SWOT分析の精度を高める「客観的データ」活用術──思い込みを排除する戦略設計

SWOT分析の精度を高める「客観的データ」活用術──思い込みを排除する戦略設計

SWOT分析(スウォット分析)は、自社の戦略を考える上で非常に強力なフレームワークです。しかし、「強み」や「弱み」を洗い出したものの、それが社内の「思い込み」や「感覚」の域を出ず、結局「当たり前」のことしか整理できなかった、というケースも多いのではないでしょうか。

分析が失敗する最大の原因は、客観的な「事実(ファクト)」の不足です。特に「自社の強みは、本当に顧客に評価されているのか?」といった問いに、データで答えられないまま戦略を立てると、実態と乖離してしまう可能性があります。

本記事では、SWOT分析の基本からクロスSWOT分析による戦略立案までを解説するとともに、分析を「感覚」で終わらせないために不可欠な「客観的データ」を集める具体的な方法について、詳しくご紹介します。

1.SWOT分析とは(読み方:スウォット分析、意味)

SWOT分析(スウォット分析)とは、経営戦略やマーケティング戦略を立案するために、自社や事業を取り巻く環境を評価するためのフレームワーク(思考の枠組み)のことです。

以下の4つの英単語の頭文字を取って「SWOT(スウォット)」と呼ばれています。

  • Strength(強み)
  • Weakness(弱み)
  • Opportunity(機会)
  • Threat(脅威)

このうち、「強み」と「弱み」を内部環境(自社の努力でコントロール可能な要因)、「機会」と「脅威」を外部環境(自社ではコントロール困難な要因)として分類し、自社の現状を客観的に把握するために用いられます。

1-1.SWOT分析の目的(何のためにやるのか、何がわかるのか)

SWOT分析の最終的な目的は、分析結果に基づいて「効果的な戦略を立案すること」です。

分析を通じて、以下のようなことが明確になります。

  • 自社が持つ独自の「強み」は何か?
  • 競合と比較した時の「弱み」(課題)は何か?
  • 市場やトレンドの中に、ビジネスチャンスとなる「機会」はないか?
  • 事業の妨げとなる「脅威」(リスク)は何か?

これら4つの要素を整理することで、自社が今置かれている「立ち位置」を明確にし、「どの分野で勝負し、何を改善し、何に備えるべきか」という具体的な戦略オプションを見つけ出すことが、SWOT分析の主な目的です。

1-2.SWOT分析のメリット

SWOT分析を活用することで、主に以下のようなメリットが得られます。

  1. 自社の現状を客観的に把握できる

4つの要素に分けて整理することで、自社の強みや弱み、市場のチャンスやリスクを網羅的かつ客観的に可視化できます。

  1. 戦略の方向性が明確になる

分析結果を掛け合わせる(クロスSWOT分析)ことで、「強みを活かして機会を掴む」「弱みを克服して脅威に備える」といった、具体的な戦略の選択肢を導き出せます。

  1. リスクを事前に特定できる

事業の成長を妨げる可能性のある「脅威」や、対応が遅れがちな「弱み」を事前に認識することで、対策を講じることが可能になります。

  1. 組織内で共通認識を持てる

分析のプロセスをチームや組織全体で行うことで、「我々の強みはこれだ」「今、市場はこう動いている」という現状認識を統一し、一体感を持って戦略を実行できます。

1-3.SWOT分析の限界

一方で、SWOT分析にはいくつかの限界点もあります。これを知らずに進めると、分析が失敗に終わる可能性が高まります。

  • 分析が古くなりやすい

市場や競合の状況(外部環境)は常に変化しています。一度分析して満足するのではなく、定期的な見直しが必要です。

  • 分析者の「主観」が入りやすい

これがSWOT分析における最大の失敗要因です。「これは強みだろう」「きっとこれが脅威になるはずだ」といった希望的観測や思い込み、社内の“常識”だけで分析を進めてしまうと、実態とかけ離れた戦略が導き出されてしまいます。

SWOT分析の精度は、いかにこの「主観」を排除し、客観的な事実(ファクト)に基づいて分析できるかにかかっています。

1-4.SWOT分析が役立つ場面(いつ使うか)

