マーケティングリサーチ業界とは 調査会社大手3社に見る業界のこれから
マーケティングリサーチ(市場調査)は調査対象とする領域や収集する情報の種類、調査手法が広範囲にわたり、それぞれの得意分野や特徴を持つさまざまな企業が調査サービスを提供しています。
業界団体である一般社団法人日本マーケティング・リサーチ協会の会員企業が業界を構成する主要なプレーヤーですが、デジタル技術によるデータを活用したマーケティング手法を手掛ける企業の参入も進み、業界の規模は徐々に拡大しています。
マーケティングリサーチ業界の大手3社に着目し、市場調査の内容の変化や業界の今後について解説します。
マーケティングリサーチ(市場調査)業界とプレーヤーについて
事業会社や広告代理店、シンクタンク、コンサルティングファームなどをクライアントとして、さまざまなデータを収集・分析して得られたインサイトを提供するのがマーケティングリサーチ会社です。
クライアントという点では政府統計などの公共セクターの調査をメインに手掛けるリサーチ会社もあります。
国内のマーケティングリサーチ会社は、製造業の生産管理や世論調査に用いる統計分析をもとに発展してきた経緯があり、その流れを汲むリサーチ会社や業界調査を中心に手掛ける調査会社に業歴の長い企業が多く存在します。
また、調査パネルを使ったインターネット調査が2000年代以降に急速に普及したことから、現在ではネット調査を中心に手掛ける企業がマーケティングリサーチ業界の主流を担っています。
日本マーケティング・リサーチ協会によると、2021年の業界の市場規模は2,357億円、会員企業のうち売上高20億円台未満の企業が80%※を占めており、多数の中小規模の企業によって構成されているのがマーケティングリサーチ業界です。
※一般社団法人日本マーケティング・リサーチ協会「第46回経営業務実態調査」
マーケティングリサーチ大手3社の概要
マーケティングリサーチ業界のなかで大手とされているのが、クロス・マーケティング、インテージホールディングス、マクロミルの3社です。中小規模の企業が多い業界にあって、いずれもプライム市場に上場しています。
それぞれの過去5年間の売上高と営業利益率の推移は以下のようになっています。
大手3社で売上規模の最も大きいのがインテージホールディングスです。一方、過去5年間の成長率を見ると、クロス・マーケティンググループが高い割合を示しています。同社のIR資料によると、IT関連事業の売上が貢献していることとM&Aの効果によるものと説明されています。
クロス・マーケティンググループ
クロス・マーケティングは創業が2003年と、ネットリサーチに参入した企業のなかでは後発といえるリサーチ会社です。そのなかで、既存の市場調査会社から調査パネルを対象とするアンケート調査を受注するというビジネスモデルで成長を遂げてきました。
750万人を超える利用可能な調査パネル数は国内では最大規模であり、国内に限ってみれば、マクロミルやインテージのパネルネットワークと比較して群を抜いています。
クロス・マーケティンググループには3つの事業領域があります。
ネットリサーチによるデータマーケティング事業、オフラインで行われる従来型のマーケティングリサーチを行うインサイト事業、ECサイト「モラタメ.net」「テンタメ!」によるメディアサービス、登録パネルに対するプロモーションサービス、ITソリューションサービスを行うデジタルマーケティング事業の3つです。
提供サービス一覧
アンケート調査 | ネットリサーチ、LINEリサーチ、QiQUMO(セルフ型アンケート)会場調査、ホームユーステスト、郵送調査、電話調査、訪問調査、街頭調査、店頭調査、リクルーティング、グループインタビュー・デプスインタビュー、オンラインインタビュー、ライトインタビュー、ホームビジット、海外調査、訪日外国人調査、在日外国人調査など | |
データマーケティング | ジャーニーデータ分析 | 顧客データの統合と可視化 |
CrossTrace | サイト訪問者の実態を分析 | |
BI活用コンサルティング | BIツールの活用支援 | |
CrossData | クラウド型BIツール | |
デジタルマーケティングリサーチ | カスタマープロファイリングラボ | 戦略におけるターゲットの明確化 |
Polaris | マーケティング施策効果のROI評価 | |
CrossData | 企業データ、調査データの可視化支援 | |
Vift | 動画広告のブランドリフト効果測定 | |
Brand Trend Scope | TVCMの効果を可視化 | |
Creative Search | 動画のクリエイティブ評価 | |
Dipper | 調査パネル属性を活用したデジタル広告シミュレータ | |
3C → A | 自社・競合サイト・ユーザーの調査分析 | |
Usability Review | 自社サイトのUI/UXの評価 | |
Ax | 流入からCVまでのCX評価 | |
ソーシャルメディアCompass | SNS分析によるイメージ調査 |
インテージホールディングス
インテージはマーケティングリサーチ大手3社のなかでは、ネットリサーチが主流となる以前からパネルの組織化に取り組み、生活者視点のマーケティングソリューションを提供してきたリサーチ会社です。
創業は1960年、大手製薬会社エーザイが米国のACニールセンが行っていたパネル調査のビジネスモデルを国内に導入することを目的に、市場調査を専門に行う第三者機関として設立されたのが同社の成り立ちです。
