例が、CVSミニッツ・クリニックという大手ドラッグストアチェーンに併設された子供の軽微な感染症に対応する処方箋薬局です。
子供は結膜炎や耳感染症、連鎖球菌性咽頭炎などにより頻繁に熱を出しますが、適切な処方箋があれば軽度なうちに治ってしまいます。その際の病院に行く手間と時間を解消できるのがCVSミニッツ・クリニックです。
子供の感染症のために病院にいくというJTBDは、簡単な治療にもかかわらず長時間待たされるため、できれば避けたいことです。これを必要最低限の時間で解消できるようにした点がイノベーションにつながっています。
5.意外な使われ方
ベーキングパウダー(重曹)はパンを焼くときに使う膨張剤ですが、ベーキングパウダーを洗濯用洗剤や歯磨き粉に混ぜたりなど、調理用途以外の使われ方をしているケースがあります。
調理用途を含め、洗濯洗剤や歯磨き粉としての使われ方がジョブそのものであり、供給側が想定するものとは違った使われ方をしているケースを見つけることもジョブの見つける方法のひとつです。
ジョブ理論の注意点
本書のなかではジョブ理論では説明できない例外が存在することにも触れられており、既存のJTBDに対する解決策が完結している場合には、新たなジョブを見出すことは難しいとしています。
また、顧客のジョブを見逃す要因として以下の3点を挙げています。
- ジョブを解決するために必要な、定性的で数値化しにくい情報を捉えられないこと
- 現状のジョブ解決の延長線上にしかない業績の向上
- 思い込みによるデータの歪曲
まとめ
記事のなかでも述べたとおり、ジョブ理論は顧客価値やデザイン思考などの考え方と共通する部分の多い、消費者理解のためのフレームワークです。ジョブ理論の本質的な部分はニーズが発生する状況、文脈のなかに消費のメカニズムが隠れているという点です。
消費者が抱えるジョブを探し出すためのツールのひとつがアンケート調査です。セルフ型アンケートツールQiQUMOはジョブを解き明かすための情報収集手段として幅広く活用できます。
ジョブ理論をはじめとする消費者理解の方法をご検討の際にはクロス・マーケティングにお問い合わせください。