SWOT分析は、以下のようなビジネスの様々な場面で活用できる汎用性の高いフレームワークです。

  • 新規事業の立ち上げ

新しい市場に参入する際、市場の「機会」(ニーズやトレンド)や「脅威」(競合、規制など)を把握することは不可欠です。同時に、自社が持つリソースの「強み」をどう活かし、「弱み」(例:認知度のなさ、リソース不足)をどう補うかを明確にする必要があります。SWOT分析は、これら4つの視点から参入戦略の妥当性を評価し、成功確率を高めるための土台となります。

  • 既存事業のテコ入れ、戦略見直し

売上低迷や市場シェアの低下といった課題に直面した際、現状を再評価するためにSWOT分析が役立ちます。

市場環境の変化(脅威)や自社の「弱み」が業績悪化の原因となっていないか、逆に見落としている「機会」や活用できていない「強み」がないかを確認します。これにより、リソースの再配分や戦略の軌道修正を行うための具体的な方向性を見定められます。

  • マーケティング戦略の策定

「誰に、何を、どのように売るか」を決める上で、SWOT分析は中心的な役割を果たします。自社の「強み」を活かし、市場の「機会」を捉えるようなプロモーションを設計したり、競合の攻勢(脅威)に対して自社の「強み」で対抗したりするなど、効果的なマーケティング活動の基盤となります。

  • 新商品の開発、市場投入

新商品を開発する際、それが市場のニーズ(機会)に応えるものか、競合(脅威)とどう差別化するかを明確にする必要があります。また、自社の技術力(強み)を最大限に活かせるか、既存の販売網(弱み)で対応可能かといった内部環境も分析します。

これらの情報を整理することで、市場投入の成功確率を高めるための戦略を具体化できます。

  • 経営計画や事業計画の策定

中長期的な会社の方向性を定める際、SWOT分析は客観的な現状認識の土台となります。外部環境の「機会」と「脅威」を予測し、それに対して自社の「強み」と「弱み」をどう対応させていくかをクロスSWOT分析で検討します。

これにより、リソース(ヒト・モノ・カネ)をどの分野に集中すべきかという、根拠のある計画を立てることが可能になります。

  • 競合他社との差別化戦略

競争が激しい市場で自社が選ばれる理由を明確にするために用います。競合と比較して優れている点(強み)と劣っている点(弱み)を客観的に把握し、自社の「強み」を活かして競合の「弱み」を突く戦略や、競合の攻勢(脅威)を回避するなど、独自の立ち位置(ポジショニング)を確立するための戦略を導き出します。

2.SWOT分析の基本:4つの要素

SWOT分析のS(強み)・W(弱み)・O(機会)・T(脅威)の4つの要素は、分析対象の「内部環境」か「外部環境」か、それが「プラス要因」か「マイナス要因」かという2つの軸で分けられます。

これらは以下のようにマトリックス(表)で整理します。

PLUS+ プラス要因
MINUS− マイナス要因
内部要因
Internal
コントロール可能

Strengths (強み)

目標達成に貢献する組織の特長

  • 他社より優れている技術・ノウハウは?
  • 競争力のある独自の価値は?
  • 活用できる豊富なリソースは?

Weaknesses (弱み)

目標達成の障害となる組織の特長

  • 他社より劣っている点や不足要素は?
  • 業務効率が悪い要因は?
  • コスト増や作業負荷の要因とは?
外部要因
External
コントロール不可能

Opportunities (機会)

追い風となる外部環境の変化

  • 市場の伸びや新しいトレンドとは?
  • 顧客の新しいニーズは?
  • 自社が参入できる新たなチャンスは?

Threats (脅威)

向かい風となる外部環境の変化

  • 競業の増加や競争激化の要因は?
  • 市場縮小や価格低下のリスクは?
  • 法規制や外部環境の変化による影響は?

2-1.内部環境(自社でコントロール可能な要因)

「内部環境」とは、自社の企業努力やリソース配分によって、比較的コントロールが可能な要因を指します。

  • S:Strength(強み)
    目標達成においてプラスに作用する、自社特有の資産、リソース、または能力です 。他社と比較して優位性を持つ点がこれにあたります。

(例:高い技術力、ブランドの認知度、優秀な人材、強固な顧客基盤、コスト競争力)

  • W:Weakness(弱み)
    目標達成の妨げとなる、自社が抱える弱点や課題です。他社と比較して劣っている点がこれにあたります。

(例:認知度の低さ、リソース(人・モノ・金)の不足、非効率な業務プロセス、立地条件の悪さ

2-2.外部環境(自社でコントロール困難な要因)

