マーケティングリサーチで調査すべき対象・方法・内容とは

マーケティングリサーチの全体像を理解する上で欠かせない情報源とその活用方法

マーケティングリサーチがカバーする領域は幅広く、その対象・方法・内容は多岐にわたります。リサーチャーには、必要な情報の性質を理解した上で、それぞれの情報をどこから入手するか、また、得られた情報をどう活用すべきなのかという知見と判断が求められます。

マーケティングリサーチの全体像を理解する上で欠かせない情報源とその活用方法についてご紹介します。

マーケティングリサーチの範囲

マーケティングは、時代の移り変わりとともに製品志向 → 販売志向 → 顧客志向 → 社会志向とそのコンセプトを拡張させ、それに伴いマーケティングはよりマネジリアルな(経営視点から管理する)ものに変わってきています。

マーケティング施策(諸活動)の対象となるのは製品・価格・流通・プロモーションの4Pの各要素です。その意思決定に関わる情報を収集することがマーケティングリサーチの役割であり、マーケティングリサーチで収集する情報の内容が4C(顧客価値・コスト・利便性・コミュニケーション)であるといえます。

また、近年では4P、4Cに代わる考え方として4Aというフレームワークも提唱されています。

【4A】

受容可能性 / 魅力(Acceptability /Attractiveness)商品やサービスのもたらす価値が顧客に受け入れられるものか。顧客の経済的・心理的価値を満たすものであるかどうか。
入手可能性(Availavility)購入機会を提供できるか。購入に至る経路の利便性や時間・コスト負担を低減できるか。
購買可能性(Affordability)支払う価格が経済的・心理的価値に見合うかどうか。競合品との比較ではなく、値ごろ感に納得性があるかどうか。
知覚可能性 / 買う理由(Awareness / Appeal)顧客が商品やサービスを知覚し、購買に至るきっかけ・理由・意味付けを見いだせるかどうか。
4Aのフレームワーク

企業視点の4Pに対し顧客視点の4Cが登場し、さらに4Cの考え方を広げたものが4Aと捉えることができます。これらのフレームワークはいずれかを採用すべきというものではなく、考え方の切り口として参照するものです。

マーケティングが対象とする範囲である4Pを前提として、4C、4Aに関わる情報がマーケティングリサーチによってカバーされる範囲となります。

4Pや4Cなど(=マーケティングミックス)とアンケート調査の関係についてさらに知りたい方は、こちらの記事「マーケティングミックスの視点から調査目的に応じたアンケート調査の種類を紹介」をご覧ください。

マーケティングリサーチで調査の対象とする情報の種類

マーケティングリサーチの一般的なイメージとして、アンケート調査をはじめとする消費者を対象とした調査活動が広く認識されています。

マーケティング課題は消費者から直接得られる情報によって解決されるものばかりではなく、むしろ環境分析をはじめとする2次情報を分析した結果から、消費者調査へのアプローチ方法を検討するほうが効果的かつ効率的です。

内部データ(社内情報)

販売データや顧客情報をはじめとし、営業部門や顧客窓口によせられるVOC(顧客からの声)、自社サイトへのアクセスログなど、顧客とのやり取りに関わるすべての情報がマーケティングリサーチが対象とする内部データと考えることができます。

また、内部データはマーケティングリサーチが対象とする情報であると同時に、マーケティング課題が提起される起点となる情報源でもあります。

マーケティングリサーチが対象とする情報源のなかでは入手しやすいものであり、調査活動を行うための前提と位置づけられるため、外部に情報を求める前に幅広く集めておきたい情報の種類です。

オープンデータ(2次情報)

マーケティングリサーチでは、2次情報として入手できる範囲の公開情報を収集することも行います。PEST、3Cなどの環境分析を行う際に必要となる情報源です。

政府や自治体の統計情報や業界紙、業界団体資料などからは、市場全体に関わる情報を広く集めることができるほか、IR情報や帝国データバンクなどのシンジケートデータは競合分析を行う際に必要とされる情報源です。

そのほかにも、出版物や学術論文、Webサイトから探索的に情報収集を行うことで、気づかなかったインサイトや課題解決につながる糸口、マーケティングリサーチの方向性を見いだすことにつながります。

また、提起されるマーケティング課題は、他で既に解決されたものであることも少なくなく、完全に同様なケースではなくても類似のケーススタディを行うことで解決に近づくこともあります。

マーケティングリサーチを企画する際に最初に行うのがデスクサーチと呼ばれる2次情報の収集です。既にある情報との重複を避けるためにも、この段階でマーケティング課題に関わる要素や仮説につながる情報を十分に把握しておくことが重要です。

【2次情報の入手先】
政府・自治体の統計情報、新聞記事、業界紙、一般雑誌記事、専門誌記事、業界団体資料、学術論文、IR情報、シンジケートデータ、Webサイト、SNSログ、など
2次情報の入手先

実査データ(1次情報)

既に第三者がまとめた情報ではなく、マーケティングリサーチのなかで独自に作られる情報が1次データであり、アンケート調査などの実査を行うことで新たに生み出す情報のことを指します。

以下で各手法について解説しますが、1次データの収集方法は、標本調査をはじめとした定量分析を目的とするサーベイ、対話から情報を聞き出すインタビュー、消費行動や購買行動を対象とする観察法、市場や実験室で行う実験法などに大別されます。