エーザイとの間にグループ関係はありません。創業間もない時点からデータの蓄積と分析のために大型コンピュータへの投資を行い、マーケティングリサーチのシステム産業化の道筋を開いた企業でもあります。
インターネットが普及する以前の創業当初から消費者パネルの組織化を図るなど、データ収集の基盤を構築してきた点が同社の強みとなっています。
パネルにバーコードスキャナを配布し、購入商品のバーコードを読み取ることで購買行動を調査するSCI(全国消費者パネル)やスーパーやドラッグストアなどの販売状況をPOSデータから収集するSRI+(全国小売店パネル)などが代表的なものです。
提供サービス一覧
市場機会の特定 | SCIターゲットセグメント | 3C視点での市場分析、STP分析 |
コンセプト策定 | デ・サインリサーチ | データ・リサーチを活用したコンセプト策定支援 |
商品・サービス開発 | i-Mesh | パッケージや広告クリエイティブの反応評価 |
インテージ新商品需要予測ソリューション | 新商品の購入意向スコアをモデル化し売上を予測 | |
広告・メディアプランニング | ターゲット・メディア・プロファイリングレポート | ターゲットのコンテンツ視聴をまとめたレポート |
広告クリエイティブ評価 Ad Compass | 広告効果の定量化と訴求効果を評価 | |
販売・流通プランニング | インテージコグニティブ・インタビューショッパー・エクスペリエンス | コグニティブインタビュー手法を活用した購入プロセスの解明 |
プロモーション実行 | di-PiNK | docomoの保有データを取り込むことによる生活者インサイトの可視化 |
Genometrics Connect | 購買データを元にしたOne to Oneマーケティング支援 | |
マーケティング効果測定 | インテージ価格分析ソリューション | 価格施策視点によるブランド診断 |
マルチタッチアトリビューション/MTA | マーケティングの投資効果評価 | |
ブランド診断・顧客満足度測定 | JCSI(日本版顧客満足度指数) | JCSIを活用したコンサルティング |
ブランド・リレーションシップ調査 | ブランド関与の視点からブランド・マネジメントを支援 | |
マーケティングPDCA管理 | ビジョン・オリエンテッド・コンサルティングサービス | ビジョン・戦略策定からマーケティングマネジメントまでを支援 |
マクロミル
現在の形のネットリサーチが普及する先駆けとなったのがマクロミルです。2000年に設立された当初はアンケート調査に価格破壊を起こしたベンチャー企業として注目を集めました。以降、ネットリサーチのリーダー的な存在として、高収益・高成長を実現してきたリサーチ会社です。
近年ではデジタルデータ分析とコンサルティング領域を強化し、従来のリサーチ事業とデータ提供事業に加えて、データ利活用支援事業とマーケティング施策支援事業に事業の幅を拡大、「総合マーケティング支援企業」への事業モデルの転換を図っています。
提供サービス一覧
インターネットリサーチ | モニタ会員向け調査 | QuickMill(スタンダード)OrderMill(オーダーメイド) |
顧客リスト、従業員向け調査(オープンリサーチ) | OpenMill(不特定多数向け)OpenMill MYリスト(個別URL発行)AIRsMEMBERS(セルフアンケートシステム) | |
セルフ型リサーチ | Questant | 定量調査向け |
ミルトーク | 定性調査向け | |
デジタル広告ソリューション | Macromill Ads | ストラテジックプランニングプロモーション施策制作効果測定 |
オープンリサーチ | 顧客リストや従業員を対象にしたリサーチ | OpenMill(不特定多数向け)OpenMill MYリスト(個別URL発行)郵送調査AIRsMEMBERS(セルフアンケートシステム) |
デジタルマーケティングリサーチ | 調査パネルのログデータを活用したリサーチ | AccessMill(デジタルログリサーチ)ブランディングKPI継続調査millBoard(リサーチダッシュボード)OTS(テレビ視聴実態リサーチ) |
コンサルティング | グループ会社エイトハンドレッドによりマーケティングリサーチコンサルティング | |
オフラインリサーチ | 定性調査 | インタビュー調査(FGI / DI)会場調査(CLT)ホームユーステスト(HUT)IT ✕ オフライン調査視線データ定量分析 |
データ分析・解析 | D-Profile | AIプロファイルサービス |
causal analysis for Macromill | 因果分析ソリューション | |
ニューロリサーチ | 脳波などの生理データと主観、行動指標を組合せて分析 | 共感度測定 |
データベースリサーチ | 消費者購買履歴データ | QPR |
個人支出調査サービス | MHS | |
ライフスタイル分析 | bdb | |
スマホアプリ利用実態把握 | A-cube |
主要企業に見る業界の今後
マーケティングリサーチ大手3社のサービス内容を見てみると、従来型の市場調査からデジタルやDXをキワードとしたマーケティングの高度化に対応する事業領域にシフトしてきています。
マーケティング環境の変化に呼応する形で、従来のリサーチ業界の産業セグメントを「インサイト産業」として定義しなおすことが進められており、日本マーケティングリサーチ協会から、その推計市場規模が従来の1.5倍に達するといった見方が示されています。
企業内フィードバックシステムやMarTech(デジタルデータ分析)などデジタル技術主導のリサーチ会社の参入も増加しており、業界構造にも変化の兆しが見られます。