「外部環境」とは、自社の努力だけではコントロールが難しい、市場や社会、競合などの要因を指します。

  • O:Opportunity(機会)
    目標達成を後押しする、外部の動向やトレンドを指します 。これらを上手く利用することで、ビジネスチャンスを創出できます。

(例:市場の拡大、法規制の緩和、競合の撤退、新しい技術の出現、消費者ニーズの変化)

  • T:Threat(脅威)
    自社の目標達成のマイナスとなる、外部の障害やリスクのことです 。これらに対応できないと、事業の存続が危うくなる可能性もあります。

(例:強力な競合の参入、景気後退、規制強化、技術の陳腐化、代替品の登場)

(補足)「強み」と「機会」、「弱み」と「脅威」を混同しないためのポイント

SWOT分析を行う上で、初心者が最も陥りやすい誤りは、「内部環境」の要因と「外部環境」の要因を取り違えてしまうことです。

  • 「強み」と「機会」の違い
    • 強み (S):自社が持っているプラス要因。(例:自社の技術力が高い)
    • 機会 (O):外部で起きているプラス要因。(例:市場が急成長している)
  • 「弱み」と「脅威」の違い
    • 弱み (W):自社が抱えているマイナス要因。(例:自社の営業リソースが不足している)
    • 脅威 (T):外部で起きているマイナス要因。(例:競合他社が大規模な投資を行った)

見分けるポイントは、「それは自社の努力で直接コントロールできるか?」で判断することです。「技術力を高める」ことは自社でできますが、「市場を成長させる」ことは自社だけではできません。

3.SWOT分析の実践:やり方と手順

4つの要素を理解したら、次はいよいよ実践です。目的を明確にし、正しい手順を踏むことで、初めて具体的な戦略立案に役立つ強力なツールとなります。

SWOT分析は、一般的に以下の5つのステップで進めます。

STEP
1

目的の明確化

何のために分析する?

  • 目的が曖昧だと分析が発散しやすい
  • 「売上向上」「課題の整理」「新規事業の方向性」など具体的に設定
STEP
2

情報収集

思い込みを排除

  • 外部:市場、競合、技術、法規制(PEST分析など)
  • 内部:組織の強み、弱み、実績、課題
  • 一次データ(アンケート・ヒアリング)も有効
STEP
3

4要素の洗い出し

S・W・O・Tへの分類

  • 目的に照らして整理
  • ポジティブ要素=S・O
  • ネガティブ要素=W・T
  • 「それは本当に強み?弱み?」と問い直す
STEP
4

整理と確認

マトリクスへの落とし込み

  • 全体を俯瞰してバランス確認
  • 重複・漏れ・曖昧な表現を調整
  • 客観的視点でレビュー
STEP
5

戦略の策定

クロスSWOT分析へ

  • S × O:攻めの戦略
  • S × T:強みでリスクを回避
  • W × O:弱み克服の機会活用
  • W × T:守りの戦略(最小化)

3-1.ステップ1:目的(KGI/KPI)の明確化(何のために分析するかを決める)

まず最初に、「何のためにSWOT分析を行うのか」という目的を明確にします。ここが曖昧なまま進めると、分析が発散してしまい、役に立たない結果になりがちです。

3-2.ステップ2:情報収集(客観的なファクトを集める)

分析の精度は、どれだけ「客観的な事実(ファクト)」を集められるかで決まります。

「~だと思う」「きっと~だろう」といった主観や思い込みをできるだけ排除し、データに基づいた情報を収集することが重要です。

  • 外部環境の分析手法:
    市場調査レポート、業界ニュース、統計データ、競合他社のIR情報、PEST分析(政治・経済・社会・技術)の結果などを活用します。
  • 内部環境の分析手法:
    財務データ、販売実績データ、業務フロー図、そして「顧客の声」や「従業員の声」などが該当します。

3-3.ステップ3:4要素(S, W, O, T)の洗い出し

ステップ2で集めた「事実」を、ステップ1で設定した「目的」に照らし合わせながら、「S:強み」「W:弱み」「O:機会」「T:脅威」の4つに分類していきます。

  • S/W(強み・弱み)を洗い出す視点:
    「競合他社と比較してどうか?」という視点が不可欠です。自社だけを見て「これが強みだ」と判断するのではなく、あくまで他社と比べた優位性・劣位性を判断します。
  • O/T(機会・脅威)を洗い出す視点:
    「その外部環境の変化は、自社にとってプラスかマイナスか?」という視点で分類します。

