全国主要都市に12拠点を展開する総合型転職エージェントA社。年間登録者数は約6万人、利用者の73%が在職中という特徴があります。
直近1年間で登録者数は前年比132%と伸長。母集団形成は順調でした。しかし、初回面談設定率は27.1%で頭打ち。目標の30%を超えられない状態が続いていました。
初回連絡は平均11.6時間以内、返信率は62%。ログ上は健全です。それでも面談に進まない。
「返信はあるが、決まらない」
この“決まらなさ”を構造化するため、A社はQiQUMOを活用した詳細調査を実施しました。
A社が検証したかったのは次の3点です。
初回連絡のスピードは本当に十分か
面談未設定者はどこで心理的に止まっているのか
初期接触体験はブランド評価に影響しているか
ログと心理のギャップを明らかにすることが目的でした。
質問文:
「エージェントからの最初の連絡を受け取ってから、実際に返信するまで、体感としてどのくらい時間が空いたと感じましたか?」
選択肢:
ほぼすぐに返信した(30分以内の感覚)
数時間後に返信した感覚
翌日以降になった感覚
返信していない
実際の平均返信時間:19.4時間
中央値:16.2時間
標準偏差:11.8時間
体感で「翌日以降の感覚」46%
物理的には迅速対応。しかし心理的には“急かされた”と感じる層が存在。スピード自体ではなく、接触トーンに摩擦がある可能性が示唆されました。
質問文:
「今回、初回面談の予約に進まなかった理由として、あてはまるものをすべてお選びください。」
選択肢:
連絡内容がテンプレート的に感じた
急かされている印象があった
まだ転職を決めていない段階だった
電話面談に抵抗があった
紹介求人が多すぎて判断できなかった
紹介求人が希望と合わなかった
他社エージェントで進めている
その他(自由入力)
テンプレ感 41%
急かされた印象 38%
まだ決めていない 36%
求人多すぎ 27%
求人不一致 18%
主因は求人精度ではなく、接触体験の違和感でした。
質問文:
「以下の項目について満足度を評価してください。」
選択肢:
初回連絡のスピード
希望条件の理解度
紹介求人の納得感
担当アドバイザーへの信頼感
面談予約の分かりやすさ
スピード:平均4.3/中央値4
理解度:平均2.8/中央値3
信頼感:平均2.4/中央値2
信頼感の標準偏差:1.1
信頼感が明確なボトルネック。評価が二極化していました。
質問文:
「このエージェントを、友人・同僚に薦めたいと思いますか? 0〜10で評価してください。」
未設定層 平均3.8/NPS -29
面談経験者 平均7.2/NPS +21
初期接触体験がブランド評価を決定づけていました。
質問文:
「当社のサービスおよび人材エージェントについて、自由に意見をお聞かせください。」
結果(抜粋)
「登録内容を読んでいない印象」
「電話前提が重い」
「まだ決めていない段階だった」
「求人が多すぎて選べない」
「最初に話を聞いてほしかった」
「返信しないと悪い気がした」
定量結果を裏付ける内容でした。
A社の従来フローは【迅速連絡 → 求人提示 → 面談誘導】しかし求職者心理は【理解してほしい → 検討したい → 面談判断】
順番の不一致が心理摩擦を生んでいました。
調査結果から最も大きかったのは、「転職意欲が低いのではなく、信頼が形成されていない」という仮説転換です。テンプレ感41%、信頼感平均2.4という数値は、求人精度以前に接触体験そのものが課題であることを示していました。
これを受け、A社では求人データベース改修やスピード改善への投資を一時停止。代わりに初回連絡文面、ヒアリング設計、接触順序の見直しを最優先課題としました。仮説を数字で否定できたことが、施策の方向性を根本から変える決定打となりました。
面談未設定者350名の回答を温度感・理由選択・NPSで掛け合わせ、A社は未設定層を「情報収集層」「慎重検討層」「他社進行層」の3タイプに分類しました。
情報収集層には求人送付を控えキャリア記事を配信、慎重層にはテキスト相談導線を設置、他社進行層には一定期間後の再接触設計を構築。従来の一律対応を廃止しました。
その結果、情報収集層からの再アクティブ率が18%改善。未設定層の一部を“将来顧客”として育成できる状態に転換しました。
自由記述で多かった「最初に話を聞いてほしい」「求人が多すぎる」という声を受け、初回連絡をヒアリング中心型へ変更。求人提示数を平均8件から3件へ削減し、「なぜこの求人か」を明示。
さらに電話・オンライン・テキスト面談を選択式にしました。これにより心理的負担が軽減され、面談予約完了率が改善。改善後3ヶ月で面談設定率は27.1%から35.6%へ上昇し、未設定層NPSは-29から-11へ回復しました。
施策実施後もQiQUMOで再調査を行い、信頼感スコアは2.4から3.6へ上昇、標準偏差は1.1から0.7へ縮小しました。評価のばらつきが減少し、体験の安定化が確認されました。
単発調査で終わらせず、改善→再測定→再設計のサイクルを確立したことが最大の成果です。現在は面談後満足度や内定辞退理由も測定対象に拡張し、フェーズ横断で信頼形成プロセスを可視化する取り組みを進めています。
今回の取り組みでA社が得たのは、「面談に進まない理由は、必ずしも“意欲の低さ”ではない」という事実でした。
ログデータだけを見ていると、連絡スピードも返信率も一定水準を満たしており、大きな問題はないように見えます。しかし、実際には初回接触の印象や理解度、信頼感といった“目に見えない要素”が、面談化の分岐点になっていました。
QiQUMOによる調査を通じて、
どの設問で評価が落ちているのか
どの層が強い違和感を持っているのか
その違和感がブランド評価にどう影響しているのか
を段階的に整理できたことが、今回の最大の成果です。
その結果、A社では「とにかく早く連絡する」「多くの求人を提示する」といった従来の正解を見直し、接触の順番やトーンを再設計しました。改善後に面談設定率が向上したことも重要ですが、それ以上に、社内の議論が“求職者の温度”を前提にしたものへ変わったことが大きな変化でした。
登録数や返信率といった行動データはもちろん重要です。ただ、その間にある心理プロセスまで含めて捉えなければ、本質的な改善にはつながりにくいこともあります。
「なぜ動かないのか」を曖昧にせず、一度立ち止まって構造化してみる。そのための一つの手段として、今回のような調査活用は有効だといえるでしょう。