それ以外にも、Webサイトのアクセスログ、SNSなどのインターネット上での発言、POSデータと関連付けた販売情報などのパッシブデータ(集まるデータ)を加工することで生成されるデータも1次情報として活用されます。

調査対象による分類

上記で挙げた情報・データについて、誰を対象にどこから集めるという点もマーケティングリサーチを実施する上での重要な視点です。内部情報と2次情報についての所在は明らかなのに対し、1次情報の情報源としては以下のような対象先があります。

消費者・生活者

商品やサービスの需要者である消費者・生活者はマーケティングの対象であり、消費者・生活者を理解することがマーケティングリサーチの大きな目的です。消費者・生活者はマーケティングがフォーカスする消費者層と想定され、消費者・生活者の行動や意識がマーケティングリサーチの主要なテーマのひとつとなります。

顧客

既に商品やサービスとの関与が存在する顧客は、商品やサービスを評価できる対象として消費者・生活者とは区別できます。顧客満足度やVOC(顧客の声)としてフィードバックされる情報を活用することが、商品やサービスの改善につながります。

流通事業者

製造業を中心として流通過程に販売会社や商社、卸売事業者、小売事業者が介在する業界、商品カテゴリでは、これらの事業者もマーケティングの対象となります。

これらの事業者は市場と消費者に近い立場で事業活動を行っており、市場の動向を把握する上で有力な情報源となり得るため、マーケティングリサーチにおいても調査対象に含まれます。

エキスパート(専門家・識者)

新規参入を図る場合など、市場や業界について精通するキーパーソンに情報提供を依頼することもマーケティングリサーチの活動のなかで行われます。

技術的な側面に関わる調査テーマについて大学関係者にヒアリングを行う、業界団体の関係者から市場に関する知見を提供してもらうなど、マーケティングリサーチでは主に定性的なアプローチから情報収集を行います。

それらの情報源から求める情報すべてが手に入るとは限りませんが、近年では、業種や業界、特定の職種の経験者や識者などとの面談を仲介するサービスもあるので、場合によっては情報源として活用できます。

調査手法による分類

マーケティングリサーチで行う調査の手法は量的な分析を行うための定量調査と質的な分析を行うための定性調査に大別されます。

定量調査

アンケート調査などの標本調査、パッシブデータを統計的な手法を用いて分析することなどが定量調査に含まれます。定量調査の主な手法には以下のようなものがあります。

定量調査とは|簡単解説

定量調査とは 定量調査の代表的な例がアンケート調査です。アンケート調査では選択肢による回答を得ることで、調査対象全体のなかで特定の選択肢を選んだ人の数や割合を、…

アンケート調査

消費者・生活者の行動特性や心理的側面を理解すること、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)を行うこと、商品やサービスの受容性を検討することなどを目的に行うのがアンケート調査です。ネットリサーチが主流ですが、ケースによっては訪問調査や郵送調査も用いられます。

満足度調査など顧客を対象として商品やサービスの評価を得る場合の典型的な手法でもあります。

会場テスト(CLT)・ホームユーステスト(HUT)

主に、これから市場に送り出す製品についての事前評価を収集し、改善・改良を目的に行われるのが会場テストホームユーステストです。

試作品・プロトタイプを消費者に試用・試食・試飲してもらうことが調査の内容であり、同一条件のなかで試したい場合には会場テスト、実際の生活の中での使用条件を前提とする場合にはホームユーステストが選択されます。

定量調査に分類していますが、構成的な(項目を設けるなど)評価を数値で把握する場合のほか、試用後に調査対象を集めてグループインタビューを行うなどの調査手法も取られることがあり、その場合は定性情報を収集することになります。

定性調査

事実や事例などを幅広く集める探索的な情報収集を目的に、インタビューや観察による情報を集めるのが定性調査です。定性調査の典型的なものは以下のようなものです。

定性調査とは|簡単解説

定性調査の基礎知識 定性調査は、定量的なデータでは得られない感情や潜在的な意見を収集できる手法です。 定性調査と定量調査では、調査の目的と収集できるデータが異な…

インタビュー・ヒアリング

調査対象と1対1で行うインタビューデプスインタビュー集団で行うものをグループインタビューといいます。アンケートのような非同期のコミュニケーションとは異なり、調査対象の反応に応じて対話することができるため、より幅広い意見や動機、理由などを詳細に聞き取ることができます。

消費者・生活者を対象に母集団を代表する調査対象と面談・対話を行うのがインタビュー、流通事業者や識者から話を聞くケースなど、情報源として必要な知見や情報を提供してもらうための対話がヒアリングです。

観察調査

マーケティングリサーチの手法のひとつとして、ライフスタイルや消費行動、生態的な反応などを対象とし、観察することから情報を得る取り組みも行われます。

商品が生活のなかで実際に使用される場面を直接観察したり映像に記録したりするほか、売り場での歩行動線や視線の観察、アイトラッキング機器を利用した広告への反応などが観察の対象となります。

多様な観点から情報と向き合う

マーケティングリサーチの調査対象は多岐にわたり、求める結果を得るための情報源は消費者を対象とするアンケート調査以外にも幅広く存在します。また、情報源や調査対象をどこに求めるかは相互補完的に捉えることが重要であり、どれかひとつを行えば事足りるというものではありません。

マーケティング課題の本質を解き明かすために、あらゆる角度から情報にアプローチしていくことが重要です。