3-4.ステップ4:マトリックスへの整理と確認

洗い出した要素を、先ほど紹介した4象限のマトリックスに整理します。

全体像を俯瞰することで、要素の漏れや重複、分類の間違い(例:「強み」と「機会」の混同)がないかを確認します。

3-5.ステップ5:戦略の策定(次の「クロスSWOT分析」へ)

要素を整理して終わりではありません。この分析結果(S, W, O, T)を組み合わせて、「では、具体的に何をすべきか?」という戦略を導き出します。この手法を「クロスSWOT分析」と呼び、以下で詳しく解説します。

4.分析の活用:クロスSWOT分析と戦略立案

SWOT分析は、4つの要素(S、W、O、T)を洗い出して終わりではありません。重要なのは、それらの情報を「どのように戦略に結びつけるか」です。この「結びつける」作業を体系的に行う方法が「クロスSWOT分析(TOWS分析)」です。

4-1.クロスSWOT分析(TOWS分析)とは

クロスSWOT分析(またはTOWS分析)とは、SWOT分析で洗い出した4つの要素を「掛け合わせる」ことで、具体的な戦略オプションを導き出すためのフレームワークです。

「強み」と「機会」をどう結び付けるか、「弱み」と「脅威」が重なった場合のリスクは何か、といったように各要素をクロスさせて思考することで、現状を多角的に分析し、戦略を具体化することが可能になります。

4-2.クロスSWOT分析のやり方と4つの戦略

クロスSWOT分析を用いることで、下記に示す4種類の戦略的な方向性を導き出すことができます。

Strengths
(強み)
Weaknesses
(弱み)
Opportunities
(機会)

SO戦略 積極化戦略

強みを活かして、機会を最大限に利用する「攻め」の戦略

例:高い技術力(S)を、成長市場(O)向けの新商品開発に投入する

WO戦略 改善戦略

機会を掴むために、弱みを克服・補強する戦略

例:市場ニーズ(O)に対応するため、EC立ち上げで販促(W)を補完

Threats
(脅威)

ST戦略 差別化戦略

強みを活かして、脅威を回避・無力化する戦略

例:ブランド力(S)で、価格競争という脅威(T)に対抗する

WT戦略 防衛・撤退戦略

最悪の事態を回避するための「守り」の戦略

例:技術革新(T)が進む市場から一時撤退し、体制の立て直し(W)

  • SO戦略(強み × 機会):積極化戦略

自社が持つ「強み」を用いて、市場の「機会」を最大限に利用するアプローチです。最も優先してリソースを投入すべき「攻め」の戦略と位置づけられます。

(例:自社の高い技術(強み)を、成長している市場(機会)に向けた新商品開発に投下する

  • ST戦略(強み × 脅威):差別化戦略

自社の「強み」を活かして、外部の「脅威」を回避または無力化する戦略です。

(例:ブランド力(強み)を武器に、競合他社の安価な攻勢(脅威)に対抗する)

  • WO戦略(弱み × 機会):改善戦略(弱点克服戦略)

市場に存在する「機会」を掴むために、自社が抱える「弱み」の克服や補強を目指す戦略です。

(例:市場のニーズ(機会)に対応するため、弱点である販売網(弱み)を補うべくECを立ち上げる)

  • WT戦略(弱み × 脅威):防衛戦略(致命傷回避・撤退戦略)

自社の「弱み」が外部からの「脅威」と重なることで生じ得る、最悪の状況を回避するための「守り」の戦略です。事業の縮小や撤退といった判断も含まれます。

(例:急速な技術革新(脅威)に自社の開発力(弱み)が追いつかないため、その事業からは手を引く)

これらの戦略オプションを洗い出し、自社のリソースや目的に照らし合わせて、最も効果的な戦略を選択・実行していくことがゴールとなります。

5.SWOT分析の精度を高める「客観的データ」の集め方

ここまでのステップで現状把握のためのSWOT分析と戦略策定のためのクロスSWOT分析の「やり方」は分かりましたが、分析の「質」は何で決まるのでしょうか。それは、分析の材料となる「情報の精度」です。

5-1.SWOT分析が失敗する最大の原因=「主観」と「思い込み」

例えば、「我が社の強みは、手厚い顧客サポートだ」と経営陣が考えていても、顧客がそれを評価していなければ、それは「強み」ではなく「自己満足」かもしれません。 また、「この機能は弱い」と社内で思われていても、顧客が全く気にしていなければ、それは「弱み」ですらない可能性があります。

このように、会議室の中だけで考えられたSWOT分析は、現実とかけ離れた「空論」となりがちで、その後の戦略立案の方向性まで誤らせてしまう危険があります。

5-2.環境分析のフレームワークから4象限の要素を検討する

SWOT分析の主観や思い込みを排除するためには、外部環境と内部環境についてより客観的に評価する必要があります。環境分析のためのフレームワークを補完的に使うことでSWOT分析の精度をより高めることができます。

環境分析の代表的なフレームワークとしては以下のようなものがあります。

PEST分析(外部環境:O・T)

PEST分析
マクロ環境(外部)

自社を取り巻くマクロな外部環境要因を把握するフレームワーク

PPolitics(政治)
EEconomy(経済)
SSociety(社会)
TTechnology(技術)

自社を取り巻くマクロ環境(外部環境)を分析する手法です。Politics(政治・法律)、Economy(経済)、Society(社会・文化)、Technology(技術)の4つの側面から、中長期的に自社へ影響を与える可能性のある要因を洗い出します。

これらは自社でコントロール困難な要因であり、法規制の緩和(機会)や、景気後退による市場縮小(脅威)など、SWOT分析における「機会」と「脅威」を発見するために役立ちます。

3C分析(内部環境・外部環境:S・W・O・T)

3C分析
市場環境(外部・内部)

市場に関わる3者の関係性から成功要因を導き出すフレームワーク

Customer
(市場・顧客)
Company
(自社)
Competitor
(競合)

Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の3つの視点から環境を分析する手法です。市場・顧客のニーズや変化(機会)、競合の動向(脅威)といった外部環境と、それらに対応できる自社のリソース(強み・弱み)という内部環境を同時に分析します。

SWOT分析の4要素すべてのインプット情報を網羅的に収集・整理するのに適しており、戦略立案の土台となります。

5フォース分析(外部環境:O・T)

5フォース分析
業界環境(外部)

業界の収益性を決める5つの競争要因を分析する

新規参入者
買い手
競合他社(中心)
売り手
代替品

業界内の競争環境を分析する手法です。①新規参入の脅威、②代替品の脅威、③買い手の交渉力、④売り手の交渉力、⑤既存競合他社との敵対関係、という5つの力(フォース)が、その業界の収益性や魅力度にどう影響しているかを評価します。

主に業界構造からもたらされる「脅威」を体系的に特定すると同時に、競争が緩やかな領域(機会)を見つけ出すためにも用いられます。

VRIO分析(内部環境:S・W)

VRIO分析
内部環境(内部)

経営資源の競争優位性を4つの問いで評価するフレームワーク

V
Value
(価値)
R
Rarity
(希少性)
I
Imitability
(模倣困難性)
O
Organization
(組織)

自社の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報など)が、持続的な競争優位の源泉となる「真の強み」かどうかを評価する手法です。その資源がValue(経済的価値)、Rarity(希少性)、Imitability(模倣困難性)、Organization(組織)の4つの問いを満たしているかを分析します。

これにより、単なる「特徴」と、競合が容易に真似できない「強み」を客観的に区別し、SWOT分析の「強み」の精度を高めます。

5-3.客観的な「声」を集めるアンケートの活用

上記の環境分析のためのフレームワークは、マクロ環境や業界構造(機会・脅威)を客観的に把握する上で非常に有効です。

しかし、SWOT分析で最も主観が入りやすく、失敗の原因となりがちな内部環境(強み・弱み)の評価(例えば、「自社の強みは本当に顧客に評価されているか?」「社内で課題視されている点は、本当に弱みなのか?」といった問い)に対しては、十分な答えを与えてくれません。

この「社内の思い込み」と「市場の現実」とのギャップを埋める最も強力な手段が、顧客や従業員といったステークホルダーから「直接、客観的な声(データ)」を集める、アンケートの実施です。

  • 顧客アンケート

顧客が自社の商品・サービスを選んだ「本当の理由」(=強み)や、感じている不満・課題(=弱み)、そしてまだ満たされていない潜在的なニーズ(=機会)を直接的に明らかにします 。これにより、SWOT分析の「S」「W」「O」の精度を劇的に高めることが可能です。

  • 従業員満足度(ES)調査

日々現場で顧客と接し、業務を行っている従業員だからこそ気づいている「非効率なプロセスや社内の課題」(=弱み)や、経営層が見落としている「組織風土や技術」(=隠れた強み)を可視化できます。

これら第三者の「生の声」こそが、SWOT分析を「感覚」から「事実」へと昇華させるための最も重要なインプット情報となります。

5-4.セルフ型アンケートツールで手軽に「ファクト」を集める

「アンケート調査はコストと時間がかかる」「専門的なノウハウがない」といったハードルを感じる企業は少なくありません。しかし、変化の速い市場環境において、分析に時間をかけすぎては、せっかくの「機会」を逃すことにもなりかねません。

そこでおすすめしたいのが、「セルフ型アンケートツール」の活用です。アンケートの設計から調査・分析までを自社内で簡潔できるセルフ型アンケートツールは、調査の専門家でなくても、直感的な操作でアンケートの作成から配信、さらには回答の自動集計やグラフ化までをワンストップで行えるよう設計されています。

従来の調査手法に比べて安価かつスピーディーに、SWOT分析に必要な「客観的なファクト」を収集できるため、SWOT分析の限界点である「分析が古くなりやすい」という課題への対策としても有効です。

会議室の中の「思い込み」を排除し、事実に基づいた戦略を立案するために、セルフ型アンケートツールは現代のビジネスにおいて強力な武器となります。

6.SWOT分析に関するQ&A

SWOT分析に関してよく寄せられる質問にお答えします。

  • Q. 「強み」と「機会」の違いがわかりません。
    • A. 「強み」は自社が持つ内部的な要因(例:技術力がある)、「機会」は外部の環境的な要因(例:市場が伸びている)です。「強み」はコントロール可能、「機会」はコントロール不可能(だが活用できる)と区別すると分かりやすいです。
  • Q. 要因がたくさん出すぎてまとまりません。
    • A. まずは目的を明確にすることが重要です。その目的に関連する重要な要因に絞り込み、優先順位をつけましょう。
  • Q. 分析がどうしても主観的になってしまいます。
    • A. 本記事の4章で解説した通り、アンケートなどを活用して「顧客」や「従業員」といった第三者の客観的な視点(データ)を取り入れることが最も効果的です。
  • Q. SWOT分析をチームで行うと、意見がバラバラになってしまいます。どうすればよいですか?
    • A. SWOT分析は“多様な視点”を集めることが目的ですが、議論が拡散してしまうと戦略が曖昧になります。意見を集める前に「分析の目的(何を決めたいのか)」と「評価基準(どんな視点で強み・弱みを判断するのか)」を共有しておくことが重要です。
  • Q. 中小企業や個人事業主など、リソースが限られる場合のSWOT分析の活用法は?
    • A.「強み×機会」に全リソースを集中させる:全てをやるのは不可能です。自社の核となる強みを最大限に活かせる機会に、人的資源・資金・時間のほとんどを投入する方針を立てます。
    • A.「弱み」は「克服」より「対策」で考える:例えば「資金力不足(弱み)」に対して、いきなり資金を増やすのは困難です。代わりに「クラウドファンディングで資金調達する(脅威への対策かつ機会の創出)」「業務委託で固定費を変動費化する」など、リソースを必要としない「対策」を考えます。

7.まとめ

本記事では、戦略立案の基礎となるSWOT分析について、その定義からやり方、そして分析の精度を高める方法までを網羅的に解説しました。

SWOT分析は、単に4つのマスを埋める作業ではありません。その成功は、いかに「主観」や「思い込み」を排除し、「客観的な事実(ファクト)」に基づいて自社の置かれた状況を正確に把握できるかにかかっています。

「自社の強みは本当に顧客に評価されているのか?」この問いにデータで答えられない限り、その後の戦略は砂上の楼閣になりかねません。

事実に基づいた精度の高いSWOT分析を行うための第一歩は、現状を客観的に知ることです。まずは「セルフ型アンケートツール」などを活用して、SWOT分析のインプットとなる「顧客の声」や「従業員の声」を集めてみることから始めてはいかがでしょうか。